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面影を迎えにいく話  作者: はくたかゆき
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8.偽史

 調査を終了した第二部隊とこんのすけは、第一部隊に対して顛末の報告を行っていた。

「龍馬、俺たちに対して最後まで刀を抜かなかった。鉄砲も持ち出さなかった。懐にあったろうに」

 加州はしんみりと言った。

 それに続いて南海が言う。

「僕たちとなら対話できる、通じ合えると信じていたんだろうね。ただ僕たちは現場の手足に過ぎない。この戦をどうするかは政府が決めることであって、龍馬が僕たちに対話を促しても大して効果はないんだがね」

「まったく、身もふたもないこと言うよなぁ。人の心あんの?」

 加州が苦笑まじりにぼやく。

「ははは、誉め言葉と受け取っておくよ。さて、僕の見解を聞いてくれるかな」

 南海は考えを話し始めた。

「坂本龍馬が巨大な蟲の形をした異形に取り込まれ、それごと斬り倒したら幻の花は砕け散り、地震が起こり、地面だけでなく空が割れた。改変を正した世界がまるごと崩落し消滅するなど、ありえるかな。非現実的だ。どう考えてもおかしい」

 則宗が「つまり?」と聞く。

「僕たちが出陣しているのはいわゆる『改変された歴史』ではなさそうだ、というのが僕の見立てだ」

 和泉守がキョトンとする。

「? 改変された歴史じゃなかったら何なんだよ」

「改変された歴史に見せかけ、擬態した、現実ではない世界。便宜上、偽物の歴史…偽史とでも呼ぼうか」

 こんのすけは「なるほど」と呟きながら聞いている。

「僕ならこの偽史を罠として使う。調査に来た刀剣男士を誘い込み、壊滅させる罠としてね。だが、時間遡行軍の思惑がどこにあるかは分からない。むしろ罠ではあまりに意外性がない。ありきたりすぎる」

 南海はこんのすけに向かって言った。

「偽史の目的も正体も不明だが、それだけにもし歴史とつながれば脅威であることには変わりない。さらなる調査が必要だと僕は考えるよ」

 こんのすけは深くうなずいた。

「その通りですね。いったん政府に報告を上げ、判断を仰ぎます。第一部隊の出陣はしばらくお待ちください」



 報告会議の後、縁側に座って陸奥守がぼんやりしていると、加州が茶と菓子を盆にのせてやって来た。

「陸奥守、疲れてんの? 表情が暗いけど」

「ああ、正直こたえたのう」

 加州が差しだす湯呑を受け取りながら陸奥守は言った。

「わしゃ、大きな視野で夢や希望を語ってついには人を動かす龍馬が大好きじゃった。もし龍馬が生きてさえいたら、日の本のその後はもっと違ったろう」

「うん、あの人、ただ生きてるだけで歴史を変えちゃう感じがした」

 加州が認めると陸奥守は笑顔になった。だが、どこか寂しそうだ。

「ほうじゃろう。ほんに龍馬はそういう、どえらい男じゃった」

「正直ちょっと心に響いたよ。いがみあう者も立場を忘れ腹を割って話せば良い奴ばかりっての、俺も経験あるだけにさ」

「まあ、そこはお互いにな」

 加州と陸奥守は一緒にくつくつ笑った。それからしばらく黙って庭を眺めた。出陣の最初の頃にはまだつぼみだった桜は満開を迎えている。

 加州はふと言った。

「……俺、思うんだけどさ。坂本龍馬が志半ばで死んだことで、きっとたくさんの人が心を動かして、それでその後の世の中を作っていったんじゃないかな。表の歴史では語られなくても、見えないところで、きっと」

「ほうじゃのう。きっとほうじゃ」

 陸奥守はそう言って何度もうなずいた。

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