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面影を迎えにいく話  作者: はくたかゆき
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5.坂本龍馬と

 陸奥守は、龍馬は外国商船に乗っていったん日本を脱出しようとするのではないかと推測した。それに合わせてこんのすけは大坂港から神戸港までの観測網を張った。外国の大型船は神戸港の方が出入りが多いからだ。

 こんのすけは大坂港から出る民間の小型船に時間遡行軍の反応を見つけた。

 本丸の広間に並ぶ第二部隊の前。こんのすけが投影するモニターに、時間遡行軍が龍馬の警護をしているようすが映し出されている。

「まずいな。海の上の狭い甲板じゃ戦いづらいぞ。冗談じゃねえ」

 モニターを見ていた肥前が眉をしかめる。

「神戸港に向かいましょう。まだ渡航のための物資を十分に用意していないようですし、いったんそこで上陸するはずです」 

 こんのすけはそう言って、操作パネルを閉じた。



 出陣先の神戸港で、龍馬を守る時間遡行軍との戦闘が始まった。

 龍馬はしばらく戦闘を見守っていたが、陸奥守たちが迫ってくると腰の陸奥守吉行を抜き放った。そして構えた。

 みな目を疑った。龍馬がこちらに加勢して時間遡行軍を斬り伏せはじめたからだ。人間の身では多くを一度に薙ぎ払うまではいかないが、鮮やかな剣筋で確実に一体ずつ倒していく。

 時間遡行軍に動揺が広がり、勢いが弱まった。陸奥守たちはそこを突いて一気に大きな蛾のような姿の敵将を打ち破った。

 時間遡行軍が退却したあと、加州はおそるおそる龍馬に声をかけた。

「……どういうつもり? こいつら、あんたの味方じゃないの?」

「こいつらは大将の命令には従うが、対話ちゅうもんができん。わしゃおんしらと話がしてみたかったんじゃ」

 龍馬は足元で崩れていく時間遡行軍の脇差を眺めながら言い、それから陸奥守たちを振り返った。

「それにしても刀剣男士ちゅうがはえらいもんじゃのう。言葉通りの一騎当千じゃ」

 龍馬は大げさな身振りで、しかし真剣なようすで陸奥守たちを褒めた。

 陸奥守たちは龍馬が刀剣男士という存在を知っていることにひどく驚いた。

 加州は思い切って尋ねてみた。

「ねぇ、聞いてもいい? どうやってあの晩、近江屋で暗殺から逃れたの?」

「ああ、わしそっくりに化けた者と入れ替わったんじゃ。あれには驚いたのう。あの者は大太刀を帯刀しちょったが、その刀までこの陸奥守吉行そっくりになった」

 と龍馬はほがらかに答えた。

「あの者?」

 加州は戸惑いながら聞き返した。

「おんしらとよく似た剣士じゃ。洋装に具足を着けておった。その者は人間が死ぬ程度の傷では自分は死なないと言うておった。それから、わしが生き延びればいずれ刀剣男士ちゅう者たちが抹殺に来るはずじゃと」

 龍馬は嬉しそうに言う。

「じゃからわしは、おんしらと会えるのをずっと楽しみにしちょったがよ」

 加州は目を丸くした。

「は? 楽しみ? 俺たち刀剣男士が抹殺に来ると知ってて?」

 ここで陸奥守が緊張したようすで

「止めちょけ。龍馬とはあまり話さんほうがええ」

 と加州をさえぎった。

「わしらは龍馬を斬りに来たんじゃ」

 龍馬は傷ついたように目を瞬いた。

「わしゃ歴史を変えようなど大それたことは一切考えちょらん。死ぬはずをせっかく生き延びた命じゃ。世界中を回って自分の目で色んなもん見て、色んな者と対等に話したい。それがそんなに悪いことか?」

 陸奥守と加州はとっさに返答できなかった。

 言葉につまっている陸奥守をちらりと見て、南海が口を開いた。

「残念ながら、我々が守る正しき歴史はあなたの存在を許さないんだ。あなたは悪くない。けれど、我々もこれが仕事でね。善悪の判断は、時の政府という組織の歯車のひとつでしかない我々の関与するところではない」

「歯車ちうても、おんしらには心も意志もあるじゃろう」

 龍馬は残念そうに言う。

「歯車に徹するのはそりゃあ立派なことじゃ。そういう者がおらんことには社会は回らん。しかし、それではその時の政府とやらが間違った方向を進んだときに誰も止められんがじゃないんか。そんとき、おんしらは大切な者を守りきれるがか?」

 南海は目を細めて黙った。なるほど、こうして龍馬に引き込まれてしまうから陸奥守はあまり話さないようにと止めたのだ。

 龍馬の背後に時空の歪みが現れ、そこから時間遡行軍の大太刀や太刀が何振りかゆっくりと出てきた。

「どうやら今は戦闘の命令が出たわけではないようじゃ。わしの迎えかの」

 龍馬を時間遡行軍の大太刀や太刀が囲んだ。

「また会って話そう。心ある者同士なら、きっと話し合える」

 龍馬は陸奥守たちに向かって片手をあげ、迎えの者たちと一緒に時空の歪みの中に消えた。

「取り逃がしてしまいましたね。残念です」

 こんのすけはため息まじりに言った。

「次に会うときは……わしが龍馬を斬る」

 陸奥守は低い声で言った。



 本丸に戻ったあと、陸奥守はしばらく居室に引きこもった。

「あいつが八つ時に来ないなんて珍しいな」

 食堂で指についたきなこを舐めながら和泉守が言う。

「ちょっと届けてくるよ」

 堀川は盆に茶を注いだ湯呑ときなこ餅を盛った菓子皿を乗せた。

「つらそうで見ていられないね。我々が陸奥守君の肩代わりをするわけにはいかないのかな」

 南海は湯呑を両手で包んで気の毒そうに言う。

「止めたほうがいいと思う」

 加州は南海の目を見て首を横に振った。

「かつてすごく愛していた人を、どうしてもその人を殺めなくてはいけないのなら。引導を渡すのは他の奴に任せるより自分がいいって、俺だって思うよ」

 南海は「そんなものかね」と悲しそうに言った。

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