5つの夜の詩
これらの詩は、2022年5月26日に枝折さんとTwitter上で連歌をした際にできた句から連想を広げ、作ったものです。
その時の連歌を、「後書き」のスペースに載せています。併せてお楽しみください。
Twitterで詠み合う模様を観てくださったみなさまと、枝折さんに、感謝を込めて。
【嘘だらけの着信音】
光る画面 着信音
真理子だけじゃなく、
真理子のスマホ自身にも
もう誰が誰だかわかんないんだってさ
「無視は、なしね?」
そのLINEの送り主さえ
もう誰なのか わかんないんだって
fin
◇
【黒猫はバーにいる】
寂れたバーのカウンター
一匹の黒猫が 背中を丸めて
ちびりちびりと ラフロイグを舐める
常連の黒馬が尋ねた
「あんたは毎晩、ここで何を待ってるんだい?」
黒猫は答える ものうげなみどりの瞳を光らせて
「俺は 永久を待っている」
店の客はみんな嗤った
「馬鹿げているぜ
こんな店に永久が来るはず あるもんか
酒場にいるのは 刹那だけに決まってらあ」
fin
◇
【月と夜の褥】
月と夜がまくらを並べて
褥をともに 同衾した
そうして生まれたのがぼくってわけだ
その日は 夜中大変だったらしい
月だけならまだしも 夜まで姿をくらませたとなれば
この町はもう 昼のままでいるしかない
おまけに そのシーツの中で
月と夜が 上になったり下になったり
横に揺れたり 縦に揺れたり したもんだから
お空はしっちゃかめっちゃかだったって
シスターは よくぼくに その日のことを話すのさ
ぼくは どんな顔すりゃいいか
わかんなくって 真っ赤になるよ
fin
◇
【女神の慟哭】
女神が哭きながら
メタモルフォーゼした夜
もとの彼女の名残を残すものは
純白の衣 ただ一枚だった
重たい翼 飛べぬ蝶に
姿を変えた彼女をよそに
豊かなドレープに肌を擦りつけながら
僕は思い出を噛み締めていた
fin
◇
【若いふたりは】
シガーが薫る ワンルーム
ガラステーブル 缶のもの
名も知らぬ 男と女が
魚のように しなやかに 蛇のように 狡猾に
言葉なき 予定調和の遊戯
燃ゆる 燃ゆる
昼が夜になるまで
わななくスマホに 水を掛けられても
画面を伏せれば また燃ゆる
若いふたりの再熱
尽きぬ焔 造作もないこと
fin
【ゆにしお短歌20220526】
参加者は、枝折さん、ゆにおの2名です。
ゆ : 野良猫や 月夜の褥 甘い息
枝 : 拾われしあとは 昼すら夜に
ゆ : 日々是嘘色 着信音
枝 : 審判の 朝来たるまでは 耳塞ぎ
ゆ : 残された ワイシャツ 煙草 空蝉よ
枝 : 強き女に 成れぬまま哭く