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魔法世界  作者: あかさたな
プロローグ
2/24

賭博魔法

「えっと、それはつまり俺は魔法が効かないってことか?」

 質問にセクトが答える。

「部分的にです」

「部分的?」

「はいそうです。とてもざっくり言うと直接的なもの、催眠魔法だとか、回復魔法だとかは効きません。調理虫のように内側から燃やそうとしても、燃えません。ですが間接的には効きます。たとえば岩を魔法で操って上から落とされれば、簡単に死にます。火の玉を作って、ミル君にぶつければ、簡単に燃えます。正直いってミル君はメチャクチャ弱いです。おそらくそのダンバスタとかいう人もそれは理解しているでしょう」

「じゃあなんで俺を連れてきたんだ?」

「おそらくマナ・ボマーです」

「なんだそれ」

 セクトは簡単に説明した。

「なるほどね、でも俺を連れてきた理由じゃないぜ」

「連れてきた理由、それはマナを消費させるためです。魔法にはマナを使います。普通爆発しなければ相手のマナの量が自分を上回っていると考え、さらに出力を上げます。それによってマナが枯渇したところを襲うつもりですね。それに彼らからすれば万が一殺されても損にはなりませんし、合理的です」

「つまり俺は捨て駒ってわけか」

「そうですね。死んでもいいし、生きてたらまたダガ鉱石を掘らせればいい」

「説明上手いね」

 そう言うと、セクトが照れたように頭を掻いた。かわいい。

「あ! 魔法でそんなことできるんだったらアタラル監獄なんて簡単に脱出できるじゃねえか!」

 そういうとセクトは笑った。

「それは不可能です。ちゃんと魔法の影響が中に及ばないように結界が張られています」

 ここでずっと考えていたことを聞いてみる。さっきから質問してばっかりだ。

「なあ、なんで非人はダガ鉱石を掘らせられるんだ?」

 そういうと、セクトは棚から赤紫色の服を取り出してきた。

「これはダガ鉱石が使われています」そういってセクトが服を手渡してきた。

 これがダガ鉱石だということがミルは信じられなかった。彼にとってダガ鉱石は青いものであったからだ。

「で、これがどう関係してるんだ?」

 セクトは全体的に細長い感じで、とにかく毛が多い虫に餌をあげながら説明する。

「ダガ鉱石はマナを吸収します。それはつまり魔法を吸収するということです。まあある程度なのでお守りみたいなものですが。私が魔法学校で学んでいるとき、実技の授業では必ずその服を着ていました。ってこれは話と関係ないですね、ダガ鉱石というのは繊細で、マナを持つ人が触れただけで紫色まで変色します。非人がダガ鉱石を掘らされる理由は青いダガ鉱石には宝石としてとても高い価値があるんです。それもこの国、パラサリーにおいては最も高貴な宝石とされています。特に王族や貴族にとって青いダガ鉱石の所持は一種のステータスになっているらしいです。今回あなたがまた鉱山に連れていかれなかったのはおそらくダガ鉱石の価値を高める狙いでしょうね、最近は庶民でも買えるとの話ですから」

 そういってセクトはミルに餌を渡し、調理虫の虫篭を近づけてきた。餌をやれということだろう。

 ミルが調理虫に餌をあげ終わった後、セクトは口を開いた。

「皮肉なものですね、彼らにとってこの世で最も高貴な宝石、それは彼らにとって最も低俗な者しか得ることができない」



 時計を見ると、六時まで三十分もなかった。

「じゃ、そろそろ帰るわ」

 ミルがそう言うとセクトが立ち上がり、手で覆えるほど小さな空の虫篭を持ってきた。

「これは私が魔法の練習中に偶然虫を突然変異させてしまってできた、透明虫です。もともと虫を近くで観察するために認識阻害の魔法を練習をしていたら、学習したのかなんなのか、透明な虫ができてしまいました」

「へえすごいな、でもこれがどうしたんだ?」

「もし困ったら、この虫篭を開けてください。必ず助けにいきます」

 そういったセクトの顔は真剣だった。

「でもなんで俺にこんなしてくれるんだ?」

 素朴な疑問を訊いてみた。

「理由はいえません。でもミル君が生きていれば、必ず気づきます」

「どういうことだよ、全体的に説明が足りないぞ」

 ミルの言葉にセクトは困った顔をした。

「しょうがないんです。私でもすべては知らない、いやもう知れないんです。あ、あと絶対に額のバツ印をとってください」そういうとセクトは家に入っていった。



 防衛騎士団の基地についたとき、約束の六時までまだ三十分時間があった。

 相変わらずの城の白さに感嘆し、さっきまでいた郊外との活気の差に驚く。

「なにそこにいんのよ」

 背の高い女が話しかけてきた。たしかヂャブヂャとかいったか。ダンバスタと話しているときはゴリゴリの丁寧語で、上目遣いで。いやヂャブヂャのほうが背が高かったので上目遣いではないか。

 そんなことを考えているとヂャブヂャがまた口を開いた。

「ねえ邪魔だからどいてくれない」

 語気が強い。ダンバスタと話していたときのあの柔らかい感じはどこへいったのだろうか。

「いいけどよ、このバツ印はずしてくれないか」

「なんでよ、それがないと普通あんたが非人だってわからないじゃない」

「さっきその辺で聞いたんだけど、マナ・ボマーとやらを捕まえるために俺を身代わりにする作戦だろ、じゃあこのバツ印を見られたらマナ・ボマーに俺が非人ってバレるんじゃないのか」

 そういうとヂャブヂャはふん、と鼻を鳴らした。

「そんなことしたら人じゃないのに人として生きることが可能になる、許可できないわ」

「でもマナ・ボマーが今の間に俺を見れば、一発で非人ってことがバレて作戦が意味をなさないぜ」

「さっきまでその辺ほっつき歩いてたんだから、見られてるとしたらもう見られてるわよ」

「だがまだ見られてなくて、これからみられる可能性があるだろ」

 ミルがそういうとヂャブヂャはため息をついた。無言で近づき、手をミルの額にかざす。

「解除」そういってミルから離れていった。

「これでいいでしょ、納得いったならさっさとそこどいてよ」

「一応鏡とかで見せてくれないか」

 ミルの言葉にヂャブヂャは再びため息をついた。

 ダンバスタのように空間に穴をあけ、鏡をとりだす。ミルはそれを受け取って額を確認した、

「よし、どけばいいんだな」

 ミルがそういうとヂャブヂャがもううんざりといった顔で言った。

「わかってるならさっさと動きなさいよ」


 六時五分前、ダンバスタが基地から出てきた。

「よし、これを着ろ」

 そういわれて渡されたのはダンバスタやヂャブヂャと同じ服だった。セクトの言う通り囮として使われるらしい。

「で、具体的になにすればいいんだ」

「お前はこの一番通りにいろ」

 ダンバスタはそういってミルから地図を回収し、指さした。

「ここで防衛騎士のふりをしておけばいいんだな」

 ダンバスタは何も言わず、反応すらしなかった。あっているという事でいいのだろう。

 そこでヂャブヂャが手を挙げた。

「私達は透明化魔法を使ってもらって、見張っておけばいいんですね」

「そうだ」





 どうやら成功したらしい。ついに非人を公の舞台に持ってこれた。確かミルとかいったか。あとはうまく捕まらずに爆破していくだけだ。ときおりミルがいることによるヒントを与え、ミルを監獄に戻させなければ本当の姿が見えるはずだ。

 とにかく今日は適当に爆破しよう、もしミルだったら、一瞬顔を見せるくらいならいいかもしれない。

 そう思ったときだ、周囲に轟音が響いた。

「マナ・ボマーだ、マナ・ボマーがでたぞ!」誰か知らないが、おじいさんが声を張っていた。

「は?」

 まだ俺はなにもしていない。それにマナコチからは「一人で頑張れ! 正直いって人材不足なんだよ!」そう聞いていた。もう一人投入するにしろ、何か連絡があるはずだ。

 つまり模倣犯がいる、愉快犯にしろなにか思想があったにしろ、面倒極まりない。

 とりあえず音のした方に近寄る。野次馬が集まっていたので、人のよさそうなおじいさんに話しかけた。

「すみません、何があったんですか」

 おじいさんは最初自分が話しかけられているとは思わなかったらしい。少しの沈黙の後、答えた。

「いや今までと違って防衛騎士じゃなく、一般人が爆破されたらしいよ」




 ダンバスタが見るからに苛立っていた。ヂャブヂャがおろおろしていて、ひたすらダンバスタの周りを歩いている。どう考えても神経を逆撫でする行為と思うのだが、口を出しても無視されるだけということを学習したので黙っていることにする。

「ヂャブヂャ、どういうことだと思う」

 急に話しかけられたヂャブヂャが一瞬固まる。ダンバスタが怖い。険悪な雰囲気になってもまったく関係ない、なんならダンバスタやヂャブヂャのことは嫌いなので俺は喜んでもいいのだが、あまりにも怖いので情けないがヂャブヂャには頑張ってほしい。

「やっぱり模倣犯っていうのが1番ありそうだと思いますが…」

 驚くほど歯切れが悪い。

「俺もそう思う、だが何のために殺されたのだ」

 ダンバスタがそう言ったところで、全く知らない騎士が走ってきた。

「すみません、殺された人の情報が入りました」

 そいつの話によると、殺されたのは二十歳のペースト・コピーシーという男らしい。酒場で働いているそうだ。

「よし、このぺーすとという男の周辺を調べよう。ヂャブヂャ、ついてきてくれ」そういってダンバスタはミルを指差した。

「とりあえず明日はお前は来なくていい。金と時計渡すから、明後日の夕方5時にまたここへ来い」

 そういってダンバスタはミルにいろいろ渡した後、爆破現場に走って行った。



 さて、とりあえず飯を食うことにしよう。その後鉱山へ行くことにする。

 だが飯をどこで食えばいいのか分からない。マナコチかセクトに聞いておくべきだった。過去を振り返ってもしょうがないので、セクトの家に行くことにした。


 セクトは嫌な顔をせず、家にあげてくれた。飯の食い方が分からないというと、セクトがご馳走してくれることになった。


「はい、腕によりをかけて作った、クラウドビーと調理虫の幼虫のスープです」

 こんなことを言ってはなんだが、引くほど食べたくない。

 とりあえず一口食べることにする。

 以外と美味しいが、調理虫の幼虫の食感が噛み切れない肉の筋と同じだった。

「なあ、鉱山ってどう行けばいいかわかる?」ミルがいった。

「それなら私が案内しますよ」

 なにからなにまで頼りっぱなしだ。


「そういえばその右肩の蛹って何の虫だ?」

「これは、自殺蝶です」

「自殺蝶?」

「そうです。個体差はあるのですが大体10年生きると、まるで自殺するみたいに頭から落ちていくことから名付けられました。特徴は体内に大量の寄生虫がいること、この寄生虫が増えすぎたことで、落ちていくと言われています。この蝶の最も面白いところは何だと思いますか?」

 ミルは少し考えた後、こう答えた。

「蛹になにか特徴があるとか?」

「違います」

 そういってセクトはスープを飲んだ。躊躇がない。

「正解は最初は寄生虫なんていないことです」

「どういうことだ?」

「なぜかは分かりませんが、わざと体内で寄生虫を増殖させているってことです」






 とりあえず殺された者の素性を再度確認する。

 ペースト・コピーシー、二十歳、男。飲食店で働いていて、基本無口で喋らない。同僚からは仕事のできる男とのことだ。家族はおらず、家は借家。特に変わったところはない。

「ダンバスタさん、これからどうしますか」

 ヂャブヂャが聞いてきたので、少し考える。

「やっぱ現場に行くのがいいだろうな」

「わかりました」


 とりあえず現場についた。やはりと言ったらあれだが、なにか犯人の正体につながるものはなかった。諦めてさっさと帰ろうとしたところ、男が話しかけてきた。中肉中背、黒縁の眼鏡、全体的に落ち着いたイケてるオヤジといったところだ。

「すみません、防衛騎士の方ですよね」

「はい、そうですが...」

「私、クロシロ・ウィンルーズといいます。職業といっていいのかわかりませんが、ギャンブラーです」

「はあ...」

 全く話が見えてこない。ギャンブラーがなんなのだ。

「私見たんですよ、この前マナ・ボマーが爆破しているのを」

「で、どんなやつだったんですか」ヂャブヂャが息巻いている。

 今までつまらなそうにしていたヂャブヂャが急にスイッチが入ったらしい。話に急に入ってきた。おそらく裏表が激しいタイプだろう。

「私の知っているひとでしたよ」

「だから誰なんですか」

「タダで教えるわけにはいきませんよ」

 ヂャブヂャがイライラしている。絶対裏表が激しいタイプだろう。

「金が欲しいんですか」ダンバスタが言った。

「いや、だからいったでしょう。私はギャンブラーですよ」

「ギャンブルですね、わかりました。なにをかければいいんですか」ヂャブヂャが訊く。

「青いダガ鉱石」

「無理ですよ」

 ダンバスタが言う。

「いや、できるでしょう、エランガリ家の長男ならば」

 どうやら最初からわかってて話しかけてきたらしい。厄介な男だ。

「だとしても釣り合わないでしょう」ヂャブヂャが言う。

「あなたは関係ないでしょう」

 急にドスのきいた声になった。顔は先ほどまでが嘘のように険しい。おもわずヂャブヂャが後ずさりする。

「わかりました」

「それはよかった」

 クロシロがにこやかな顔に戻った。ヂャブヂャが心配そうに見つめてくる。

「それはそうとして、いくつか確認したいことがある」

「なんでしょうか」

「まず俺が勝ったとして、あなたがその情報を教えてくれる保証がない。それにその情報が嘘である可能性も否定できない。この二つをクリアしたうえで勝負しよう」

 クロシロがもっともだというふうに頷いた。

「まず私の魔法をお見せしましょう」

 そういって格納魔法で紙とペンを取り出した。

「ここに名前と賭けるものを書いてください。今回はこれを賭けるものにしてください」

 そういって石をひろいあげ、渡してきた。いわれた通りにする。

「あなたもどうぞ」そういってヂャブヂャにも渡していた。

「今からギャンブルを開始します。二人とも、相手の賭けるものに納得した場合手を挙げてください」

 言われた通りに手を挙げる。

「今回はコイントスにしましょう。ダンバスタさん、表と裏、どちらか選んでください」

「表で」

 クロシロは頷き、コインを親指ではじいた。宙に舞ったコインがクロシロの手の甲に落ちる。かなり慣れているようだ。

「裏です」


 気がつけば先ほどまで右手に持っていたいしがなかった。

「えっ」

 見るとヂャブヂャが持っていた。

「これが私の魔法、賭博魔法です。ダンバスタさんが体験した通り、この魔法はギャンブルの取り立てを自動で行います。また、賭けるものが賭けた人に出せない場合は、ギャンブルを始めようとしたところでその紙が燃えます。一応やっておきましょう」

 そういってまた紙を渡された。クロシロの言う通り、紙が燃えた。

 その様子を見て、ダンバスタは少し考えた後こういった。

「少し相談させてもらうことはできるか?」

「いいですよ」


「ヂャブヂャ、あいつはどうだった」

「年齢を五十歳として、平均的なマナの持ち主ならば、私達に対して有効なレベルの練度の魔法はあって二つですし、そのうちの一つはあの賭博魔法ですから、もう一つの魔法がとんでもなくイカサマ向きってことでしょうね。とにかくその魔法を見破れば勝ちは確定します」

 少し考えた後、ダンバスタが口を開く。

「ヂャブヂャ、俺の代わりにギャンブルしてくれないか」

「え、私ですか」予想外だったようだ。

「俺の魔法は戦闘用ばっかだから、こういうところで応用が利かない」

「わかりました」


 戻るとクロシロがにこやかに笑いかけてきた。軽く頭を下げ、「このヂャブヂャが俺の代わりにやってもいいですかね」といった。

「いいですが、賭ける人の名前はダンバスタさん、ヂャブヂャさんは代理人として記入してください」

「わかった」


 紙に必要事項を書き込む。インクが異常なほどでるのでところどころにじんでしまっている。

「書き終わりました」

 そういうとクロシロは近づき、紙を触った。手にインクが付く。

「いや、よく幻系統の魔法を使われるので、対策ですよ」

 確かに紙に書くだけならそれで騙せてしまう。

「あなた方も確認しますか?」

「どうだ」ヂャブヂャに聞いた。

「大丈夫です」

「大丈夫だ」

 そういうとクロシロはうれしそうに笑った。





「さて、今回のギャンブルですが、ヂャブヂャさん、なにかこれがいいといったような希望はありますか?」

 どうやらどんなものでも勝てる自信があるらしい。

「私はギャンブルには詳しくないので...」

「じゃあ先ほどと同じ、コイントスにしましょう。ですがルールは変えます」

「どのように?」

「まず裏表を指定して、コインを投げる。ここまでは変わりませんが、先に二回出した方をそのゲーム勝ちとし、さらにゲームを三回とった方をこのギャンブルの勝者とするということです」

「いいですよ」

 幻ならば、私の魔法でなんとかなる。問題はそれ以外だった場合だ。

「そうそう、今回のギャンブルでのイカサマですが、発覚した場合そのゲームは負けということでいいですか?」

「まるでイカサマをするみたいないい方ですね」

「あなたのためですよ...」そういうと不敵に笑った。

「あ、そうそう」そういってクロシロはダンバスタに向き直った。

「賭博魔法は外からの魔法を防ぐ役割もあるので、あしからず」

 そういってクロシロはコインを取り出した。

「それじゃ、始めましょうか」


 一ゲーム目は、ヂャブヂャが表、クロシロが裏になった。ヂャブヂャが後攻

 二ゲーム目だ。今回は裏表、先攻後攻は一ゲーム目の反対になった。

 コインをはじく。すこし不格好だったが、うまく手の甲にのせられた。表だ。どうもついてない。

 次に私がクロシロにコインを渡し、クロシロがコインをはじく。表だ。

「いや~リーチか。運が良くて悪いね」

 さすがにおかしい。先に私が二連続で表を出しているとはいえ、相手の指定した面が五連続で出るというのはどうもできすぎだ。

 この状況、必ず相手はイカサマしている。そう考えていいだろう。軌道を操作する魔法だろうか、いや、それならば最初にどんなゲームでもいいといったことと矛盾する。

 まあ今考えてもしょうがない、次は私がコイントスをする番だ。ここでこっちが幻覚魔法を使えば、相手にコインを渡すまでにコインの向きを合わせることができる。今までは様子見で使ってこなかったが、出し惜しみしている場合ではない。

 コインをはじく。裏がでた。魔法を使うまでもなかったらしい。

「今イカサマしたでしょう」

 クロシロがそういった。一瞬どきっとしたが、ばれるわけがない。ブラフだ。

「何を根拠にそんなことを」

「幻覚がすこしずれてコインが()()()()()()()()

 コインをよく見ると、確かにずれている。しかしおかしい。とんでもない速さのものに幻覚をつけるならまだしも、この程度の動きで幻覚がずれるなんてことはありえない。

「今回は私の勝ちです。次は二ゲーム目の反対、つまり一ゲーム目とおなじでいいいでしょうか?」

「いいです」

 そう返事したが、ヂャブヂャは上の空だった。いまこの状況、とにかくまずい。なにより相手の魔法の正体が全く見えない。

 私がミスしやすくなる魔法? いやありえない。五連続が説明つかない。いやそもそも五連続は本当にイカサマされているのか? だだ私がそう思い込んでいるだけではないのか?

「一応用事がありますので、早めにコイントスしていただけるとありがたいのですが」

「ああすみません」

 そういってコインをはじく。今回は魔法は使わなかった。裏だ。

 クロシロに渡す。次も裏だ。

「さーてリーチ」クロシロは嬉しそうにしている。

 とにかくまずい。なにかわからないが、なにかがおかしい。ギャンブルや魔法なんてものじゃない。なにか()()()ななにかだ。

 しょうがない。このままいっても負けるだけだ。そう考えた。

 コインをはじく。空中でくるくると回り、手の甲へと落ちる。今回は魔法をつかった。結果を信じ、目をつぶる。

 おそるおそる目を開くと、でたのは裏だった。危なかった。幻覚魔法を使わなければ負けていた。あとはばれていないかどうかだ。

「あーでなかったかー」

 クロシロはそういってコインを受け取った。

 ヂャブヂャはほっと胸をなでおろす。しかしなぜ今回は失敗しなかったのだろうか。いや、そんなことを考えてもしょうがない。次はクロシロがコイントスをする番だ。今回は幻覚魔法を使っても、手触りでバレてしまう。天に祈るしかない。

 クロシロがコインをはじく。きれいに舞い上がり、そして落ちていく。コインは表だった。命拾いしたということだろう五回目も魔法を使い、コインをはじく。でたのは裏だった。あとは魔法がバレていないかどうかだ。

「いいね、やっぱりこうでなくちゃギャンブルはおもしろくないよ」

 どうやらばれなかったようだ。

 安心とするとともに、考える。この三ゲーム目の二回の魔法がばれずに、なぜ二ゲーム目の魔法がバレたのか。そしてなぜクロシロの指定した面ばかりがでるのか。

 まず魔法は三回中一回失敗した。またコインは十三回中九回クロシロの指定した面がでた。コインは上振れということでまだ処理できるが、魔法の失敗があきらかにおかしい。こんなことは一日中魔法を使い続けても起きるか起きないかレベルの確率で...

 ん? ()()

 ()()()()()()()()()()()

 それならば筋は通る。私がミスする確率そのものを弄っていたのだとしたら、私のミスも理解できる。最初にどんなギャンブルでもいいといったこととも矛盾しない。

 今は確率をどの程度操れるのかは問題ではない。問題はどうやってこの魔法を打ち破るかだ。まずイカサマとして指摘するのは不可能だ。そうなれば私がイカサマするしかないが、ミスすればこのギャンブルに負ける。仮にミスする確率を三分の一とすれば、魔法は連発できない。

 今私が使える魔法について考えてみよう。

 幻覚魔法、自分の認識をずらすことで他の幻覚魔法を打破することにも使える。固定魔法、ものを固定できる。今回はどうやってもいかせそうにない。そして音魔法。幻覚魔法と併用して視覚、聴覚を支配下に置く構成。

 ダメだ。幻覚魔法以外使えそうなのがない。ここでポケットに石が入っていることに気がつく。

 もしかして...

加筆、修正を加えました。

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