第2話 仕事放棄
文字数合わせですくないYO
その日は、夜遅くまでバイトをしていた。親友の伊賀の実家がやっている和食料理店で臨時のホールスタッフとして雇われた俺は、大企業の宴会が2つ同時に行われるという地獄の環境の中を、まるでコマのようにクルクルとしていた。
「これ、12番の席ね」
「はいよ、2階の6番にこれもってって」
「空いた皿戻してきてー」
「誰かゲロったら通報してくれよー」
俺を含め、合計4人のホールスタッフと、伊賀の家族に加えて緊急招集されたという料理人さんの計8名で、70人以上の客を捌く。宴会が延長されたこともあり、くったくたの俺が帰路につけたのは、23時を回ったころだった。
「畜生……航平め。何か怪しいと思ったらこういうことだったか……給料は割増しすると言われたが、二度とあいつの設け話は聞かんようにせんと……」
足腰に上半身、そして精魂も尽き果てた俺がとぼとぼと歩いて家の近くまでやってきた。丁度交差点に位置する俺の家は少しだけ遠くからでも見ることができる。死にかけの野良猫のような態勢で交差点に着き、ふと上を向くと……
「なんじゃ、ありゃ……」
2階建ての一軒家、紛れもない俺の家の屋根に、一人の少女がいた。黒装束に身を包んでいるのだろうか、街灯の灯りよりも夜の暗さのせいでよく見えないが、髪型が義妹と酷似しているように見える。俺がそのままポカーンとしていると、少女は屋根から違う屋根に飛び移り、そのまま姿をくらませてしまった。
「なんだったんだ……?」
その場で少々困惑するも、最終的に疲れが勝ってしまった俺は素直に玄関へ。寝る前の身支度をして布団に転がったら、5分もしないうちに眠りに落ちてしまった。
それからというもの、俺の周りでは不可思議なことが起こるようになったのは、いうまでもない。
〇 〇 〇
「あーもう! なんでこうもわがまま言ってくるんだ体育会系はっ!」
「まあまあまあ……落ち着くんだ会長。イライラするとその分仕事の仕事の効率が下がるぞ~」
「じゃあそーくんも手伝ってよ! こ・の・書・類・の・山」
「無理に決まってるだろ。こっちはこっちで次の職員会議に使う生徒会からの報告書をまとめてるんだぞ」
「そりゃそうだけどさ~」
翌日。俺は放課後になると生徒会室に籠って淡々と作業を続けていた。名前が宗一郎ということもあり、宗の一番最初の文字「そ」と一が伸ばし棒みたいという理由で「そーくん」と呼ばれる俺に向かい、生徒会長の相川あかねは半ギレで救援要請をしてくる。
俺が所属する生徒会……相模大原学園生徒会、通称“緑陽会”は半ば学校の雑用係に成り下がっている節があった。会社で言えば総務部、他の部署(先生方)の仕事が円滑に進むようにするための組織であり、決して自治組織ではない。
「全くもう、うちはただでさえ欠員なのよ? なのにこの量はおかしくない!?」
「前の代はこれでも楽にしたと言ってたぞ~。文句を言う前に手を動かせ」
「その前に、体育会系の部活の予算どうにかしないと予算オーバーになるよ!?」
「はぁ? ちょっと見せてみろ」
生徒会の俺が言うのもなんだが、うちは県内でも有数、関東で見ても偏差値では上位層に入る進学校だ。文武両道を掲げ、生徒の約8割以上が部活に入っているところではあるものの、それゆえ無茶な部予算の提示など来ることはない。前任の生徒会長もそう言ってたのだが……しかし、今年は違った。
神奈川県大会で去年は準優勝だった野球部は5万円の予算オーバー、春の全国大会出場が
あるサッカー部はグラウンドのゴールを変えるという名目で7万の予算オーバー、バレー部やバスケ部も色々言っており、合計で18万も予算より高い。
「なんじゃこりゃ……一畑に確認取ったんか?」
「ええ。各部活に確認しに行こうとしたけどゴルフ部の部長に威圧されて心がぽっきり折れたらしいわよ」
「あんの筋肉だるまが……」
「やれやれね。あたしがキレてる理由がわかったでしょ?」
ええ、よーくわかりましたとも。どこの部活も去年はちゃんと結果出したからこれくらい出してくれるよねという感じで、すべてにおいて強気に出ている。他の部活の活躍ももちろん知っているだろうが、それでも他の部活はそんなに要求しないだろうから大丈夫と全員が思っているようだ。
しかも厄介なことに、体育会系の部長とか主将って全員めっちゃ頑固なんだよなぁ。
「どーすんだこれ」
「ひとまず、次の職員会議にこれ出しちゃいましょ。あたしたちじゃどうしようもないわ」
「そこまでどうするかを考えるのが俺たちの役目だが……ここまでいくと無理か」
こういう事務作業は、あくまで言われた通りにやることをやるのがコツなのだが……許容範囲を超えるものは弾いて“上”に判断を仰いだ方が後々わだかまりもないだろう。
割り切るのも大事と考えた俺たちは、体育会系部活の予算票の仕事を放棄することにした。