2つの卵の詩
卵にまつわる詩を2つ書きました。
それぞれの冒頭に、5・7・5もつけています。
■ともぐいに あらずや女 卵を食む
【人魚の産卵】
人魚と交わるにはどうすればいいか
まずは尾鰭に口づけてみるといい
それから目を閉じて
鱗に舌を這わせ その連なりを感じてみるといい
排卵口は 脇腹の下にある
生臭く 熱い孔
満月の夜に月を食み
幾日も、幾日もかけて
肚の中の紅色の海の底で
熟し増えてく 赤い無数の真珠玉
人魚が苦しみ悶えて
ぴちぴちと暴れ回っても
決して決して尾鰭から 口を離さぬように
しかし 噛み切らぬように
痙攣する穴から やがて零れる赤い珠
人魚は気を失い
肚を見せつつ 海面にあがっていくだろう
ぷかぷか漂う 魚のかたちの影の下で
きみの精を 卵にかけてやればいい
fin
◇
■殻を剥ぐ 中身は心臓ばかりなり
【脈打つ卵】
「卵の中から
何かが生まれるのではなくて
卵自体が 生命体なんだよ」
君はそう言って、
震える卵をシンクに打ちつけた。
ひび割れた中身には
肉色の心臓が詰まっていた。
丁寧に殻を剥がされたあとも
心臓は暫く脈打っていたけれど
やがて動きは弱々しくなり、ついに息絶えた。
「信じないなら、
もう一個割ってみせようか?」
君は卵を
つかんで大きく振りかぶる。
fin
お読み下さり、ありがとうございました!