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お遊びはここまでだ(3)

 アリエーヌは力の入らない体で、マーカスを見つめていた。

 ゆっくりと朱雀の羽毛の上に横たえらえるその体から、弱々しく震える手が何かを掴もうと伸びる。

 マーカス……ダメじゃ……

 その先には、一人、魔王を睨み肩で息をする男。

 木々を燃やす炎が、マーカスの横顔を赤く照らす。


 だが、すでにアリエーヌの体は動かない。

 体の損傷は回復したものの、体力、気力はすでに尽きていた。


 自分がこれほどまで弱いとは思ってもいなかった。

 いや、弱いことは知っていた。

 騎士養成学校で、剣技の練習をしても皆がわざと倒れてくれた。

 内心、笑っていることを知っていた。

 魔法の練習をしても、皆が、その小さき炎をほめたたえてくれた。

 心の内でバカにしていることを知っていた。

 だからこそ、見返してやりたいと思っていた。

 でも、ワラワは……空っぽだった。

 心も頭も空っぽ……

 ただの人形だった……

 人形は嫌なのじゃ……

 人形は……

 そんな時、根気よくワラワに勉強を教えてくれたのがマーカス。

 バカにすることなく、剣技を教えてくれたのもマーカス。

 ワラワの空っぽの心を満たしてくれたのもマーカスじゃ。


 この胸に広がる暖かい思い……

 これが人間。

 ワラワは人間……


 そんな満ち足りた自分は、何かできると思った。

 いや、ワラワにしかできないことをしないといけないと思ったのじゃ!

 ワラワにはできる!

 モンスターの脅威におびえる人々を救うことが!

 魔王を打倒すことがワラワにはできる。


 バカじゃ……


 ちょっと、剣技や魔法ができるようになったからって、そこにいきなり考えが飛んだワラワはやっぱりバカじゃ……底なしのバカじゃ……


 おそらく、ワラワ一人であれば、学校の外に出た瞬間に冒険は終わっていた。

 草原に出る最弱モンスターですら倒せないのじゃからな……

 終わっておる……ワラワは終わっておる……本当に……


 だけど、ワラワのそばにはマーカスがいてくれた。

 そして、グラマディ、キャンディ、グラスも一緒についてきてくれた。

 無理だと思っていた、魔王討伐。

 その時、少し希望の光が見えたように思えたのじゃ。


 だが、相手は魔王……

 勝てるなどとは思っておらぬ……

 ワラワもそこまで愚かではない……


 だけど……誰かがしないといけないのじゃ。

 誰かが、暗闇の中に道を示さないといけないのじゃ。

 悲痛な運命に隷属するのみでなく、抗うことを示さないといけないのじゃ。

 ワラワたちは人形ではない

 ワラワたちは人間。

 熱き心を持った人間なのじゃ

 ワラワは、アリエーヌ=ヘンダーゾン! 

 キサラ王国の第七の王女じゃ!

 この命が燃え尽きようと、その抵抗の道を示すことがワラワの使命。


 だが……ふたを開ければどうじゃ……


 魔王へと一人勢いよく突っ込んだまではよかった。

 だが、腰抜けのワラワは死を直前にし臆病風に吹かれおった。

 こんなワラワの命……惜しくないと思っていたのに、急に死ぬのが怖くなった。

 目の前に浮かんだのじゃ。

 マーカスの笑顔が。

 死にたくない……

 まだ、一緒に笑いたい……

 もっと、もっとマーカスの事を知りたい……

 そう思った瞬間、ワラワの体は逃げていた……


 抵抗を示すと言った心意気は何だったのじゃ……

 魔王討伐! それこそが、抵抗の狼煙という、ワラワの志は一体何だったのじゃ……

 ワラワは……弱い……

 弱いうえに……バカじゃ……

 本当の大馬鹿じゃ……

 そのせいで、今、マーカスを失おうとしているではないか。

 マーカスと伴にいたいと気づいたのにもかかわらず……

 ワラワが愚かなせいで……

 ワラワが、人形のように学校で静かに座っておれば、マーカスはこのようなことにならずに済んだ……

 マーカスと伴に笑い続けることもできたのじゃ……

 ワラワのせいじゃ……

 全てワラワが愚かなせいなのじゃ……


「マーカス……死なないで……マーカス……」


 朱雀は、アリエーヌを背にのせて空を高く飛ぶ。

 白虎は、動けぬグラマディを咥え懸命に走った。

 青龍は、今だ錯乱状態で回復魔法を乱発するキャンディを背にのせ空をうねった。

 玄武は、役に立たない円周率を唱え続けるグラスを甲羅の中に入れクルクルと転がった。

 四人の女の子は、魔王からどんどんと離れていく。


 これでいい……これで……

 俺は、背後から離れていく仲間たちを、振り向くことなく見送った。

 俺がいま視線を外せば、魔王【ドゥームズデイエヴァ 】が動く。

 そんな気がしていたのだ。



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