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7.救世主に出会えたかもしれません

 もう一人の来訪者は、黒地に金糸の装束を身に纏った、緑色の髪の男だった。丸眼鏡にもじゃもじゃ頭で、イケメンとは程遠い容姿をしている。



「誰なんですか、あなたは」



 彼が魔法使いであることは間違いない。しかも、国お抱えの優秀な魔法使いだ。だけど、わたしにとってはただの不法侵入者。神官様もろとも即刻叩きだしてやりたい。



「ボクはサイリック。見ての通り、天才イケメン魔法使いだよ」



 ニカッと笑みを浮かべつつ、魔法使いはわたしの手を握る。



「天才……イケメン…………」


「そうそう! サイリックは本当に天才なんですよ! まあ、イケメンっぷりは私には多少劣りますがね」


「多少……」



 面倒くさいのが増えたせいで、言い返す気力はゼロだ。もう、わたしは置いて二人で勝手にやって欲しい。



「以前お話したでしょう? 魔法使いの知り合いがいるって。彼にジャンヌ殿の発明品を紹介したところ、是非実物を見て見たいというものでね。こうして連れてきたわけです」


「ああ、さいですか」


「それから、もう一つ目的があるんですけど」


「良いです。聞きたくないので」



 正直言ってもう、理由なんてどうでも良い。神官様の持参したフルーツを食べながら、わたしは大きなため息を吐く。

 そもそも、わたしが許可を出すまでもなく、魔法使いは家中を物色している。これはもう、台風にでも見舞われたと思って、過ぎ去るのを待つしかない。



「いやぁ、良い発想ですね」


「そりゃあ、どうも。発案者、わたしじゃありませんけどね」



 魔法使いは掃除機(擬き)を杖で叩きながら、実際にゴミを吸い込んで遊んでいる。説明しなくても使い方が予想できる当たり、勘が良いというか。彼が天才魔法使いって言うのは本当なのかもしれない。



「だけどこの魔法、こんがらがっているんですよ」


「は?」



 思わぬ言葉に首を傾げれば、彼はもう一度、掃除機を杖で軽く叩いた。



「ジャンヌ殿、これ、魔力の流れを考えずに適当に作ったでしょう? 不要な負荷が掛かっていて、作業効率が悪くなっているんですよ。お陰でパワーも落ちてますし」



 そう言って魔法使いは、わたしに向かって掃除機を差し出す。



「ささ、使ってみてください。劇的に良くなっている筈ですから」



 腹が立つほどの満面の笑み。ムッとしつつも、ようやく返却された杖で掃除機を叩いてみる。



「……!」



 だけど、次の瞬間、わたしは思わず目を見開いた。



(すごい! 本当に動きが良くなってる)



 前世で使っていたのと同じかそれ以上の吸引力。魔力の消費も極端に少ないし、本当に驚いてしまった。



「ね? すごいでしょう」



 エッヘンと胸を張るサイリックに、わたしは小さく頷く。

 恐らくこの人は、わたしが全く理解できない理系的な回路の部分を、感覚的に理解できる人なんだと思う。というか、サイリックが前世に生まれていたなら、バリバリ開発とか研究とかの分野に進んでいるに違いない。



「他の発明品もボクが改善を施しておきましたんで、かなり使いやすくなっていると思いますよ。これまでよりも省エネで、快適な生活をお約束しましょう」



 マジか! この人、本当にすごい人なのでは!?



「あ、あの! これ、全自動にすることとかって出来ます!? ゴミを自力で感知して、勝手に掃除してくれるように出来たら良いなって思ってて! 出来たらタイマー機能なんかも付けられると嬉しいんですけど!」



 言いながら、思わず興奮してしまった。元々はロボット掃除機を作りたかったけど、色々試しても上手くいかなくて。だけど、この人ならば或いは可能かもしれない。ていうか出来るに違いない!



「もちろん。当然できますよ。箒が勝手に掃除してくれる魔法の応用でしょう? すぐに改善してあげましょう」



 何とも頼もしい言葉が返ってくる。

 素敵……! この人はわたしの救世主かもしれない!

 もじゃもじゃ頭も、よく見たら愛らしく思えてきたし、少なくとも神官様よりはマシだ。



「ありがとうございます、サイリック様!」


「いえいえ。お役に立てて光栄です」



 微笑み合うわたし達を余所に、神官様がずいと身を乗り出した。



「ちょっと待って下さい、ジャンヌ殿! 貴女、今まで私の名前を呼んでくださったことがありませんよね? どうしてサイリックの名前は呼ぶのですか?」


「そんなの、尊敬度合いの違いに決まっているでしょう?」


「じゃあじゃあ、ジャンヌ殿は私のことは尊敬してくださらないと」


「当たり前でしょう?」



 全く、何を分かり切ったことを……呆れて言葉も出ない。



「残念だなぁ、セドリック。お前でもフラれることがあるのか」



 サイリック様はクックッと喉を鳴らしつつ、神官様が持って来たバスケットを腕に持つ。



「未だフラれていません。これからゆっくりと口説き落とすつもりなんですから、サイリックは黙っていてください」


「いや、冗談キツイです。ありえませんて」



 本気で嫌悪感しか湧かないし、恋愛絡みの冗談だけは勘弁してほしい。そもそもわたしは人と関わりたくないんだから。



「だ、そうだぞ? セドリック」



 そう言ってサイリック様はわたしと神官様の肩をポンと叩く。

 だけどその途端、ブゥンと大きな音を立てて身体が大きく震えだす。足元に眩い光――――魔方陣が見え、わたしは思わず目を見開いた。



「え? ちょっ……!」



 見えない力に身体が大きく引っ張られる。

 刹那。

 目を開けたら、そこはもう、わたしの家の中じゃなかった。

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