タイマンロード その二
「でも俺そんなタイマン強くないぞ」
ダンバスタがそういった。
ビビデは広場ですいている場所を探している。そこを寝床にするらしい。
「ん、使える魔法は何?」
「探知、強化、再生だ。そもそも俺がここに来た理由って、俺が再生もってるなかで唯一戦闘もできるからなんだよ。だから防衛騎士って三人一隊だろ? 俺ってよく言えばオールラウンダー、悪く言えば器用貧乏なんだよな。複数対複数で初めて真価を発揮するタイプ」
「まあいいよ」
ビビデは気にしていないようだった。
「それに、あのコピルークってやつが強すぎる。使う魔法を見た感じ、俺の完全上位互換じゃねえか」
「大丈夫だよ。コピルークは倒さない」
「どういうことだ?」
ビビデは場所を見つけたらしい。マットをしいて場所を確保した。
「コピルークって何してるのか知らないけど、一年に一回絶対に外に出る時期があるんだよ。それも五日間。それが十五日後にくる。そこまでにAに上がり、それを保持する。Aが外に出た場合はBのランク保持期間が最も長い人が繰り上がるんだけど、Sの場合はAの全員でトーナメントが行われる。これに三日かかる。
外に出たらランクは最初からやり直しだから、四つあがる、つまりコピルークが出てから、5足す4引く3。
つまり六日の間に僕と君の分で二日Sを保持する。これでウィンウィン」
「だとしても、あのじゃんけん作戦があるぜ。パポパ組もあの実力のやつがうじゃうじゃいたら勝てねえ。ゴバビバクルガ組の実力はいまいちわかってないんだろ? じゃあどうするんだよ」
「クギュン組に入る」
ダンバスタはその言葉を聞いて、納得した。
クギュン組はマナの乏しいグランの貧民の集まり。そこに俺を入れる、それもビビデの分析魔法を説明すればマナの総量で俺の位は確固たるものになる。
「なるほど、お前の魔法を使うんだな」
そういうとビビデは呆れた顔をした。
「ユイさあ、頭いいけど抜けてるよね。タイマン申し込みの欄から名前を見てみなよ」
言われた通りに本を開き、クギュンを探す。
「えーとクギュンクギュン...あった! あれ?」
クギュンは確かにあった。フルネームはクギュン・スレイヤーというらしい。しかしおかしい。クギュン・スレイヤーが2人いる。
ページをめくる。そのページは全てクギュンで埋め尽くされていた。さらにめくる。またいる。それも8人。
「どういうことだ?」
「クギュンってのは、本物が誰かわからないんだよ。今にいるクギュン組のやつはほとんどクギュンって名前でやってる。それに顔も変えてる。タイマン場の上だけが無法地帯ってよく勘違いされるんだけど、外だって無法地帯だ。殺し以外ならなにやっても許される」
そこでダンバスタは少し考え、口を開いた。
「つまり本物のクギュンは、人を殺せる魔法を持っている。それも仲間を殺されることによって発動するタイプってことか?」
ビビデは笑った。
「やっぱり頭いいね、そういうこと。パポパ組やゴバビバクルガ組はクギュン組を一人ずつ殺せば、じゃんけん作戦でランクを落としても、いつかは殲滅できる。問題は二番目に人の多いゴバビバクルガ組の全員よりも、クギュンを名乗るやつの方が多いってことなんだよ。今現在、名乗ってるやつは60人を超える。本物のクギュンは死者の遺品を使うことで殺したものを即死できる魔法を持ってる。客に言えばそいつさえ叩ければいいんだけど、身なりを変更できる魔法を持ったやつのせいでわからない。その身なりを変えているやつも誰かわからない。それにユイもやっているように偽名はここでは有効なんだ。だからクギュン組は潰れない」
「つまり今一番強いのはクギュン組ってことか。貧民に意気地なしが多いのを差し引いても、数が多いことが強い。そこでAまで上り詰めて、裏切るわけだな」
しかしビビデは顔を横に振った。
「いや、違う。よくも悪くもクギュン組は平等すぎる。僕たちが入ったところで、マナの多い便利屋ってとこだろうしね。それに僕の分析魔法を思い出してみなよ」
「あ」
気づかなかった。クギュンにとってビビデは天敵だ。
「まあクギュンってのが本名の可能性はないと思うけどね。本名を見抜く魔法の存在を考慮してないわけがないと思うし。仮にいたとして、ソイツの名前を使ってるだけって可能性まである。そんでもって、僕たちの当面の目標。それはタイマンロードを元通りに戻すこと」
「元通り?」
「僕こう見えても、タイマンロードの中では結構古株なんだよ。3歳から、もう10年はここに住んでる。もともとクギュンが来るまでは、こんなしょうもない道じゃなかったんだ。毎日命を削ってたし、実際に人がポンポン死んでた。そこに出てきたのがクギュンだよ。あいつのせいでもうめちゃくちゃ。戦わず、命を賭ける覚悟のないやつがのうのうとここで暮らしてる。ルールにのっとってると言われればそれまでなんだけどさ。パポパやゴバビバクルガみたいな、タイマンに命をかけまくってたやつにはまあおもしろくないだろうね。連続組なんてパポパは特にやりたくないだろうし。だから本物のクギュンを見つける。そうすれば、確実にこの道は元通りになる。連続組はなくなり、純粋な実力がランクを決めるようになる。そうすればユイ、君はAまでは上り詰めるマナを持っているはずだ。マナの総量だけで言えば、この道で君はコピルークの次に多い」
「なるほどな...ん? ちょっとまてよ。殺しができないんだろ? ならタイマンした後に本の名前が灰色になるんじゃないか?」
「まあそうなんだけど、裏ルールがあるんだよ。一回外に出て、も一度入れば、もう一回戦える。これがヤバい。一回外に出て、またクギュンとして登録すれば誰だかわからない。タイマン後の5分は無敵だからね。確実に逃げられる。あ、でも一時間の無敵は最初だけだからないよ」
「なるほどな」
「じゃ、今日はもう寝ようか」
ビビデはそう言ってビニールシートを広げた。
次の日、コピルークが出ていくまで残り14日。ダンバスタとビビデはAの家が並ぶ地区へと足を運んだ。
「クギュンはA-2だよ」
しかし間近でみると半端じゃなく大きい。ビビデによると、大きい家には複数人で住んでいるようだ。
ドアをノックすると、すぐに男が出てきた。眼鏡をかけ、髪は丸刈り、顔はなんというか田舎臭かった。
「お前...」
どうやら昨日クギュン組のやつに勝ったことを怒っているらしい。たしかにビビデの言う通りだ。こいつらはしょうもない。そう思った。
「ユイというものだ。俺達はクギュン組に入りたい」
田舎臭い男はそんなことは聞いてないとばかりに、「うるさい」と言うと、ドアを閉めた。
「おい、あいつら本当にしょうもない奴らしかいないじゃないか」
ビビデは口の前に人差し指を立てた。
まあこうなるのはビビデが予測していたが、本当にこうなるとは思わなかった。とりあえず扉の前でじっと待つ。
しばらくすると、またしょうもない男が出てきた。
「クギュンさんが話聞きたいってよ」
お前もそうなんじゃないか?
中に入ると本当に大きい。天井が高いと家が大きく見えるというが、こんなに大きいとは思わなかった。本当に大きい。いや異常に大きい。
応接室のようなところに通され、ソファに腰掛ける。ふわっふわだったが、落ち着かなかった。ダンバスタは硬いほうが好きなのだ。
ちょっと待つと、またまたしょうもない男が出てきた。
「すまなかったね、下のものが面倒かけて」
どうやらこの顔がクギュンのようだ。もっとかっこいい顔でもよかったんじゃないのか。
「で、俺たちはクギュン組にはいれるんですか」
そういうとこのクギュン、クギュン二号と呼ぼう。二号は笑った。
「まあまあそんな焦らずに、ちょっとばかし質問させてもらって、合格かどうか決めるよ」
「はい!」
ビビデがいい返事をした。これだけならただの少年にしか見えない。
「じゃあその一、君たちはグランの貧民街出身?」
「違います」とダンバスタ。
「そうです」とビビデ。
「わかった、ありがとうこれで終わりです」
その一とはなんだったのかが気になるが、まあいいだろう。
「で、結果はどうです」
「二人とも合格!」
マジで何なんだよコイツ。そういいたいのを堪え、「ありがとうございます」とダンバスタは答えた。
ビビデはソファでぴょんぴょんしている。
ニコニコしながら二号は口を開いた。
「まあ別に誰でもいいんだよ。でもこういった試験みたいなの、ちょっとあこがれるだろ?」
「はあ...」気のない返事しかできなかった。ビビデは「そうですね!」と元気いっぱいで答えている。少し見直した。
「で、君たちの魔法を教えてほしいんだけど」
「強化と再生です」
探知は黙っておいた。もしかすれば本体に触れる機会があるかもしれない。その時にあやしまれるのは避けたかった。
「僕は分析です!」
二号はビビデの魔法に興味をもったようだ。
「ほう、効果は?」
「見た相手のマナの総量が分かります!」
本名と年齢は隠したらしい。まあ本名もわからないのに年齢だけわかるってのもおかしな話だ。
「そう、じゃあ玄関であった僕と、今の僕、マナの差はどれくらい?」
「玄関であった人があなたの二倍のマナを持っています」
「なるほど。いいよ、いい魔法だよ。正確だし」
「ありがとうございます!」
A-2から出た後、しばらくしてダンバスタは口を開いた。
「しかし、あのしょうもない奴がうざい奴の二倍のマナを持っているなんてなあ」
「まあ見かけにはよらないよ」
「さて、これからどうするんだ? 俺たちが入って、なにができるんだ?」
「それは昼ご飯をたべてから話すよ」
そういえば食料は腐るとかなんとかいってビビデが全部食べていた。
「いいぜ、誰に勝負挑む?」
「今はあまり目立ちたくない。連続組とおなじことするのは癪だけど、じゃんけんでいこうか。明日からが本番だし」
「わかった」
昼ご飯を食べながら、今後の予定を練る。とりあえずクギュン組の集会が2日後にあるから、そこまで様子見でいこうとのことだ。
それまでは情報収集にいそしんだ。
パポパ、ゴバビバクルガの二人の顔をみたり、今わかっている上位層の魔法を聞いて回った。
パポパは筋骨隆々の男だった。髪を全て剃っており、魔法なんか使わなくても強そうな感じがした。
ゴバビバクルガも筋肉がついていたが、シュッとしていて格好よかった。ゴバさんと部下には呼ばれていた。
アルシフトについても同時に聞いたが、知ってるやつはいても今どこにいるかは知らない。しかもタイマンロードでアルシフトの姿は見たことがないというやつしかいなかった。
それならばもう出たいところだが、ビビデに弱みを握られている以上外には出られない。それにSにまで上がれば必然的に場所を知ることができる。
そして集会の日がやってきた。
言われた通り、八割弱くらいがクギュンだった。みんなが輪になって立ち、ど真ん中にクギュンがいる。ビビデいわくクギュン二号らしい。
「今日は新しいメンバーを紹介しましょう。お三方、こちらへ」
そういわれてダンバスタとビビデは入っていった。別にかなり歳をとったおじいさんも出てきた。
「右からユイ、ビビデ、クトルッピさんです。盛大な拍手を!」
同じ顔、同じ背格好、同じ声をしたやつらが一斉に手を叩く姿を見て、ダンバスタはカルトじみたなにかを感じた。
クギュン二号が手を挙げると、拍手がすっとやんだ。
「それではこれからお三方にクギュン組での意気込みを聞いていこうと思います。そうですね、じゃあクトルッピさん、お願いします」
クトルッピはもはや植物ではないかと感じるほど動いてなかったが、口だけを動かした。
「クトルッピ・ボキュラギラです。皆さんの足を引っ張らず、歳をとっている分動きはできませんが、知恵は蓄えているつもりなので、頑張りたい所存です」
また拍手が巻き起こったが、今度は制止なしで止まった。
「はーい、ありがとうございました。次にビビデさん、よろしくお願いします」
「はい! ビビデ・バビデです。私は今13歳で、若い故にいろいろ至らないところもあると思いますが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしまーす」
また拍手が巻き起こった。少ない老人にはうけが良かったようだ。
「それでは最後、ユイさん、よろしくお願いします」
「ご紹介にあずかりました、ユイ・ウォーカーです。私は強化、再生というわかりやすい魔法を使え、特に再生魔法は皆さんの力になれると考えています。これからよろしくお願いします」
自己紹介が終わり、もといた位置へと戻る。計画はまだ決まっていなかったが、まあ集会を見た後でいいし、あと二週間の間にAまで上がればいいんだ。そんな焦ることでもない。
真ん中にまたクギュン二号が戻ってくる。
「ということで、新メンバーの紹介でした。皆さん、もう一度盛大な拍手を!」
また拍手が巻き起こり、二号の制止でぴったりと止まる。
「さて、ここからが本題です。今回の定期集会の内容は過去最大の発表があります。まあ皆さんも知っているでしょうが、例年通りいけばあと二週間でコピルークはここからでます。そしてトーナメントが開催されるのですが、このトーナメントで私達が勝つのは不可能に近いと言えます。そこで、私達は考えました、ここで勝つにはどうすればいいか。そして考えて考えて考えて、ついに思いつきました」
皆が固唾をのんでクギュンを見つめる。
「この中から3人、つまりクギュン組以外の優先権を持ったAクラスの者に挑んでいただきます」
周囲がどよめく。そりゃそうだろう。この中から3人死ぬって意味じゃないか。
「大丈夫です。クギュン様を抜いて113人の内の3人ですよ? まずあたりません」
「でも3人は当たるってことだろが!」
一人の男が怒号を挙げた。確か最初に戦った男だ、ドルークとかいったか。
「あいつらはタイマンのことを死ぬまでやると勘違いしてるじゃないか!」
「別に反対なら出ていけばいいだけのことです。しかしその場合は、あなたは他の凶悪犯罪者から身を守ることができるんですか? まあこんなところにいる時点でお察しですが」
そういわれたドルークはまだ何か言いたそうだったが、反論できなかった。
「いいですか皆さん、113分の3です。もちろん私だって参加しますし、平等です。参加しないのは本物のクギュン様だけです。誰が挑むかは本物のクギュン様が決めます。あなたたちが今、安全にここで暮らせているのは誰のおかげですか? あなたたちの大半はグランで厳しい生活を送ってきたはずだ。いつからこんないい生活がノーリスクで送れるなんて幻想に取りつかれた? いいから黙って参加するべきですよ」
今まで聞いた二号の声の中で、最も感情を感じさせない声だった。
「で、どうするよ」
ダンバスタはビビデに聞いた。
あの後、次の集会はまた明日にあることを告げ、二号は去っていった。今は入口付近のベンチに腰かけている。
ビビデは少し考え、こういった。
「二号には触ったんだよね?」
「ああ、探知できる。今はこの前の家にいるな」
「探知魔法ってどれくらい探知できる?」
「射程には制限がないが、わかるのはまあ場所だけだな。単発型だが、マナの消費が少ないから一回触っただけで一か月は続く。使い方は探知魔法をつかって幻覚系統の魔法を見破る。あとは探知魔法をつかったやつ限定で、投げたりした物を確実にあてる追尾とかもできる」
「おっけ、悪いんだけど僕ちょっと黙ってたことあるんだよね」
「なんだ?」
「僕って、魔法が全く使えないんだよ。貧民出身だからマナがすくないのは当然だけどさ。そ僕の唯一使えるのが分析。でもまだ話してない効果がある」
「なんだ?」
「僕はマナから名前を分析することもできる」
「はあ? なんでそんな大切なこと黙ってたんだよ」
「いや...なんか表情とかにでたら面倒だなと思って」
ダンバスタはため息をついた。
「もういいよ。で、だれが身なりを変えるやつだ?」
「バックス・コロックス。本当に悪いんだけどマジでだれかわかんない」
ダンバスタはまたため息をついた。そして本を開く。ビビデも開いた。
しばらくして二人とも暗い顔で本から顔を上げた。それを見たダンバスタはまた本を開き、クギュンの名前を数えた。
「60人もいるじゃねえかよ...」
加筆、修正を行いました。