第10話 幼馴染の悩み事 4
とうとう我が書斎(作業部屋)にクーラーがつきました。
めっちゃ涼しい
結局、それから1週間の登下校は常に夏帆と共にした。小学生の頃は同じ登校路だったこともあって、同じ道をランドセル2つ並べて歩いたりはしたが、中学生になってからはお互いの友達と帰ることが多くなったから、自然とすることはなくなった。所謂思春期というやつ。まあ、電車通学になったのも大きいだろうが。
登下校で話していた内容と言えば、そのほとんどが他愛のない世間話。趣味が違うところは多いから、それぞれの趣味の話をしあって、相槌を打ったりしていた。
そして、日曜日。未だにストーカーの脅威は去っていないものの、夏帆はここから数駅離れたショッピングモールに服を買いたいという。最初は家族で行けばいいんじゃね? と思って油断をしていたら、夏帆は護衛に俺を選択。なんでも「久々に一緒にお出かけしたい」」のだそうな。そんな理由で決める?
ぶっちゃけ服のことなんて一切わからないから、氷雨を連れて行こうと一瞬考えたが……さすがにストーカーに狙われてる状況で妹を連れて行くのは無理だわ、という結論に至った。そのため、氷雨には留守番をしてもらうことに。
「んじゃ、行ってくるから。昼は適当に冷蔵庫の中のモノで作って食っていいぞ」
「は~い、わかりましたー」
「拗ねるなって……いくら運動神経がいいお前でも、ストーカーは怖いだろ」
「ま、まあそりゃそうですけど」
氷雨は一緒に行く気満々だったらしいが、行けないとわかると不満そうにしながら俺にいい服を着せてきた。不満そうな表情は俺が出かける前まで続いていたが、ストーカーされたらいやでしょ? って言ったら渋々引き下がった。聞き分けがよくて助かる。
玄関で手を振って送り出してくれた氷雨に手を振り返し、歩いて20秒もかからずに住谷家のインターホンを押す。家の中から「はーい」という声が聞こえれば、すぐに夏帆が現れた。どうやら玄関で待っていたらしい。
「すまん、待たせたか?」
「ううん。部屋から宗ちゃん出てきたの見えたから急いで降りてきたの」
「玄関で待ってたんじゃないんかい」
「近いからねぇ~。自分の部屋から見てた方がいいっていうか、なんていうか」
前言撤回。なんと夏帆は自室の窓から俺の家の玄関を監視していたそうだ。俺の部屋は住谷家の方面に窓はついていなからできないが、確かにご近所ならではの待ち合わせの仕方(?)だろう。
周囲を少し見て安全を確認したら、俺たちは駅に向かって歩き出す。どこのショッピングモールにするかを聞くと、海老名に行きたいそう。それだったらここから近いし、30分もあれば着きそうだ。
俺たちはストーカー対策のために、わざと人通りが多い道や車どおりが多い県道沿いを選んで進んだ。本当は居心地のいいプチ商店街を通り抜けていきたかったのだが、そこは今の時間から行くと人通りがまばらだ。今何時だって? 午前9時だよ。オープンと同時に行きたいんだと。
さて、駅まであと3分かかるかかからないか。電車の高架が見えてきたところで、異変が起こった。夏帆はご機嫌で気づいていないようだが、俺はとあることに気づいていた。
(なんだ、あの男は……)
それは、コンビニの角を曲がったときのこと。少し見にくかったが、柱の陰のような場所から明らかに俺たちに向けて視線を送る男がいた。通行人だったら別に気にならないのだが……しかし、その男の目は怪しすぎた。なんというか、凝視の仕方がイっている。まるでヤクでもやったんじゃないかぐらいに。おそらく、あれが夏帆を狙っているストーカーなのだろう。
あと少しで駅だからと思い、少し歩く速度を速めてみる。時々後ろを振り返ると、慌てて誰かが電柱に隠れるような動作が見える。俺の視力は両目とも1以上あるからそこは間違いないだろう。順調についてきているようだ。ついてこられても迷惑なんだが。
そんなこんなで駅の改札に来た……のはいいんだが、ここで困ったことが1つ。
『……線はただいま、全線において運転を見合わせております』
「ええ~!?」
「おいおい、マジか」
なんと、このタイミングで駅を通る電車が、異音の影響だとかで運転を見合わせていた。しかも、ここから2駅先で発生したらしく、運転再開は未定だそうだ。異音くらいなら1時間もあれば復活するだろうと思うが、駅の改札で待っているのも面白くない。
「どうする?」
「じゃあさ、お茶しようよ。駅前の近くに新しい喫茶店がオープンしたらしいから行ってみたかったんだよねぇ~」
「んじゃそうするか」
「うん、そうしようそうしよう!」
女子ってホントお茶好きだよなぁ~。なんて思う今日この頃。現在進行形でナウなヤングであるはずだが、あまりカフェはわからない。来た道を再び引き返すこと3分。やってきたのは最近オープンしたことで有名だという商店街の中の喫茶店だ。
窓際の席に案内された俺たちは、雑談をしながらメニューを覗く。……ものの、なんもわからん。とりあえず適当にコーヒーを頼むのは確定でいいんだが、スコーンってなんだよスコーンって。指で弾いたらスコーンって飛んでいくものなんか?
そして、ふと横を見ると……。
「…………」
(おったーーー!!!!)
俺たちが座っている席からすぐ近く、なんか薄暗い裏路地的なところから怪しい眼光が。暗がりの中からこちらを覗く目がものすごく怖い。どうやら今まで追いかけてきて、喫茶店の中には入れないから外からストーキングをしているようだ。
なんたる執念、普通にキモい。
あまり見ているのも気色悪いから、俺は無視して目の前に座る夏帆と談笑しながら気を紛らわせる。時々スマホを確認して運転再開していないかをチェック。それから、運ばれてきたアイスコーヒーを飲みほしたタイミングで丁度電車が動き出したという記事がスマホの画面に浮かんだ。
「よし、行くか」
「だねー」
席を立ち、会計に進むときにふとさっきの裏路地のようなところに目を向けると、ストーカーの視線は一切なくなった。
「あきらめたのか……?」
諦めたかどうかはわからないが、それからストーカーの姿と気配はぴったりとなくなった。さらに1週間くらいは一緒に登下校をしていたのだが、なんもなかったことから「もう大丈夫でしょ」ということで俺の護衛任務は解けた。なんでぴったり止んだかは本当に謎。なんか最近ヤクザっぽい誰かが商店街に襲来したという変な噂があるし、そのヤクザにでも粛清されたんだろうか。
『それでは、次のニュースです。今朝、横須賀市の海岸で、海洋溺死体が発見され――』
「物騒なニュースだなぁ」
「そうだねぇ」
氷雨にも一応「ストーカー被害収まったかも」というと、「よかった」と安どしている様子。もしかしたら次に狙われるのは氷雨かもしれないから、その可能性がなくなってホッとしているんだろう。しかし、またしても不可思議な解決の仕方だったなぁ……。