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魔法世界  作者: あかさたな
タイマンロード編
9/24

タイマンロード その五

 Aランク挑戦まであと5日、ダンバスタとビビデはなんとなく誰がバックスかを掴みかけてきた。

 まず、少しずつクギュンに探知魔法をつけておいた。今では大体40人ほどが探知できる。そこでわかったのは、タイマンロードの第四トイレにクギュンと名前がついた者は来ることが多いことだ。他のトイレも使うことはあるが、第四トイレは定期的にクギュンが入ってくる。まずここで見た目を変えていることは確定だろう。

 問題は、クギュンと名前がついたものが一人で来ることがあることだ。ただのトイレの可能性もあるが、ほとんどの場合は一人だ。

 ここで立てた仮説は、トイレのどこかの場所が発動条件として入っている可能性。もしくは出ていくところを見ることが発動条件の可能性もある。

 とにかく、バックスに近づいてきたことは間違いないだろう。

「まあまだ焦ることはないよ。クギュンを殺すのは最悪トーナメント後でもいい。最悪なのは今クギュン組と敵対することだと思うよ」

 ビビデがそう言った。

 ダンバスタは今第一タイマン場近くのベンチに腰かけていた。ビビデはさっき賞品として手に入れたパンをほおばっている。時計を見ると、もう正午を回っていた。

 今日は何もしていない。ある程度バックスの正体を掴みかけてきたとはいえ、トイレの周辺をうろつき続けても怪しまれるだろう。

 さっさとバックスの正体を見つけて安心したいところだ。それにしてもやることがない。誰か適当に話しかけてみようか。そう思って首を動かす。左に動かしたとき、例の貴族たちがいた。しかし一人の様子がどうも違う。なんというか、悪意に満ちた顔をしているのだ。前は知的な感じだったのに。もう一人は相変わらずバカっぽかった。

 無言で席を立つ。ビビデがこっちを見てきた。責めているようだったが、情報があるに越したことはないだろう。

 ダンバスタは歩いて貴族達に近づいていく。あちらも気づいたらしい。

「ああ、昨日の」

 と知的な方が言ってきた。

「なあ、あんた名前なんて言うんだ?」

 知的な男は少し狼狽した様子を見せたが、すぐに持ち直した。

「ベッツ・トリュアセンっていうんだ。こっちが...」

 そういってもう一人の男を紹介しようとする。しかし、どうも面倒くさそうにしている。それを見たベッツは思いっきり男の背中を叩いた。

 痛そうに背中をさすり、恨めしそうな顔でベッツを見た男が、嫌そうにダンバスタに向き直った。

「ホール・タルトだ」

「ユイ・ウォーカーだ。よろしく」

 そういって手を差し出す。ベッツが応えた。

「悪いんだけどさ、僕ら最近このタイマンロードに来たばっかで、なんも知らないんだ。できたらいろいろ教えてほしいんだけど...」

「全然いいぜ」

 むしろ願ってもないことだ。これで相手にいろいろ聞くことに違和感がなくなってくる。とにかくベッツ達の目的さえ聞ければそれでいい。一番マズイのはベッツ達と敵対し、グランとの関係が悪くなることだ。さすがに戦争とまではいかないとは思うが、パラサリーとグラン、両国の関係は冷え切っているというほかない。面倒ごとをおこせば面倒どころではすまないかもしれない。

「ここだとなんだし、座ってしゃべろうぜ」

 そういってビビデの右隣のベンチを指さした。今、ビビデの俺に対する心象はそこまで良くないだろう。ビビデは賢い。一時の感情にまかせて俺の正体をバラすことはないだろう。しかし万が一という事もある。なるべく関係は良好に保っておきたい。

 ベンチに三人で座ると窮屈だったので、ビビデに左に詰めてもらい、隣に座った。

「で、何が聞きたいんだ?」

「まずさ...」

 ベッツが聞いてきたのは、食料の調達方法、パポパ組やゴバビバクルガ組の戦力、そして現Sランクのコピルークなどタイマンロードの戦力。そしてコピルークが出ていくことを聞くと、特に興味がなさそうな顔をした。しかし、ノレッジを知った瞬間、俄然興味を持ちだした。

 つまりこいつらは調べものをしにこのタイマンロードに来たわけだ。これまでの情報は、全てホールの表情から推察したものだ。ベッツからはなんの情報も得られなかった。ホールに取り入るのが得策だろう。

 その時、ベッツの本が急に開いた。

「リッケル・ピケル二ケル様より、タイマンが申し込まれました。種目はデスマッチです」

 急に本が音を立てたことに驚いたらしい。ベッツはのげぞり口をパクパクしている。

 それにしてもなんでこのタイミングで、しかもリッケルが?

 こいつらが貴族ってことが分かったってことだろうか。まあそう考えるのが普通だろう。だがどうやって?

「第二タイマン場に、5分後までに来てください」

 ベッツはため息をついた。

「ありがとう。ちょっとタイマンしてくるよ」

 そういってベッツが立ち上がった。つられてホールも立ち上がる。

「じゃ、また今度」

 二人が立ち去ってから少しして、ビビデが話しかけてきた。

「よし、見に行こうか」

 ビビデがそう言った。

「ああ」




 目の前に耳たぶが異常に大きい男が立っている。リッケルというらしい。しかしなぜ俺にタイマンを挑んだのだろう。俺が貴族だとバレたという可能性が最も高いが、観客の雰囲気的にそうではないような気がする。もっと盛り上がっていてもいいはずだ。だとしたらなぜだ?

 いや、今はそこではない。コイツに勝つのが先決だろう。リッケルはたしかAランクのはずだ。タイマンロードに居るものの平均使用可能魔法は、2から3つだったはず。いや、ということは、少し多くて4...?

 いや違う。半数くらいがグランの貧民なんだ。貧民の使用可能魔法を1とすれば、5つが妥当。それにAランクまで上がっている奴だ。6つはほぼ確実に持っている。

 タイマン場を観察する。確か本では50×50mの円形とのことだ。リッケルと向き直る。

 ゴングが鳴った。



 いつも通りやれば、瞬殺される可能性は低いだろう。

 とりあえず分身魔法を使う。

 背中から自分の体が脱皮するようにして出てきた。

 リッケルは空へと浮かんだ。自由に動いているところを見るに、持続魔法で確定でいいだろう。

趣味の時間(レベリング)

 ベッツの右手には拷問しているときに使っていたのと全く同じ串が握られていた。分身も持っている。

 そして投げた。リッケルはそれをひらりとかわす。

 それを見たベッツはにやりと笑った。

「軌道操作」

 一度通り過ぎた串がくるりと回転し、リッケルへと進んでいく。リッケルもしっかり見ていたため、それを躱す。

 さらに軌道を操作し、挟み撃ちの形になった。串が前後から迫ってくるが、リッケルは焦らず上へと逃げる。

 そのとき、串が消えた。とりあえず軌道魔法を解除し、硬質化魔法に切り替える。持続魔法使用限界の2つは分身で一つ使っているので、軌道と硬質化の二つでもう一つを埋める形になる。

 それにしてもなぜ串が消えた? 消去? いや、違...

 後ろから串が刺さってきた。硬質化を発動していたため、傷はつかなかったが、本体のベッツは痛みに悶えた。分身のベッツでリッケルの動向は目に写している。

 リッケルがこちらへと飛んできた。

 まあいい。()()()は上がっているんだ。

 串が消え、ナイフが右手に握られた。

 これでレベル2だ。さっき串が当たったところの痛みが上がっている。レベル5になる前にあいつに当てなければ、俺が痛みでショック死してしまう。しかも、この効果で一人殺すまで永遠に続く。

 レベルの上げ方は、上がるレベルと同じ数、相手に具現化した拷問用具で攻撃することだ。しかし例外的に、最後に自分を攻撃した場合は、次のレベル×10秒でレベルが上がる。

 ベッツは顔をしかめる。このままいけば二分弱で死んでしまう。

 空を飛んでいたリッケルは、大体10mほどの距離で一旦とまった。そして掌底を繰り出す。

 その圧で強風が吹き、分身ともども後ろへ吹き飛ぶ。強化? いや風圧を作るのか?

 なんとか受け身をとれたところで、顔を前に向ける。

 そこには、顔に表情のない、金髪で裸の幼女がいた。

 いや、違う。どこか関節の動きがおかしいような...人形?

 人形が膨らんだ。直後、あたりに轟音が響き渡り、煙が舞った。地面は抉れ、少しした後石が降ってきた。。

 ベッツの目には、直前でなんとか間に挟み込んだ分身の姿があった。腹のあたりで受けさせたが、文字通り皮一枚だけ残っている。

 もしこんなのが直撃したら...

 ベッツは無意識のうちにニヤけていた。そして急いで距離を取ろうとして、しゃがみこんだまま後ろへ飛びのく。

 リッケルはまた同じ人形を地面に落とした。その顔は笑っている。

 いつの間にか、右手でナイフを握っている。レベル2の武器だ。

 一度分身を消し、もう一度出しなおす。硬質魔法を解除し、その分身でお互いを触り、軌道魔法を発動した。

 軌道を上に向けることにより、宙に浮かぼうとするが、また掌底に阻まれ、後ろへと吹き飛ぶ。タイマン場の透明な壁に頭を打つ。

「いってぇ」なんとか立ち上がり、分身を空へ飛ばす。しかしリッケルの近くまで行くことはできないだろう。

 まずあの串の転移。触れてなかったし、おそらく発動条件を満たすことで発動するタイプ。

 個人的には地雷のようなものとして設置する説が一番有力だ。それならば、あの転移に納得がいく。それに変な条件を付けるものは少ないし、地雷というのはこのタイマンロードでも通用するほど使い方が多い。なんならあることにより、相手の全ての行動を制限できるのだ。

 だとしても必ず地雷の数には制限が生まれるはずだ。とにかく突っ込みまくれば...

 ベッツの淡い願いはすぐに打ち砕かれた。なんと空間が爆ぜた。分身の右半身が抉れ、内臓が飛び出し、赤い雨が空から降ってきた。

 つまりこのリッケルという男は、転移、爆発の二種類の地雷が使える。

 この時、無意識にベッツは笑っていた。

 そしてナイフを自分の腹に向け、刺した。実際には硬質化魔法を使ったので刺さらなかったが、カンカンと金属がぶつかり合うような音がした。

 ここで一気にレベル4まで上げる。ナイフは剣へ、剣は鋸へと変わった。

 身体が割れるように痛い。ありとあらゆる神経がちぎれてはこねくり回され、強引にくっつけてねじ切られているようだ。顔は歪み、足を前に出すことすら難しい。

 しかし、動いた。気力で。

 レベル4だ。ハイリスクハイリターン、リスクを負わなくして勝てるはずがない。

「やべえ、楽しい! 生きてるんだ!」

 ベッツは叫び、まっすぐリッケルの方へと走っていった。




 リッケルは断然有利な状態にいたが、まったく油断せずにいた。

 ベッツの使用魔法は分身、硬質化、あと軌道操作、もしかすると浮遊もある。いや、軌道操作と浮遊は同じ魔法かもしれない。あともう一つは...武器の具現化?

 幸運なのは、相手が持続魔法3つだということだろう。しかも、全て同時に使わなければ俺に勝てない以上、空から人形を落とし、掌底で行動を制限すれば完封勝利だ。

 しかしなんだ、この不安感は?

 ベッツは鋸を持ち、笑っている。屈託のない笑顔だったが、どこか圧倒的な暗さを感じさせた。

 まず死にかけて笑うやつは少なくない。あまりに現実感がわかないためだ。ただ、コイツはそういうのとは違う。ただ、楽しくて笑っている。

 状況をいったん整理しよう。爆破罠と転移罠は合わせて10まで、空間に設置できる。今は8つ使っている。

 ベッツは壁を背にし、様子をうかがっている。

 かと思うと、全速力で走ってきた。人形は分身に受け止められた。爆発し、煙が舞う。

 マズイ。リッケルはいそいで離れる。上にはタイマン場の制限があるのでこれ以上はいけない。

 煙でベッツの姿が見えなくなっていた。掌底を放ち、煙を取り払う。しかし、ベッツがいない。

 ハッとして振り返る。分身を発動していたため、どちらが本物かは分からなかったが、片方が鋸で腕を落とそうとしてきた。すぐに腕をひっこめるが、かすってしまった。チクっとした痛みが走る。

 直後、全身が割れるような痛みに包まれた。全身の神経が靴底で踏まれているようだった。

 痛みで一瞬気が遠くなる。その隙を見逃さず、ベッツに腹を殴られる。

 いったん浮遊魔法を解除し、下へと逃げようとする。

 あの野郎。転移魔法を使うために硬質化を使わずに突っ込んできやがった... 転移罠じゃなくて爆破罠だったら死んでたんだぞ? 

 位置関係は今、リッケルが下、ベッツが上になった。

 早いとこ上とらねえと、人形が意味をなさねえ。

 ガシャン!

 金属が激しくこすれ合う音がし、体がこれ以上下に行かなくなった。

 やる気のないブリッジのような格好で宙で止まる。

 なんとか体を起こす。腹から鎖が出て、ベッツの右手につながっていた。長さは...大体10mか?

 ベッツの上に何やら文字が浮かび上がっていた。片方にしかない。ある方が本体とみていいだろう。

「レベル5まで、あと4?」

 とにかく4回食らうのはマズイってことだろう。

 浮遊魔法で体を持ち直そうとしたが、ベッツ達が鎖を掴み、背負い投げの要領で地面へと叩きつけられる。

「ぐえっ」

 血が口から噴き出した。鉄の臭いが気持ち悪い。なんとか立ち上がろうとするも、ベッツ達がもう上に立っていた。

「やっぱ、地雷って設置から発動までにある程度時間がかかるんだね。あそこまで接近戦避ければさすがに悟られるよ」

 そう言って鋸を持ち上げた。右肩の少し下のあたりに刃がささり、前後に引くことによってカウントが減る。骨に引っかかり、すこし鋸が止まった。その間に転移罠が発動し、爆破罠を設置しておいたところへと飛ぶ。どうやらベッツも連れてくることができたようだ。

 爆発が起き、ベッツが吹き飛ぶ。しかしだめだ。人形にくらべて火力が低すぎる。ちょっとかすり傷が出来ればいい程度だ。

 吹き飛んだベッツに鎖でくっついているため、リッケルも同じ方向へとつられていく。もう一人のベッツが近づき、左わき腹を殴られた。さらに鎖がくっつき、反対方向へと飛んでいく。

 マズイ。マズイマズイマズイマズイマズイ!

 もしこの鎖が絶対に外れないものとして、このままベッツ本体と分身が離れすぎれば、おれの体が裂けるかもしれない。いや、もう行動に移しているんだ。絶対に裂ける!

 人形を作り、文字が上にある方を探した。レベル5まであと2。

 投げた人形は弧を描いたが、見事に外れた。

 いつの間にかもうかなりベッツ達との距離が離れている。

 股が裂けそうになり、転移罠で円のギリギリに飛んだ。

 タイマン場の壁よりも外に転移することになったベッツ達は、まるでゲームのバグのようにリッケルのすぐ両側にいた。

 人形を作る。ベッツ達は鋸でリッケルを切ろうとした。

 爆弾の範囲は大体把握している。文字が上にある方のベッツの後ろに投げる。

 ぎりぎり、自分が死なない距離まで行ってくれ。

 ベッツ達がレベル5に達するか、それとリッケルの人形の距離が離れるが早いのか。


「あああああああああ! ぐっ、ぐあああああああ!」

 リッケルは叫び、体をビクビクと跳ねさせ、痙攣していた。顔はひきつり、泡を吹いている。体が割れるなんてもんじゃない。体をとぐろを巻くように、ありえない力で曲げ、骨を粉砕するかのような痛みだった。

 そして、動かなくなった。

 ゴングが鳴る。

「勝者はベッツ・トリュアセン様です。Cランクへの昇格となり、今回の勝利景品をカタログから選ぶ際、Cランクから選ぶことができます」

 ベッツは笑い、右腕を突き上げた。

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