3つの詩 : 中華なイパネマ
【落ち魚の懇願】
「どうか後生でございます、わたくしどもに豚のカツレツをお恵みください」
町中華の暖簾の前に、直立した川魚たちが立っていた。
店主は言った。
「帰った、帰った。うちは中華だ。トンカツなんて置いてない」
「しかし、カツ丼ならあるでしょう」
「町中華にはなぜか大抵、カツ丼、親子丼、オムライスがあるのを
わたくしどもは知っています」
川魚たちの抗議を、店主は退けた。
ぶんぶんお玉を振り回して。
「帰れ帰れ、落ち魚どもめ。
丘も町も中華屋も、川魚の来るところではない。
そもそもお前たちは死んでいる。
水のない場所で鰓呼吸ができるものか!」
この世にあらざる魚たちよ、死者の世界へ帰れ!
死を見抜かれた途端、
川魚たちはバタバタと卒倒した。
息絶える前にひと言、ふた言と、鰓を震わせ懇願する。
「どうかこのことは内密に。わたくしどもが豚を欲したことを、
どうぞどうぞ口固め、よろしくお願いいたします」
そしてぶくぶく膨れていって、やがて次々瓦斯爆発した。
飛び散ったはらわたで
中華屋の軒先はぐちゃぐちゃになった。
fin
◇
【中華屋都々逸】
落ちたサカナを
靭に詰め込み
今日も店主はうつし世 生きる
「石部金吉」 そう笑われても
今日も店主は サカナを捌く
苦衷を抱え しかめっつらでも
暇乞いせず 糸作り
細切りサカナを 油で揚げて
甘酢あんだよ 中華風
ルーをかけたらフィッシュカリー
厨房の熱に涙も乾き
涙痕累々(るいるい)
いくすじの 痕がついても 確定申告
うつし世生きる 店主だよ
◇
【八宝飯】
リアス式海岸が生み出す
温暖な気候に
育まれた食材で わたしは祝いの菓子を拵える
古々米の小米を
ココ椰子の果汁で柔らかに炊き上げ
蜜漬けの杏、山査子、茴香、大蒜を飾りつけ
甘くとろみのある餡を なみなみとかける
ノースリーブの腋下から
残んの色香漂う こまっしゃくれた天帝
彼女との内謁に
この八宝飯を献上した
「あら! 白木耳が入っていないわ」
微罪がわたしを 裁く
次次回までは膝栗毛で 天帝の元に来るように
それが白木耳の 罰だった
fin
お読みくださり、ありがとうございます!
また書きます〜^_^




