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アンダー・ザ・レジェンドツリー

いよいよ、卒業の日がやってきた。

ラティエンヌへと愛を告げるために度々授業をサボっていたノレスティアではあったが、王子の矜持を保つために頑張った甲斐もあってなんとか主席で卒業することができた。

一般の貴族家とは比べものにならないぐらい優秀な家庭教師をつけて勉強しているので、ちゃんとやる気さえあればできる子なのである。


そして、次席はラティエンヌである。

二人は並んで舞台に立つと、生徒代表として校長から卒業証書を受け取った。

全校生徒からの惜しみない拍手を浴びながら二人は列に戻り、国王陛下をはじめとする来賓たちからの祝辞を聞いた。

この後はそれぞれ教室へと戻り、担任の教師と別れの挨拶を済ませれば、後は忘れ物がないように私物をまとめて鞄に詰めて帰るだけである。


卒業パーティは夜になってから王宮にて行われるため、誰も彼もが一旦は家に帰るのだ。

ノレスティアも、今まで置きっぱなしにしていた筆記用具や辞書、今日もらった卒業証書を鞄に詰め込み席を立った。

卒業パーティへエスコートする予定のラティエンヌへ、迎えに行く時間などの再確認をしようと思ってぐるりと視線を巡らせてみたのだが、ラティエンヌの姿は見えなかった。


「ラティエンヌ、先に帰っちゃったのかな」

「王子、どんまい!」

「約束そのものはもうしてるんでしょ? 大丈夫だって!」


ノレスティアの独り言を拾った級友たちが、次々と肩をたたいて励ましながら教室を出て行く。

あまりにも無責任な応援ではあるが、今のところノレスティアとラティエンヌの許嫁関係は維持されているので、あまり深刻に心配している者はいないのだ。


「人ごとだと思って!」

「あれ、王子。机の中にまだ忘れ物あるよ」


唇を突き出してわざとらしくすねてみせたノレスティアに、また別の友人が声をかけてきた。

後ろの席に座っていた友人で、自分の忘れ物を確認するために視線を低くしたときに、ノレスティアの机の中も見えたようだった。

言われてノレスティアは改めて机の中をのぞき込んでみると、確かに白くて四角いものが残されていた。

手を突っ込んで奥に入り込んでいたそれを引き出してみると、一通の白い封筒だった。

キョロキョロと周りを確認し、もはや教室に残っている人間がまばらであることを確認するとノレスティアは封筒を開けて手紙をひらいた。


そこには一言「伝説の木の下でまっています」とだけ書かれていたのだった。



 




卒業式が終わってからおよそ一時間後。

学校の広い敷地の隅っこにある、一本の大きな木の下にノレスティアはたどり着いた。

ノレスティアの息は上がり、汗だくになっている。


「来てくださって感謝いたしますわ。ノレスティア様」

「やあ、やっぱりラティエンヌだったね。待たせてしまったかな?」

「ええ。一時間ほどお待ちしておりました」


差出人の書いていない手紙。しかし、ノレスティアにはとても見覚えのある愛しいラティエンヌの字だとすぐにわかった。

ラティエンヌが待っているならいかなくては。そう思ったのもの、伝説の木というのがわからなかった。

歴史のある古い学校なので、校舎や敷地内に言い伝えの残る場所や物はいくつかあるのだが、木にまつわる伝説というのをノレスティアは知らなかったのだ。


「ごめんね。俺が無知で伝説の木を知らなかったものだからさ。歴史の先生か校長先生に聞こうと思ったんだけどね。卒業生たちに囲まれて別れを惜しんでいたもんで、割り込めなかったんだ」

「では、どうなさったの?」


わからなかったというノレスティアだが、こうしてこの場にたどり着いているのだ。時間は掛かったが伝説を探してきてくれたのだろう。もしかしたら、当てずっぽうに学校の敷地内を走り回っただけなのかもしれないが。


「図書館へ行って、司書先生に聞いてきたんだよ。司書先生は、伝説のある木について聞かれたのは二人目ですって言って、すぐにここを教えてくれたんだけどね。学校の敷地の端と端だからちょっと時間がかかってしまったよ。待たせてしまってごめんね」


息を整えながら、額の汗を袖口で拭いながら、眉毛をへにょりと下げて謝るノレスティアに、ラティエンヌの胸がきゅうと締め付けられるように軋んだ。


ラティエンヌは、もう蛇の抜け殻や珍しいみの虫の贈り物が嫌がらせではなく、宝物をプレゼントしてくれていたのだと知っている。

こうやって、遅れてきたことをまっすぐに謝ってくれる素直さと、自分に笑いかけてくれる優しさがまっすぐにラティエンヌへと伝わってくる。


「今日は、待つのが楽しかったのでかまいませんわ。伝説のある木の存在を司書先生に聞いた一人目は、私ですの。ノレスティア様が同じ方法で調べてくださって、うれしいですわ」

「それなら良かったよ。それで、こんなところで待ち合わせにしてどうしたの? 早く帰って準備をしないと卒業パーティに遅れてしまうよ?」


ようやく息が整ったノレスティアが、一歩一歩、ゆっくりとラティエンヌへと近づいていく。

その少し困った笑顔をまっすぐに見つめて、ラティエンヌは微笑んだ。


「ご存じでしたか? ノレスティア様。この伝説の木の下で告白をして、両思いになったカップルの愛は永遠になるのですって」





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