強さの順番
見知らぬ戦士を知っているという、イルを見つめるバアル。
「大昔の伝説の勇者? 誰なんだイル」
「たぶん……三百年前のエール戦争の勇者だと思う。エールの神殿に飾られた絵にあったから。七将軍の一人にソックリだよ」
「七将軍……三百年前だとさすがに私も聞き及ばないですね」
そうだね、アイネにコクリ、頷くイル。
「名はアインガード。通り名は鉄のアイン……というかアイネは歴史も興味ないでしょう?」
もちろんと頷くアイネ。相手の名を聞いてスッと前に出るバアル。
「申し分ない相手だな……伝説に挑むとしよう」
中央に互いに進むバアルとアイン。
イルが振り返って、アーシラトを見る。
「なぜ、闇の王と戦うの? 伝説の勇者まで持ち出して、ここまでする理由はなに?」
小さくため息をついたアーシラトが目を閉じた。
そして、なにかを今と違う、別の光景を見ているような様子を見せた。
「このままでは世界を救うことも、あなた達が生き延びる事もできない。あなたちがこの国の最後の希望。力への意志を持てちょうだい」
イルが確認する。
「力への意思? エナジィの事?」
目を閉じたままで首を振るアーシラト。
「いえ、どんな相手でも戦いそして勝つ。力と意思を持って欲しいの。もうすぐ訪れる大戦に向けて、あなた達は真の力を得る必要がある」
「ふぁあ、なにあんたたち二人で話しているの? あたしは準備オッケーだよ」
あくびをしながら、早く終わらせようと言うアナトは戦う順番も口にした。
「順番は最後は強い方ががいいんでしょ? バアル、アイネ、あたし、イルでいいか。アーシラトはヤラないんでしょ? あたしまで廻ってくるくるかなぁ」
アーシラトが微かに笑いうなずいたが、納得できないイル。
「なんで、わたしが最後なの? 一番弱いのに……」
イルの気弱な返事にアナトが少しイラとする。
「強さの順番ならそうなるのよ! 残念ながらね!!」
アナトの言葉に閃いたイルが言った。
「あ、そうか! わたしが最後なら戦う前に決着つくもんね」
イルの顔をジッと見ていたアナトがため息をつく。
「も~~。私とイルの差はそんなに無いんだからね! 少し悔しぃんだけど、エナジィから見ると、現在の四人の評価は、そんなもんでしょうダゴン? ところでなんであんた静かなの?」
アナトの言葉にやっと口を開いたダゴン
「おまえたちがのんきだからさ。強い敵意を感じていたか? 相手はかなり強いぞ。そうだな順位は……アナトの言った通りかな」
「はぁ~~。保護者の公認来ました」
自分が一番強くない判定に「やはり」とガッカリするアナト。
「ところで、ダゴンあんたもヤラないわよ……ね?」
ああ、頷くダゴン。
「オレは男嫌いだし。特におっさんは勘弁……それにアインとは結構やり合ったからなあ……」
え? アナトが語尾が小さくなったダゴンに聞き直す。
「なんでもね――よ。保護者が子供のケンカに出るわけにはいかんだろ?」
ダゴンにがっかりしたアナトが呟いた。
「聞いた私がバカだった……まあ、頑張るけど、まずはバアルからだね」
大きめの石を見つけ、座り込むアナト。
近くに座ったアイネとイル。アーシラトとダゴンは腕組み立ったまま。
「どっちが勝つと思う?。アイネ」
アナトが横を向いた。
「うーーん、あれくらならバアルでも、勝てるんじゃないのかな~~」
面倒臭さ満載のアイネに、イルが呆れる。
「あんたねぇ……パーティのメンバーがこれから戦うんだからさぁ、気合いとか、アドバイスとかないの?」
うーん、と考えたアイネ。
「早く家に帰ってシャワーして眠りたいです」
ガス、グーでお約束のイルの拳攻撃がアイネの後頭部にヒット。
アナトが呆れながら呟いた。
「またグーなの。まったくあんたらって……」
一旦は笑みを浮かべたアナトが真顔になる。
「あたしは……やばそうな感じがするのよ。感だけどね。大丈夫かなバアル」
バアルとアインが中央で立ち止まる。
闇の国レイスでの戦いが始まった。