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おとしだま

作者: たかさば

僕は、おじいちゃんから、おとしだまをもらった。


重たくて、ものすごく、ものすごく、うれしかった。



このおとしだまがあれば、僕は何だって買える!

このおとしだまがあれば、僕は何だってできる!


大喜びで駆けだした!!


思いっきりはしゃいで、大騒ぎして。

疲れ果てて、しゃがみこんだ僕は。



「・・・ない!!!」



大切な、大切なおとしだまを、失くしてしまったことに、気が付いた。




慌てて、探し回るけど、見つからない。


泣きながら、探し回るけど、見つからない。


何度も何度も、いろんなところを探し回るけど、見つからない。


行った場所を、あちこち確認しながら探し回るけど、見つからない。



僕はもう、何も買う事ができない。

僕はもう、何も楽しむことができない。


僕は、もう、何も、できない。



僕はもう、ずっとここに、いなければならない…。



とぼとぼと、道を歩いて。


おとしだまをくれた、おじいちゃんのところに、向かう。



おじいちゃん、怒るかな。

おじいちゃん、悲しむよね。


おじいちゃんに、謝らないと。

おじいちゃんは、許してくれるかな。



「おや、どうしたんだい。」



おじいちゃんの、声が聞こえる。



…僕は、顔をあげることが、できない。


下を向く僕の目から、涙が、ぽたり、ぽたりと、落ちてゆく。



「さ、上を向いて、お話してごらん。」


下を向く僕の目から、涙が、ぽたり、ぽたりと、落ちてゆく。


「お話したら、涙は止まるかもしれないよ?」


下を向く僕の目から、涙が、ぽたり、ぽたりと、落ちてゆく。



おじいちゃんが、僕の横に座った。


おじいちゃんは、何も言わずに、僕の横に座っている。

おじいちゃんは、何も言わずに、僕の横に座ったまま、遠くを見ているみたいだ。



僕は、ただ、涙をこぼし続けている。

僕は、ただ、自分のしてしまったことを悔やんでいる。


おじいちゃんは、何も言わずに、僕の言葉を待っている。


僕は、ただ、泣いて。

僕は、ただ、悔やんで。


おじいちゃんは、何も言わずに、僕の言葉を待っている。


・・・おじいちゃんは、何も言わずに、僕の言葉を待っているから。


「・・・おじいちゃん、ごめんなさい。」


僕は、顔をあげて、おじいちゃんの目を見て、謝った。




おじいちゃんは、何も言わずに、僕の目を見て、笑った。

おじいちゃんは、何も言わずに、僕の頭を、ポンポンと、優しくたたいた。



「何があったのか、言えるかな?」



おじいちゃんが、僕に、優しい言葉を、くれたから。



「もらった、おとしだまを、落としちゃった・・・。」



僕は、言葉を出したとたんに、また、涙が、こぼれてしまった。


ぽたり、ぽたり。



せっかく上げた顔を、また下に向けてしまった、僕。



「お話したら、また涙が出てしまったね。」



ぽたり、ぽたり。



「ごめんなさい・・・。」



僕はもう、おじいちゃんの顔を見ることが、できない。



ぽたり、ぽたり。




「君にあげたおとしだまは、ここに・・・いるよ。」



僕が、おじいちゃんの言葉に驚いて、顔をあげると。


僕がもらった、おとしだまが。

僕の、目の前に、浮いていた。




「君は、あまりにもうれしくなってしまって、おとしだまを置いてけぼりにしてしまったんだよ。」



僕は、おとしだまをもらえたうれしさで…一番大切なものを、失くしてしまったんだ…。




「もう、置いていっては、ダメだよ?」

「うん、うん・・・!!!」


僕は、僕のおとしだまを、ぎゅっと、抱きしめた。


「おとしだまは、大切なものだから、きちんと抱きしめておかないといけないよ。」

「やりたいことが溢れてしまっても、置いてけぼりにしないように気を付けるんだよ。」


僕は、僕のおとしだまを、ぎゅっと、抱きしめた。


「このおとしだまはね、君だけのものなんだよ。」

「君のためだけに私が用意したものだから、君以外は使えないんだよ。」


僕は、僕のおとしだまを、ぎゅっと、抱きしめた。


「君に落とした魂なんだよ、君以外の人には意味のないものなんだよ。」

「でも、君のおとしだまをほしがる人は、ここにはたくさんいるんだよ。」


僕は、僕のおとしだまを、ぎゅっと、抱きしめた。


「魂を無くしてしまった人たちが、どれだけ君のおとしだまを欲したところで、このおとしだまは、君以外は使えないんだよ。」

「このおとしだまは、君がきちんと、使い切らなければいけないものなんだよ。」


僕は、僕のおとしだまを、ぎゅっと、抱きしめた。


「私は、君なら、おとしだまを使えると思って…渡したんだよ?」


僕は、僕のおとしだまを。


「・・・大切に、使えるかい?」


ぎゅっと・・・ぎゅっと、抱きしめた。




「うん…僕、もう、絶対に離さないよ、おじいちゃん!」




おじいちゃんは、僕の目を見て、笑った。

おじいちゃんは、僕の頭を、ポンポンと、優しくたたいた。




「今度は、ちゃんと最後まで使うんだよ。」

「うん!約束する!」




「今度は、ちゃんと抱きしめるんだよ。」

「うん!必ず!」




「今度はちゃんと、ここに持ち帰ってくるんだよ。」

「うん!絶対に、帰ってくる!」




僕は、僕のおとしだまをしっかりと抱き締めて。



…自分の人生を生きるために、光のなかに、飛び込んで行った。



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― 新着の感想 ―
[一言] いいおじいちゃんですねー。 お年玉のだまは魂のだまですね。 ってことは、明日あたりは、そのお年玉を集める悪魔が登場するんですね。はい。
[良い点] いい話だなー。いいおじいちゃんだ。たぶんいいおじいちゃん、な、はず。 [気になる点] やっぱり魂だと思ったよ。 [一言] 貯金して食費につかった思い出。
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