表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

星変わり 

掲載日:2021/03/11

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おお、こーらくん。質問かい? めずらしいね、天体関連で君が来るのは。いったいどんなものかな?


 ――どうして一年を通して、見られる星座が少しずつ変わっていくんですか?


 ふむ、それは太陽と地球の位置関係が、大きなポイントかな。

 授業でもやったけれど、地球は太陽の周りを一年かけて一周している。このときの位置によって、見られる星座の種類が変わってくるんだ。

 もちろん、太陽に向かっている側。つまり昼間だと星は観ることができない。夏場に見えるいて座、さそり座などは、冬に消えてしまうわけじゃないんだ。昼間に空へ登って来るけれども、太陽にさえぎられて見えなくなっているだけなんだね。

 毎日、星をよーく観察してみると、少しずつ動いている。これもまた地球が太陽の周りをまわっていることの証明になるんだ。

 でも、その理屈が分かるまでには、かなりの時間がかかった。そして無知な相手をだまくらかしたり、見下してなめてかかるのは、知識あるものの特権だ。

 少し授業内容から脱線するが、天体をめぐる昔話をひとつ、聞いてみないか?



 むかしむかし。当時の帝の命によって、日本各地に星見たちが配されていたときのこと。

 とある日の星見たちが、夜が明けるとともに奇妙な報告をしてきた。昨晩の夜空と、先ほどまで見えていた夜空では、星の位置がぜんぜん違うというんだ。

 記録用の板を重ねてみると、確かに星がとてつもなくずれている。他の各季節のものと比べても、見慣れない配置がちらほらと確認できた。

 天がウソをつくはずがない。ならば、あり得るのは人の間違い。その晩は担当の者に加え、熟達した星見が数人つき、揃って夜を徹しながら星を観察、記録していった。

 その結果、昨晩のものとも、その前のものとも似ても似つかない、奇妙な星たちの並びを記録することになったんだ。



 それからも日替わりで、見覚えのない夜空が広がっていく。他の地域の星見たちに連絡を取り、記録の板を共有したところ、異常なのはこの地域の空のみと分かった。

 無用の混乱を避けるため、このことは星見たちの間だけで、当面の秘密となる。記録をたどる調査班と、実際に観測する班に分かれ、現地には各所を代表する星見たちが集まった。

 ひとえに、この奇妙な空の意味を読み取るために。



 それからひと月の間、空におかしな星が展開するかの地域では、ボヤ騒ぎがあちらこちらで起こっていた。いずれも大事ないうちに消し止められたものの、分析を続けていた星見たちはある点に気づく。

 ボヤが起こる前日の晩に、決まって空には火を思わせる赤い星が、こうこうと光を放っていたんだ。何度も同じことが続いては、さすがに見逃すこともできず、更に見られる時刻によって、火事の現場もある程度絞り込むことができそうだったとか。


 ――これを把握できれば、今後の災害を防ぐのに役立つかもしれない。


 にわかに色めき立つ星見たち。彼らは更に注意深く、変わりゆく星空へ目を凝らしていった。


 半年も経つと、ある程度傾向が見えてくる。やはり確認できる星の色によって、これより起こる災害が判断できるようだった。

 赤なら火事。青色なら水害。金色ならば落雷といった具合にだ。

 半年の間、空はずっとおかしな姿ばかり、さらしていたわけではなかった。ときどき、思い出したかのように、例年の同じ時期に見せる、「星の顔」に戻ることがあったんだ。

 そのことは、ますます星見たちの興味を引いていく。何者かの意図が働いている可能性は、ひときわ濃くなってきたからだ。

 そして最近になり、新しく判明したことがある。星々の輝きの中、「凹」の字に結ぶことのできるような、強い光を放つ並びが見えるとき、それより前に観測できていた星たちの示す災害が、現実のものになるということが。



 そしてある晩。その日も星をよく観察するべく、星見たちが建造された監視塔に集っていた。

 日暮れ前から待機していたところ、陽の残光が隠れるや、真っ先に浮かぶのは赤々とした小さい星。それもかすかに黄色を交えて瞬きながら、少しずつ西の空を目指していく。

 それからの数刻は、いくつもの同じような星を目撃した。これまでの調査結果と照らし合わせると、範囲はこれまでにないほどばらけている。ここに来て、初めて目にする位置で星が瞬くこともあり、よほどの遠距離が目標であることが察せられた。


 ――これが現実となれば、大きな被害は免れんぞ……。


 集った人がそう思い始めてからも、初めて見る位置に、ちらほらときらめく星たちはのぼっていく。どうにかそれらを割り出そうとする星見たちだが、やがてあの「凹」の字の星。

 すべてを実行に移す星座の片割れが、くっきりと東の山影から離れ、浮かび出したんだ。



 ほぼ同時に。監視塔のてっぺんへ雷が落ちたんだ。夜空を完全に見渡せる、晴れ模様にもかかわらず、だ。そこには直前まで、観測と憲章を試みていた、多くの星見たちがいた。

 塔の三分の一は崩れ、残った外壁はたちまち炎に包まれた。町からも見えるこの惨状は、たちまち人を呼び寄せる。火だるまとなった塔以外にも、辺りの草むらにも燃え移り出しており、皆は延焼を防ぐのに手いっぱい。とても塔までたどり着けなかった。

 夜明けまで取り巻いた炎がようやく消えた時、そこには土台を残して、ほとんど炭のような破片を散らばらせた塔の姿しかなかった。


 後日。集まった報告をまとめたところ、あの晩、被害に遭ったのはこの塔だけでなかった。

 各所の星見たちの拠点は、見事に落雷の直撃を受け、崩壊していたんだ。それが百里へだてる遠方であってもだ。

 そしてその晩を境に、あの奇妙な星の並びは、ぱたりと見られなくなってしまったという。


 おそらく、あの星たちは天帝が地上へ下すものの、指令書だったのだろう。

 それを奪われそうになったがために、盗人たちに鉄槌を下したうえで、防諜につとめるようにしたってとこかな。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おお! すっごく面白かったです! 言われてみれば、通信傍受して内容を解読しているように見なされてもおかしくないかもですね……。 スケールが大きい分、ロマンや好奇心も尽きないものなのかもしれま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ