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第15話 ヒサメちゃんと暗殺者 前編

6月、梅雨。朝から雨雲が空にびっちりで太陽の光もなくて外は暗い。ざあざあとうるさく音を立てて降り注ぐ雨がとても憂鬱な気持ちにさせる。


氷雨って名前をしているけど、雨はかなり好きではない。だってターゲットが傘をさしてたりするから高いところから監視ができなくなったりするし。


あと! あと!!


飴の日って黒装束だとめっちゃきついんですよわかります!? 全身びしょびしょになって身体がすぐに冷えるし! あったまろうにもサーモグラフィーとかを避けるためにカイロとかつけれないし!


太田氷雨、通称”ラストニンジャ”。とっても憂鬱です。


そんな憂鬱な私は、今日に限って家に傘を忘れてきてしまいました。朝は雨が降っていなかったから、うっかり傘を持たずに出てきてしまった。う~ん、なんでだろ……最近疲れてるのかな

憑かれてるかもしれない。


ぶっちゃけ最低限の被弾だけで帰る方法はありますよ、だって忍者だから。でも、そんなことを学校からしてしまうと「お前、何者やねん」ってことになってしまう。学校にいる間はごくごく普通の一般人の”太田氷雨”でなくてはならない。だから、おにいに傘を借りようと思い、昼休みに高等部の生徒会室に行ってみた。


「失礼しまーす」

「あ、ヒサメちゃんじゃない、どしたの?」

「あのー、うちのおにい居ます?」

「そーくん? お昼ご飯買いに購買に行ってるよ。ちょっと待てば帰って来るから待ってるといいわ」

「は~い」


へぇ、ここだと”そーくん”って呼ばれてるんだ。夏帆ねえからは”宗ちゃん”だから、”一郎”の部分って使われてないような、まあこういう系の名前の宿命だよね、うん。

とにかく、生徒会蝶さんが待ってていいと言ってくれたので待つことに。早くしてくれないとお昼を食べれないからとそわそわしていると、5分くらいでおにいが帰ってきた。それと後ろには女子生徒が。あの人も生徒会なのかな。


「ん? なんで氷雨いんの?」

「なんか用事があるそうよ。だから待っててもらってたの。っていうか遅かったわね」

「ああ、嶺が焼きそばパン買えなくて困ってたから助けてたんだわ」

「あぁ……」


焼きそばパン買うだけで何を苦戦することがあるんだ? と頭の中ではてなマークを100個くらい浮かべていると、すぐにその理由がわかった。彼女はどこからともなく赤と白の旗を取り出すと、キビキビと旗を動かし始めた。これって、手旗信号? 

えーっと、なになに? ふむふむ。食堂のおばちゃんが手旗信号を理解してくれなかったんですか。それでモールス信号もわからなかったんですね、ええ。


「なるほど。だったら嶺のために手旗信号表でも購買のとこに置いとくか?」

「現実的ではないわね。自販機に入れようかしら」

『フツーに出来たてがいいんスけど(手旗信号)』

「そうか、そりゃ困ったな……」


いやいやいやいや、なんでこの人たち手旗信号を理解して話せてるんですか。あれって船舶とかそっち方面で使う信号の方法ですよ?? いくら頭がいいからってコアな知識つけすぎでしょ!


私は忍者だからわかるけど。っていうか使えるけど。


「まあ、あとでそれは検討するとして」


検討するんだ……。


「んで? 氷雨の要件ってなんだ?」


あ、本題来た。


「えーっと……実は傘を忘れてきちゃって……貸してくれない?」

「なぜ2つある前提なんだ……俺は置き傘してないぞ」

「じゃあおにいはずぶ濡れになって帰って来て!」

「鬼畜か!?」


だって男の人ってそんじょそこらの雨に打たれても風邪ひかないじゃないですか。私みたいな貧弱(?)な女の子は身体冷えたまま放置するとすぐ風邪ひいちゃうんですから。おにいは私が病気になってもいいとおっしゃるか。


「うっわめんど」

「ドン引きしないでもらえます?」

「はぁ、んじゃあ俺が生徒会の仕事終わるまで待ってろ。そしたら傘入れてやっから」

「え、何時に終わるの?」

「今日は17時くらいか。体育祭の打ち合わせとかがあってだな」


うわぁ……今日中等部は午後は6時間目で終わるから3時間くらい待たないといけないじゃないですか……そこまで何して待てと? あ、体操着あるからどっかの部活に乱入すればいっか。そだね。そうしよ。


「そういうことなら、太田は今日書記の書類は家もって帰っていいわよ」

「お、サンキュー会長」

『カイチョ―やさし~ヒューヒュー(とホワイトボードに書いてある)』


なんか、そこから生徒会蝶さんのヨイショ大会が始まったから、私はフェードアウトして自分の教室に戻っていった。


あれ、しっかり約束できたんだよね? って内心で思いながら。


  〇 〇 〇


結局、私が女子のバスケ部に乱入してミニゲームで3ポイントを決めていると、体育簡におにいがやってきた。どうも教室を探してもいなかったから、もしかしてと思って探しに来たらしい。そういえばどこにいるって言ってなかったな~っと思って、そこはテヘペロってやっておいた。またしてもチョップされそうになったので真剣白刃取りして避けた。


そんんあこんなで、大雨の仲冠水しかけた大通りの歩道を歩いていると、後ろから車の前照灯が近づいてくるのがわかった。どうも一番歩道側の車線を走っているようで、どんどんとエンジン音が近づいてくる。


そして、私たちの横をその車が通り過ぎた時――


バッシャアアアア!!!


「つめたっ!?」

「おっと」


なんと、車道の端に溜まっていた水がこっちに波になって押し寄せてきた。もちろん車道側を歩いていたおにいは車道側の半身に被弾。私はとっさにおにいの陰に潜り込んで、足元に水が押し寄せてきたタイミングでジャンプ。靴下への被弾は避けられたけど、最終的にローファーに少しの浸水が。いつも使ってる靴だったらなぁ……深海1000mにも耐えれる完全防水の暗器収納付だから浸水しなかったんだけどなぁ。流石に学校指定のローファーは無理だよねぇ。


そんなことを思ってると、目の前で私たちに水をブシャーした車が停車。そこからはめっちゃキラキラした人が降りてきた。



「お~い、太田ーっ!」

「ゲッ」

「ごめーん、大丈夫そうー!」


どこかで見たことがある……と思ったら、それはかの有名なアイドルの星ひかりその人だった。男性ファンだけじゃなくて女性ファンも多い超人気アイドルがどうして……って思ったけど、そういえばうちの学校の生徒だった。っていうかおにい知り合いなの?


「ごめんねー、マネが運転してたんだけど、横見たら巻き上げられた水が太田たちにぶしゃーってなってるの見て」

「気を付けてくれよ……俺だからよかったが、一般人だと致命傷だぞ」

「ええ、言っておくわ……っていうかほんとにびしょ濡れじゃない! ちょっと待ってて」


会話を聞いてる限り、おにいとかなり親しそうな彼女は、おにいの半身がヤバいことになっていることに気づいた彼女は、慌てて車に戻っていった。なんかタオルでも持ってくるのかなーって思ってたら、なんと車ごとこっちに戻って来て、そのドアを開けて「カモン!」って言っている。どうも事務所のシャワーを使わせてくれるらしい。

それに対しておにいは、そこまでしてもらうほどではないと思ったようで「いやいやいや(拒否)」ってやって、それに対して星ひかりは「いやいやいや(乗って)」ってやっている。


そんなのが2~3分も続けば、待たされている私の方の体温が下がってきた。これ以上待たされるとワンチャン風邪をひいてしまうと思ったので、おにいの背中にタックル。ちょっと芸能事務所に行ってみたかったし、今すぐシャワーを浴びたい気持ちもあったから車におにいを追いやる。むこうも路肩駐車で警察に目を付けられる」と言って急かしている。


そうすればヤケクソデおにいが車に乗車。ゲートイン完了。最後に私が車に収まれば、すぐに彼女のマネージャーが車を出してくれた。


  〇 〇 〇


学校がある駅から車で約40分。途中一度だけ高速に乗ってやってきたのは横浜。そこにあるとある芸能事務所に入った私たちは、星ひかりに案内されて、シャワー室に来ていた。男性用と女性用で分けられていたので、おにいを男性用のところに追いやってから、私は女性用を使わせてもらった。なんかシャンプーとか色々置いてあったけど、全部有名ブランドの物で香りがめちゃくちゃいいやつ。流石は大手のプロダクションだな~って思った。使っていいかわからなかったから、ちょっと使ってみた。


そんなこんなで若干長風呂(?)をして出てくると、今度は唐突な施設見学ツアーが始まった。プロマイドとかの写真を撮る部屋で写真を撮らせてもらったり、歌の練習ができる部屋で1曲限定のカラオケをしたりと中々楽しい。


ちなみに、少し話しているうちに星ひかり……もといひかり先輩とは結構仲良くなった。おにいは少し帰りたさそうにしているけど、私は楽しいからあんま帰りたくない。


「へ~、ヒサメちゃんめっちゃ可愛いね。ほら、写真うつりいい」

「おお、本当だね~」

「見た感じスタイルもいいし。モデルさんとかどう?」

「え、えっと~」


うーん、写真うつりがいいのは女性として喜ばしいことなんだろうけど、私は忍者なんですよ。裏の社会の情報屋なんですよ。そう考えるとめっちゃ悪いことなんですよ。あとモデルなんかしようものならあかんことになってまう。それだけは全力で阻止しないと。


「そうだなー、少し背が小さいがその分可愛い系も似合いそうだし、クール系も似合いそうだな」

「ちょっとサイズ測りますねー……あ、ホントだめちゃくちゃスタイルいい! なんか鍛えられてます?」

「少しなんか着てみましょうか」

「衣装さーん、なんかこのサイズでこの子に合いそうなモノあるー?」


そんな感じで、色々な服で着せ替え人形をさせられた挙句採用担当の人から名刺までもらってしまった。写真は全部貰ったけど……これ、どーしろと? 


疲れておにいと共にグダーっとしていると、突如事務所の仲が騒がしくなる。着せ替えでクルクルさせられた私を「ああ、こんなことあったなー」って感じの顔をしながら介抱してくれてたひかり先輩が様子を見に行くと、数分後に少し青ざめた表情でこちらに帰ってきた。


何があったのだろうか。


ふむふむ。ほうほう。



今度のライブで? 爆破予告? 同時に3件くらい殺害予告が来た?



……なんかちょっと引っかかるところがありますねぇ。これは少し調べてみたほうがいいかもしれない。



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