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第16話 ヒサメちゃんと暗殺者 後編

あの後、おにいと事務所のみんなでひかり先輩を落ち着かせて気を紛らわせたあとで、私たちは車で家に送ってもらった。元々はシャワーを借りにいっただけなのに、なんか知らない間に大事に巻き込まれたなぁ、って感じ。おにいは「やっぱり本当に天敵なんじゃ……」とつぶやいていた。だから早く帰りたさそうにしてたんだ。


ただ、今回の事件には少し興味……ではないが、気になるところがあった。具体的には、私が今追っている事件の犯人が関わっているかもしれないって感じ。実は聞いている手口とおんなじなんですよねぇ。同時に複数の違う文体のようなもので脅迫文を送りつけて脅すってところとか特に。今回も同時に複数人からって言ってたし、多分文体が全部血がttのだろう。


その件はとある人たちから頼まれて調べていることだったか、私は依頼と報告ついでに彼らのもとを訪れることにした。


バイクに乗って夜の高速道路を少し走った私は、再び横浜の街までやってきた。ただ、華やかな横浜駅の周辺ではなく、そこを通り過ぎて山下公園の方面へ。そこから街が入り組んでいる中華街の近くへ。バイクを適当なところへ隠してから裏路地を進んでいき、とある建物の中に入った。


そして、ドアを暗号通りのリズムで叩くと……中からは170センチくらいの男が出てきて、私を部屋の中へ招き入れた。


「ごめんなさい、ホーク。夜遅くに来ちゃって」

「いや、大丈夫だ。しかし、ヒサメからここに来るとは珍しい」

「ちょっと報告と依頼があって。大丈夫?」

「ああ。今アヤメを連れてこよう」


やってきたのはとある兄妹の家。まあ、私が黒装束で行くくらいだから、もちろんただの兄妹ではないわけで。少し待っていると、奥の暗い部屋からやってきたのは奥の部屋からは完全武装をした小さな少女が出てきた。


「ヒサメ~、今度は誰殺せばい~い~?」

「あ、今すぐってわけじゃないよ?」

「え~、じゃあこれ置いてくる~」

「ごめんね~」


依頼と言ってしまったから、今すぐ依頼(始)を実行(末)しに行こうとした女の子は再び奥の部屋に消えていき、今度はラフな格好で帰ってきて私の膝の上に座ってきた。相変わらず体温高いし、小さくてかわいいなぁアヤメは!!!


……ただ、ちっこい可愛いと彼女を見た目だけで判断してはいけない。なんせこの娘、裏社会ではトップクラスのスナイパーなのだから。

ちなみに、私を部屋に招き入れた兄の方も一流の殺し屋。あっちはどっちかというと近接戦闘トラップが最強な方。


「そんで、何があった。あと飲み物はコーヒーでいいか?」

「ありがとう。まあ端的に言うと……あなた達から頼まれた例のテロ組織の尻尾が掴めそうって話と、それに付随して護衛依頼をしようと思ってね」

「護衛依頼? ヒサメからの依頼にしては珍しいな」


ええ、まあ……珍しいでしょうねぇ。だって私がこの兄妹に依頼することの大半は犯罪者さんを血祭りにしてねって感じのだし。ちなみに、護衛依頼をするだけだったら実力的にはもっといいところはあるけど、その人の拠点が福岡なこともあって行くのをあきらめた。それに、今回の犯人は彼らから頼まれたものだったしね。


「で、誰を護衛すればいい。砂糖とミルクは?」

「ブラックで大丈夫」

「おお~、ヒサメおとな~」

「護衛対象はアイドルの星ひかりよ」

「あのアイドルの? めっちゃキラキラネームっぽいヤツか」


どうしてそういう覚え方になった……まあ、うん。確かにめっちゃキラキラ成分配合だとは思うけど。ひかりって名前結構いると思うよ?


「で、突然なんでアイドルの護衛をしろと?」

「実はね……かくかくしかじかこういうわけで。聞いちゃったからにはそのままにはできないし、そっちから頼まれてたテロ組織の脅迫のやり口と同じでしょ?」

「だな。なぜ星ひかりを狙うかは知らんが」

「また資金が底をついたんじゃない? 今回もやめて欲しければ数千万を~とか言ってたし」


そういえばあんま追ってるテロ組織の話をしていなかったような……まあいっか。あんま話しても面白みに欠ける集団だし。端的に言えば海外テロ組織の傘下に日本支社で、常に芸能人とか個人に脅迫文とかを送って、気の弱い人からどんどんと身代金に近いものを奪っていくゴミみたいな人たちですね、はい。


「まあ、ある程度わかった。報酬は今回の依頼料と相殺でいいか?」

「ええ。それで構わない」


はい、交渉成功。今回はそこまであんま依頼料は取ってなかったし、同額で護衛の依頼を出せるならものすごく安上がり。正直プラスで数十万積まないととは思ってたけども……まあいっか。安く済むに越したことはない。


「さて、私は帰るわ。詳細はまた今度持ってくる」

「了解だ」


コーヒーを飲み終わり、路地の外まで送ってもらった私は再びバイクに跨って家へと戻る。明日も学校だから、早く寝なければ。


  〇 〇 〇


それから約1週間後、私とおにいは星ひかりのライブ会場……の裏側に居た。なんか、おにいがひかり先輩の悩みとかを聞いたり教科書とかを普段から貸したりしているお礼として招待されたそう。そして、特別にライブの裏側の見学ツアーをしてくれているのだ。


え、なんで私がいるかって? 「実はファンなの!」っておにいに言って無理やりついてきた。


結局、ひかり先輩の事務所は”厄介ファンの悪戯”と判断したらしく、特に公表とかもしなかった。集客とかにも関係あるだろうしね。そしておにいも同じ考え。


まあ、厄介ファンだったらいいんですけどねぇ、犯人が。でも、今回の犯人さんほぼ確定で海外マフィアの日本支社的なところだし、たぶん本気でやると思うんですよねぇ~。あの組織愉快犯的な感覚で結構なことするし。おそらく会場のどこかに銃火器もって忍んでいるに違いない。おにいに限って勝手な行動をするとは思えないけど、もし仮になんかの拍子で狙われるかもしれない……本当はホークとアヤメの殺し屋兄妹に頼もうかと思ったけど、流石に無理そうだったから私がやることにした。無理やりついてきた理由はこれが9割、あと副産物としてライブ見れるからが1割。


ま、まあちょっとだけ下心のある理由もあるけど、とにかくおにいの護衛をしなければいけない。


「へーい、音響30秒後いくよー!」

「スタンバイOKです!」

「リフト合図あったら行くぞ! そこちょろちょろすんな!」

「すんません!!!」


しかしまあ、ライブ開始直前の裏方は騒がしい。たくさんの人がそれぞれいろんなことしてる。その中でひかり先輩は緊張する~といいながらリフトの上の定位置で笑っていた。あの度胸はちょっと見習いたい。

ちなみにだけど、今回の会場は見事に満員御礼。チケットは発売から15分で完売したそうで、チラッとモニターをみると、空席は見えない。この中からテロリストを見つけ出すか壇上のアイドルを最後まで護衛する羽目になった暗殺兄妹、南無。私は横にいるおにいを守ればいいだけだから楽さは全然違う。まあ余裕があったらあっちも護衛しますか。


なんて思ってた矢先、ライブがよく見えるからという理由で、案内をしてくれていた人が特別に舞台袖に案内してくれることになった。流石にそこまでしてもらうのはなんか申し訳ないと思ったけど……でも、護衛の観点からすればいいかもしれない。ちょっと目立ってしまうけど、ここよりも人が少ないから奇襲のために気を貼る必要も少し薄れる。さらにいざというときにひかり先輩を守りに行ける。


そう考えた私は、「いやいやいや」と遠慮しまくっているおにいを引っ張って無理やり舞台のし下手にやってきた。そこでは、和服とドレスの中間のような華やかな衣装を着たひかり先輩が歌って踊ってジャンプして、といった感じでお客さんを楽しませていた。


「楽しそうだなぁ」

「まあ、楽しそうなのはわかるが……あんなにライト浴びたら眩しくね?」

「そういうもんじゃない?」

「そういうもんなのか」


確かに演出上のライトの動きとかだとワンチャンめっちゃ眩しいだろうけど、それはそれで醍醐味だろう。私の知り合いの情報屋で元バンドマンがいるけど、あの人は自分に降り注ぐライトの光が視界を奪うたびに幸せな気持ちになってたと言ってたような。


それにしても、なんかさっきからライトがおかしいような……スポットライトだろうか、歌ってる人をきっかり照らすのは当然なんだけど、どうも視界に被るように動かしているような気がする。

下手の舞台袖からだから確証はないが、ひかり先輩が時々目を細めているから、かなり眩しいんだろう。


あれ? つまりこれ意図的に視界を奪おうとしてるってことだよね? 


じゃあ、あそこにテロリスト居るの確定じゃん。


「おにい、ちょっとトイレ行ってきていい?」

「えぇ? まあいいけど。スタッフさんの指示には従えよ」

「私は子供じゃない」

「15歳は十分子供だろ」


ちょっとムカついたけど……そこはぐっとこらえて、私はスタッフの指示に従って女子トイレへ。申し訳ないけどスタッフさんにはそこで待ってもらい、そこから広域に特殊な電波を流せる小型の装置を使用。あらかじめホークとアヤメに教えてあった周波数でモールス信号を送信。内容は『スポットライトの根元に目標アリ』だ。もしかしたら敵にこの通信を拾われているかもしれないが、それはそれで牽制になるからいいだろう


おにいの傍から少し離れてしまったので、1度流したあとはスタッフと共に先ほどの場所に戻しながらこっそりもう一度送信しておく。こうすれば、あとは彼らがなんとかしてくれるだろう。


「お、帰ってきたか」

「ただいま」

「もうちょっとで4曲目終わるぞ?」

「あ、そんなに経っちゃったかぁ」


ぶっちゃけ私が聞けなかった3曲目のやつめっちゃ好きだったんだけどなぁ~……と嘆いていると、急にスポットライトの当たり方の角度が変わった。さっきまで眩しそうにしていたひかり先輩も気づいたようで、細めていた目もくっきりと開いて演技をするようになった。おそらくホークとアヤメが制圧したのだろう。


その後は特に怪しい動きもなく、ライブは終わった。常に警戒していたから少し疲れてしまったけど、間近で人気アイドルのライブを見れたので結果オーライ。


あの後、再びホークに会って話を聞いてみると、やはり彼らは追っていたテロ組織の人間で間違いがなかったという。近いうちに知り合いの殺し屋を集めて壊滅させに行くという。

たぶん彼なら余裕なので頑張れって感じ。


なんか引っかかるところがあるけど、とりあえず無事に終わってよかったよかった。


なんて、思ってたら……


「氷雨ちゃん、ちょっといい?」

「はい、どうしたんです? ひかり先輩」

「うん、誰もいないわね……じゃあ、ちょっと話しましょう。”ラストニンジャ”さん」





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