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第3話 勉強会とは(哲学)

夕方。生徒会がある日では珍しく夕方近くに家まで帰ってこれた俺がリビングに入ると、そこでは3名の女子がキャッキャ言いながら勉強会……という名のゲーム大会を繰り広げていた。お菓子袋が中央に広げられたソファ前のテーブルには、様々な方角から勉強道具が並べれらているものの、そこまで進んだ形跡がない。そして参加者……一人は義妹の氷雨。中学校の制服そのまんまで、ポニーテールも解かずにテレビに夢中。両隣の二人は同級生だろうか。去年までうちに遊びに来ていた子とはまた違う人の秒だ。


「おーい、勉強会はもういいのかー」

「ん~、休憩だよー……ってあれ? おにい、帰ってたんですか。生徒会あるって言ってたのに早いね」

「思ったより早く終わってな。どっかの脳筋どものせいでな」

「へ、へぇ?」


おっと、これは氷雨には関係ないことだった。変なところで愚痴をこぼしてしまった俺は、少し気まずくなり、さっさと目的であった麦茶を取りに冷蔵庫へ。その間にもゲーム内の熱戦は繰り広げられていたようだが、コップにお茶をつぎおわった瞬間に決着がついたようで、テレビには2Pが勝利と表示されていた。


「あ~、またヒサメっちの勝利かぁ~。つよいねぇ~」

「10秒くらいよそ見してたのに……とんでもないでござ……じゃなくて、とんでもないですな」

「おいおい、少しは手加減してやれ」」

「にっしっしー。こういうのは本気でやらないと相手に失礼なのですよー」


勝負は本気でやらないと相手に失礼、か。相変わらず少年誌からの強いインスピレーションを受けたような理論をごろんと床に倒れこみながら話す氷雨は、どこか得意げな表情をしている。隣の少しギャルっぽい子とザ・大和撫子というような女子もこれには苦笑いだ。


「ああ、そういえば紹介してなかったね。この人がわたしのお兄ちゃん。高等部の生徒会の人だよ」

「人って……まあいい。兄の宗一郎だ。妹が世話になっているな」

「いえいえ~。むしろこっちがお世話になっているほうですから~」

「ですな。たまーに教科書とか貸してもらってますからな」


南谷桃子、そして鳳一葉と名乗った二人がこちらに挨拶をしながら氷雨に世話になっていると言ってくれているが……俺からしたら逆にこの人たちにおんぶにだっこされてるんじゃないかと感じる。そこまで成績がいいというわけでもなく、ポンのコツで足が速いのと顔がそこそこいいのが取り柄というのが俺からの氷雨に対する評価。3年前の入学式の時なんて、私服で登校しようとしていた時はものすごく呆れてしまった。


「ん? そういや南谷は聞いたことあるぞ。確か中学生徒会の——」

「そうです。相模大原学園中等部生徒会会長、です。覚えていただいてて感謝感謝です~」

「ああ。多分明々後日の委員会の後に顔合わせの親睦会あると思うから、よろしく」

「はい、こちらこそー。あ、そうだ。その委員会でちょっとご相談したいことが~」


ギャルっぽい見た目から一転、真面目な顔つきになった南谷は、床に放置されていた自分のカバンから何かを取り出すと、これに目を通してくださいと言わんばかりに差し出してくる。ちらっと見てみると、そこには今年度の中等部部活予算表と書かれている。つまるところ、これは——


「その~。中等部の体育会系部活の予算が10万円ほどオーバーしておりましてぇ……」

「そっちもかよ……」

「ということは高等部もですか!?」

「こっちはさらにひどくなって18万だけどな。やれピッチングマシン買いたいだの、サッカーゴール買い替えたいだのと……。まあ、もうこれは生徒会では無理だから教職員にお持ち帰りしていただいたけど」


生徒会はあくまでも学校全体の雑務を生徒代表としてする場所であり自治組織ではない。

責任が取れない範囲のモノは積極的に生徒会顧問にひきとってもらうといい、とアドバイスをすると、彼女は目を輝かせてヘヴィロックのライブかよという勢いで何度も首を縦にブンブン振っていた。


「ヒサメっちのお兄さん、すごいですなぁ。あんな的確にアドバイスするなんて」

「んー、まあおにいは頭いいけどね~。あれでも色々抜けてるよ? あまり人の気遣いとかできるほうじゃないし、器用でもないし。たまーにデリカシーとかないし」

「おうおうおう、色々ボロクソ言ってくれるじゃないか」

「実際そうでしょ」


そうでしょ、と内角直球を投げられると、俺からは返す言葉もない。幼馴染にもたまーにジト目で見られて「そんなんじゃモテないよ」と言われるのは、おそらくそういうことなんだろう。まあ、俺の心にデッドボールを与えてもあんま意味はないんだが。


「んで。最終的にあんま進んでなさそうな勉強会はどうすんだ? もうちょっとで18時だぞ」

「ええっ!? もうそんな時間!?」

「そうだ。あと1時間くらいで親父も帰って来るぞ」

「そんな……たしかゲームは16時くらいからやってたはずだから、2時間も休憩してた……ってこと?」


俺が帰る1時間も前からゲームやってたのかよとツッコミをしたくなる衝動を抑えて、俺は門限もあるだろうからと、南谷と鳳に帰りの時間を問う。しかし、二人ともまだまだ大丈夫なようで、3人は瞬時にテレビを消すと、真っ先にテーブルにそれぞれ置かれたノートとテキストに向かい始めた。


「というかそんな慌てて勉強会って……なんかあったのか?」

「明日、学力テストがあるんですよ~おにい~。そのせいでヒサメちゃんたちは必至なのですよ~」

「そうか。ま、頑張れ」

「おにいのとこだってあるって言ってたじゃん! 勉強しなくていいの!?」


まあ、確かに俺たち高校2年生も明日は新学期の学力テストだ。おそらくは俺や一部の諦めている生徒以外は必死になってボーダーのために勉強しているのであろうが……あいにくと俺はこれを見越して常日頃から予習復習は欠かさずやっている。昼休みにも軽く範囲には目を通しておいたし、この後もその程度をすればなんとかなるだろう。


「いいですよね、おにいは! ヒサメみたいに学問の才能はザ・普通じゃなくて!」

「はいはい、八つ当たりしている暇があったら勉強しろ~」

「くぅー、おにいの鬼! 悪魔! 非モテ!」

「ヒサメっち、お兄さんと仲いいですなー」


今の暴言ラッシュを聞いて仲がいいと取れるのだろうか……まあ、氷雨は目立った反抗期に入ることはなく、いい子であるし、俺たちの仲は良好だ。他のクラスメイトのところは反抗期で「うざい」や「死ね」と言われることがあるそうだが……。


「そうだ、おにい。暇なんだったら勉強教えてよ! ヒサメたちだけで教えあいっこしてもわからないところあるからさー」

「えぇ……まあいいけど。とりあえず部屋に荷物だけ置かせてくれ」

「はーい」


いつも氷雨に勉強を教えようとすると、いつも「難しいことわかんない~」と逃げてしまうが、今は友達の前だし、うちの学校は学力テストにノルマがあって、それを下回ると補講になることもあって必死なのだろう。 


この際だから、日頃逃げられている分みっちり教えてやろうと思い、俺は自分の部屋に荷物を置きに行った。


その後、氷雨たち3人から「鬼! 悪魔! 英語の先生!」と罵られながらも、俺はスパルタ指導で勉強を教えていくのであった、


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