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面影を迎えにいく話  作者: はくたかゆき
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6.代償

 第二部隊は龍馬の隠れ家をつきとめるために京都で何度か調査を行ったが、空振りに終わったり、あと一歩のところで龍馬を取り逃がしてしまった。

「こうなれば、我々で11月15日の夜に近江屋の龍馬を襲うしか……」

 こんのすけは宙に浮く操作パネルの前で頭を悩ませている。

「そうなると後世での目撃証言に我々が残ってしまうのでは?」

 南海が懸念を口にする。

「はい。ですから、それは避けたいです。中世の戦場と違って記録に残りやすいですし」

 とこんのすけが返答する。

「陸奥守だけなら龍馬暗殺の夜の近江屋にうまく潜入できないかな。見廻組の見張りを避けて」

 と安定が意見すると、南海は同意した。

「そうだね。陸奥守くん一人だけなら、暗殺隊の一員としてごまかせるだろう」

「僕たちは屋根の上で待機しよう。龍馬はあの夜身代わりと入れ替わったと言っていたから、そこを押さえたいよね」

「うむ。日が落ちてすぐ行動に移した方がいいだろう」

 南海と安定が計画の相談をどんどん進めていくが、陸奥守は黙ったまま無表情でいる。

 加州は陸奥守を心配そうにちらりと見た。

「なんでおんしが泣きそうになっとるがじゃ」

 加州のようすに気づいた陸奥守はからかうように言う。

「いつでもあんたの代わりに泣いてやろうと思ってさ」

 と加州は軽口を叩いた。

「泣かんでもええ。わしが龍馬の生き様も死に様も守る。それだけやき」

 陸奥守は穏やかな声で言った。

 陸奥守と加州のやり取りを見上げていたこんのすけは、操作パネルを軽く肉球で叩いた。

「もう一度だけ、隠れ家の候補を探してみましょう。一度空振りに終わった洛北の岩倉邸に、わずかに時間遡行軍の反応があります。これでだめなら……」

「あの夜に戻りたくなければ、これが最後のチャンスというわけじゃな」

 陸奥守は承知してうなずいた。



 洛北の岩倉邸とは、当時の龍馬と懇意にしていた貴族・岩倉具視が隠れ住んだ郊外の邸宅である。陸奥守たちはもう一度そこを偵察したが、龍馬に気づかれた。

 陸奥守たちは脱出する龍馬を追った。龍馬を守ろうとする時間遡行軍が次々と現れたが、それを蹴散らしながらとうとう龍馬を近隣の寺社の境内まで追い詰めた。

 龍馬は追い詰められたというよりは、そこで陸奥守たちを待っていたような雰囲気だった。かくまってくれた岩倉に迷惑をかけないよう、場所を移したかったのかもしれない。

「よう来てくれた。もう一度おんしらと話がしたかった」

 そう言って龍馬は人懐こい笑みを浮かべた。

 陸奥守は厳しい表情で相対した。

「おんしはもう死んどるはずの人間じゃ。これから歴史が正しく筋道をたどるためには、生きとってはならんがじゃ」

 龍馬は一度目を伏せ、真剣な面持ちで陸奥守たちを見すえた。

「おんしらは遠い未来から来た。じゃからこれから起きることも過去じゃ歴史じゃと言う。じゃが、わしにとってはこれから先はすべて未来じゃ。人間が未来を望んではならんのか?人間には誰しも、希望をもって未来を変えていく権利があるはずじゃ。おんしらにも信じる未来が、希望があるじゃろう」

「それは……っ」

 加州は龍馬のまっすぐな目を受け止めきれなくなって視線を逸らした。

「惑わされるな。龍馬はああやって人の心を動かすんが得意なんじゃ。主のことを思えばどうということもない」

 陸奥守は厳しい表情で言った。 

「やれやれ、手厳しいのう」

 と龍馬は少し寂しそうに笑った。

「わしに味方する者をおんしらは『歴史修正主義者』、その手勢を『時間遡行軍』と呼ぶそうじゃの。おんしらも、歴史修正主義者も、それぞれにのっぴきならん事情と大事なものを守りたいという願いがある。じゃがお互いの言い分をぶつけあっていたら、戦は未来永劫終わらん。家族や仲間の未来を思えば、いずれどこかで話し合わんといけん。違うか?」

 龍馬は穏やかな表情で話しながら一歩ずつゆっくりと陸奥守たちに近づいてくる。

「いがみあう者も皆、いっときでも立場を忘れ腹を割って話せば良い奴ばかりじゃ。おんしらも歴史修正主義者も、お互いの願いにつながるところが必ずあるはずじゃ」

「だめじゃ! 斬ろう! これ以上龍馬の言葉を聞いていかん!」

 陸奥守は迷いを振り払うように刀を抜き、龍馬に斬りかかった。が、龍馬と陸奥守の間になにか赤黒い大きな塊が割り込み、陸奥守ははじき飛ばされた。

「陸奥守!」

 肥前と南海が陸奥守の身体を受け止める。

 巨大な赤黒いそれの足爪はガリガリと地面をうがち、長い体は龍馬を中心にしてとぐろを巻いた。信じられないほど巨大なムカデだ。

 まがまがしい姿のそれがもたげた鎌首を、龍馬はくやしそうに見あげた。

「これが、あの夜を生き延びた代償か……」

 巨大なムカデは顎を開いて龍馬を呑み込み、赤黒い体をうねらせて陸奥守たちの前に立ちはだかった。

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