消る勇者のエナジィ
ザク、ザク、ザク、ザク、音は消えない。
何度も何度も、身体を貫かれたバアルはもう反応がない。
「嫌だ……バアルを誰か助けて……」
イルの助けを求める声が響いた。消えかかっているバアルのエナジィ。
黙って見ている戦士達。アナト、アイネ、ダゴン、アーシラト。
イルはひざまずいて、両手で顔を覆っている。
「なぜ……ここまでやる必要あるの?」
アインが嘆き悲しむイルを見た。
「巫女。戦士とは戦いに生き、戦いに死ぬのが本懐なのだ」
「本懐ですって? そんなもの何になるの!?」
イルの周りでエナジィが霧のように立ち始める。
「そこをどいて! わたしはバアルの所へ行くんだから……どけ!」
「!」全員が驚く中でイルのエナジィが巨大な力を見せ始める。
アインの24の分身が思わず後ろに下がる。
「この娘……この力」
イルの瞳に白光のエナジィが満ちていた。
エナジィがイルの周りを風のように舞い始める。
「光のエナジィだと? それは神人のものだ。人間に使えるものではない」
イルのエナジィに圧倒され動けないアイン。
「どいて」手でアインの分身を押しのけて、隙間を抜けたイルがバアルの所へ向かう。
動かないバアルの前に立ったイルは、膝を折って語りかける。
「自分より強い相手なら逃げちゃえばいいのに。助けてってお願いすればいいのに」
巻きあがり空中に結晶化したイルの光のエナジィが、静かにバアルの体に降りてきた。
微かに残った翠のバアルのエナジィと混じり合い美しい色彩を見せた。
ダゴンが近づいてきた。
「もういいだろう……戻ろう。バアルを連れてな」
ダゴンはバアルを抱きかかえて、後方の四人へ歩きだす。
泣きながらダゴンついていくイル。
ダゴンは冷たくなったバアルを自分のマントで覆った。
目の前に置かれた物言わぬバアルに、さすがのアナトもアイネも言葉は出なかった。
しかしアーシラトが冷静に言った。
「さあ次はアイネね」
イルがアーシラトに詰め寄る。
「アーシラト! 無理よ! もうやめて! お願い!」
首を振るアーシラト。
「もう、後戻りはで出来ないわ。時間が無いのよ」
アーシラトの言葉が終わる前にイルは叫んだ。
「こんな悲しいのは嫌! 絶対に許さない!……え、アイネ?」
アイネは戦いの準備を始めていた。
マントを脱ぎ、その上に携帯品を置き剣を刺し直す。
白いローブは赤く縁取られ、胸には五つの角を持つ魔法陣が刺繍されている。
首飾りの中央には、青き光を湛えたクリスタルが輝いていて、エール騎士団の長の証をたてる。光の加減によっては純白にも見える、綺麗で明るい色で肩より少し長いくらいの銀髪。
普段は髪にか隠れている瞳は強き輝きを見せていた。