お味噌汁と言えば
人にはそれぞれ拘りと云うモノがありまして、大した拘りが無いと言えども、食べ物になると分かりやすい。
普段口にしている物ですから、ケチが付くとムキになる。
「豆腐と葱だろ。」
「いやいや豆腐にはワカメだよ。」
何の話からそうなったか、大の男が道の往来で声を荒らげます。
「そーゆーフニャフニャしたものを好むから、お前は根性が足りないんだよ。」
「なんですかそりゃ。そっちこそ、ほっときゃ伸びる葱なんかばっかり食べてるから、どこでも首突っ込んで迷惑かけるんですよ!」
売り言葉に買い言葉、口は災いの元、ついつい本音が漏れたりなんかして、口火を切ったらそこから先は有る事無い事口から出任せ引っ込みなんか着きようなし。
「誰がいつ何処で迷惑かけたんだよ!」
「ほぼ毎日ですよ!小さな親切大きなお世話って知らないんですか?」
「あー!そーゆー事言う!?嫌な奴だねぇ〜。ワカメなんか食べてるから腹黒いんだろうね、お前は!」
「何いってんですか、そっちこそ葱なんか食べてるから八方美人になるんですよ!」
やいのやいのと言い争っているうちに、二人は馴染みの小料理屋へ。先を争うように暖簾をくぐると、女将の優しい声と顔。
「いらっしゃい。どぉしたの二人とも大きな声で、2軒先から聞こえてきたわよ。」
女将の前では大人しい二人。おしぼり・お通し・一先ずビール・渡されたグラスにお酌をして貰いながら事のあらましを話していると、何だか気恥ずかしくなって来る。ご返杯に女将の小さなグラスに瓶を傾けビールを注ぐと一息。
どちらともなくいつもの肴を2つ3つ頼むと、慣れた手つき、所作も美しい女将にも、同じ質問をしてみる。
「まぁその、あれだね。女将さんは、お味噌汁と言えば、なんですかね?」
葱かワカメか豆腐かそれとも、何と答えるか興味津々。出てきた答えに二人は納得。
「あらやだ、決まってるじゃない。八丁よ。」
手捌きと 艶めく声に 促され
どれもおさまる 八丁の椀