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3つの詩 : さすらう民の神話

かゆ交歓こうかん



「私たちの手元には

もうこれしかないのです」


差し出した皿の上には

欠けた米が散乱していた


「お許しください

完全なかたちの米は

私たちの豚のような息子が 全て平らげてしまったのです」


民たちが指差す先には

やぶれかぶれの襤褸らんるから

まるまると肥えた土手っ腹を はみ出させ

鼻息荒く笑う 息子がいた


彼の姿を認めると 神は民に言った


「ならば 嵩増かさましのかゆを作れ


数少ない不完全な米たちが

鍋いっぱいになるように とことん煮こめよ」


煮あがった粥を前に 神は続けた。


「この粥を息子から口移しで私にませるのだ」


ねばつく白い液体を

互いの口で交換するように弄ぶ

神と豚児とんじ晩餐ばんさん 


民たちは朝までそれを囲んでいた


目を逸らすことは許されぬ

どれだけ嫌悪を催しても


ぐずぐずの砕け米たちは 

歯垢しこうまみれの唾液を練り込まれながら

二つの口を行き来した


fin



襤褸らんる : ボロボロの衣服のこと





豚児とんじの清め】




「神に選ばれた男とは 俺のことだ」


食っては寝るだけ

ぶくぶくふとり 「穀潰ごくつぶし」と罵られていた

豚息子は すっかり得意だった


またぐらから抜き取った しみだらけのふんどし

さかきに結え

「これは神聖な ぬささ!」と 得意満面


ぶんぶん ふりふり 勇み足で練り歩く


それが臭いったら ありゃしない!


「お前さん 風呂には入っているのかい」


「入るものか 俺は神と交わったのだ

湯で流せば 神性が消えてしまうだろう」


「お前さん あれから歯は磨いたかい」


「磨くもんか 神と粥を分け合ったこの口を

俺は生涯 洗い流すことはない


爾後じご一切 この身を清めるものか!」


民はニガヨモギを煮出した水を 豚児に振りかけた


「清めたまえ はらいたまえ」

「清めたまえ はらいたまえ」


fin




【さすらう民の神話】



「あの悪漢を なんとかせよ」


いかった民が 豚児に王水おうすいを浴びせた


肉も脂肪もどろどろに溶けて

地面にできたのは 臭い沼


「あの時の 粥以上の滑らかさだ」

「全てが溶解してしまった」


しかし 悪臭だけは

沼が干上がったあとも 残り続け

雨風が 泥を流しても 土を流しても 流しても 流しても

残り続けた


その時天から 神の声が降ってきた


「山を越えよ 野を越えよ 川を渡れ

跋渉ばっしょうせよ 彷徨さまよ


お前たちは 流浪るろうの民となるのだ」


それが 私たちに残された神話

クニを持たない 故郷さとを持たない

ただ懶惰らんだに 日銭を稼ぎ

あてどなく 大陸をさすらうのは

私たちが 神と豚児の交わりで 生き永らえた民だから


私たちの 故郷ふるさと

とても臭くて 戻れやしないんだ


fin


※王水 : 金を溶かす酸が含まれた液体



ひさびさになろうに詩を投稿です!

お読みくださり、ありがとうございます^_^

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