表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面影を迎えにいく話  作者: はくたかゆき
3/25

3.最初の出陣

「今は1867年11月14日。明日の夜、京都見廻組の構成員で結成された暗殺隊が、近江屋で坂本龍馬と来訪していた中岡慎太郎を襲います。ですが、演算結果によればもうじき暗殺隊は辻斬りに闇討ちされ、計画は頓挫」

 こんのすけは操作パネルの前で説明を続けた。

「坂本龍馬が生き延びることで、明治以降の政治経済軍部すべてに影響を及ぼします。もはや刀剣男士が請け負える範疇をはるかに超えてしまいます」

「1600年前後は変異が激しいが、緊急度で言えばこちらが優先というわけかな」

 南海が確認するとこんのすけは肯定した。

「そうです。暗殺隊に加わる見廻組の構成員を襲ったのは正体不明のため辻斬りとされましたが、実際は時間遡行軍の仕業です」

 第二部隊は、陸奥守・肥前・南海と、加州・安定の二手に分かれて偵察を始めた。

 酔っ払い浪士にからまれると陸奥守は刀の鍔を褒めたりして愛想よくあしらい、ついでに情報を集めた。

 加州と安定は泥酔した無作法者たちにからまれ、早々に嫌気がさして、細い路地裏に逃げ込んでから屋根の上に飛び上がった。加州と安定を追ってきた浪士たちは、袋小路の奥で標的が姿を消したのを不思議がった。加州と安定は屋根を伝って走った。

 偵察後は物置小屋に戻った。陸奥守たちは川沿いの酒場に見廻組らしき数名が酒も飲まずに誰かを待っていたことを突き止めていた。加州たちは路地のあちこちに不思議な光を放つ花が咲いているのを見つけていた。

「俺たちはなんだあれ? ってすごく不審に思ったけど、町を行く人は誰もあの花を気にしていないんだよ。まるで見えていないみたいにさ」

 陸奥守と加州が報告したことをこんのすけは素早く操作パネルに入力していく。

「川沿いの酒場に空間の歪みが現れました。時間遡行軍が出現します。準備を」

 刀をたずさえたまがまがしい異形の群れから悲鳴をあげて逃げ惑う人々で、京都の細い路は混雑した。陸奥守たちはそれを避けるために屋根伝いに素早く移動した。

 時間遡行軍との戦闘中、陸奥守は腰を抜かして橋の欄干に取りすがっている中岡慎太郎の姿を見つけた。時間遡行軍の打刀が中岡を斬ろうとする。それを阻止しながら陸奥守は叫んだ。

「加州、大和守! 中岡慎太郎じゃ! 安全な場所まで逃がしてやってくれ! こっちはわしらで何とかする!」

「了解!」と加州は叫び返して、中岡の両脇を安定と一緒に支えた。

 加州は中岡の耳元で

「いい子だ、目ぇつむってなよ。絶対助けてやるからさ」

 とささやき、「行くぞ、安定!」と声をかけて一緒に高く飛び上がった。そして川向うに着地し、そのまま中岡を連れて戦場を走り去った。

 まもなく陸奥守と肥前と南海は時間遡行軍を打ち払い、見廻組たちの無事を確かめた。彼らは酒場の壁にめり込みそうなほど取りすがってガタガタ震えていた。

「おう、わしらが辻斬りを撃退したき、もう安心じゃ。気ぃつけて帰り」

 陸奥守が言うと、彼らは口もきけずに、青ざめたままただただうなずいていた。



 陸奥守たちは待ち合わせ場所の物置小屋で加州と安定が戻るのを待っていた。

 加州たちが戻ると、こんのすけは言った。

「あの場であえて中岡の命を助ける必要はなかったと思います。彼は数日後には絶命しますし、歴史にはあまり影響がないと思います」

 すると陸奥守は首を横に振った。

「いんや、中岡が死ねば龍馬暗殺は失敗する可能性がある。………あの夜、龍馬を背後から斬ったんは中岡じゃき」

 陸奥守の言葉に皆は驚いた。

「歴史の表では語られることはない。今となってはわししか知らん真相じゃ」

「……この任務に陸奥守を編成して正解でした」

 こんのすけはしらじらしく言う。

 加州は言った。

「じゃあ、あのとき見廻組のすぐ近くに中岡がいたのは……」

「……わしゃあの夜に起きたことしか見とらんが、おそらく隠れ家を教えたのも中岡じゃろう」

 陸奥守がそう言うと、南海が興味深そうにうなずいた。

「暗殺に関わった見廻組の証言と中岡慎太郎の証言に食い違いがあるのは有名な話だね」

「中岡ってさ、龍馬に心酔してたんじゃなかった? 大政奉還を成し遂げるために一緒に奔走した仲間のはずじゃん」

 加州が首を傾げながら言う。

「……それだけに、何かがきっかけで心の内にこじれたものが生まれたら、解きほぐせんかったのかもしれん。龍馬はどんな状況でも常に大局を見ちょった。後から見て大正解でもそのときは新しすぎて、周囲に理解されんこともよくあったき」

 陸奥守の話を聞いていた肥前は鼻をふんと鳴らした。

「中岡は口封じで殺された、か。ま、真相は墓場まで持ってったようだがな」

「はい。中岡は史実通り、龍馬暗殺の顛末を証言しその後死を迎えます」

 こんのすけは宙に浮く操作パネルを確認しながら言った。

「……これは」

 こんのすけが鋭く息を吸い込んだ。

「どうしたの?」

 安定はこんのすけの背中ごしにパネルを覗きこんだ。

「演算結果が改まりません……龍馬は生きています」

 陸奥守たちは驚いて一斉にパネルを見た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ