闇との戦い
「ふーーん、意外とカッコいいね。年も近かったりする?」
アナトが闇の王に向かって指をさす。
「クク、ありがとう。人間の勇者」
微笑む闇の王。
「僕も勇者のパーティがこんなに可愛い人たちとは、思わなかったよ」
右手で椅子の片袖に、頬杖をついたまま答えた闇の王。
「アナト、アナト」イルがアナト腕を引っ張る。
「なによイル?」イルに視線を向けたアナト。
「アナトは普段おっさんと、おばさんばかりなのは、確かにガッカリ感が半端ないけどさ、闇の王の若作りも半端ないですから!」
「え? そんなに年食ってるの? あいつ?」
アーシラトが高く空中に止まる、闇の王の玉座を見て呟く。
「巨大なエナジィで浮かんでいるみたいね。転生した赤き王と同等、いえ、それ以上かもしれないわ」
上空の闇の王からアーシラトへと、アイネが視線を落とす。
「ふん。し・ら・じ・ら・し・い・ね。赤龍王と闇の王が戦うより、二人が協力する方が似つかわしいのでは? 魔女アーシラトが考えそうな事ですね。でも望んでも叶わないのは、分かっているのでしょう?」
アーシラトは複雑な表情で微笑んだ。
「ええ。闇の王は危険な存在、ゆえに闇の国に幽閉されている。それは神人の意思。巨大な力を持つ闇の王も神の力には敵わない。闇の王は地上に出ることはできない。決してね。だから、あなた達を闇の王と戦わせ成長させることで、赤龍王と戦う力の代わりとする。これなら納得してもらえるかしら? アイネ?」
「うん……」
納得しきれないアイネはアーシラトを見た。
「それならいいけど。でもその良い答えに、今感じているのは違和感だけです」
「わたしが嘘をついている、そう言いたいのかしら?」
「本当の事が少ないあなたですが、私たちを強くしたい話は信じられます。ただ隠し事も存分にありそうです。例えば……闇の王にかけられた天の神子の術式を見つける……とか」
「フフ」是とも非ともどちらにもとれる、アーシラトの笑い。
真意を探るアイネにアーシラトは前を向いた。
「底知れないわねアイネ……でも、まずはこれが終わってからでいい?」
アーシラトが目線を送る先には、大きな脅威が浮かんでいる。
「そうですね」
アイネが一応納得したところに、バアルが一歩前に出た。
「闇の王……あんたは大魔王の地底の基地にいた魔王ラシャプだよな?」
バアルの問いに闇の王が頷く。
「そうだよ。ただし地上の僕は魔力で作り出した分身。それでも十分大魔王を名乗っていたのに、おまえの母が突然現れ、僕の世界を壊してしまった。だからね、僕はここから出ようと思ったのさ、その手伝いを君の姉君に頼んでね」
空に浮かぶ古い大きな革製の椅子に、悠然と座っている、闇の王ラシャプの右手がパチッと鳴った。
一人の鎧の男が、闇の王の前に徐々に浮かび上がる。
「さて、これから個人戦だ。全員を倒せば外へ出られるルールにしよう」
その透き通る声は少年のような姿と合わせ、闇の王とは思えない、麗しいものだった。
「始めるとしよう。我が闇の勇者よ、前に進め!」
闇の王の前に立っていた鎧の騎士が、闇の王に一礼して、こちらへ向かってくる。
身に付けた鎧はガチャガチャと音をたてる、かなり古びている装備を見てアイネが呟く。
「何者でしょう? 闇の王の直属ならかなりの実力者のはず。噂に聞いてもおかしくないです。見知らぬ紋章に見た事の無い鎧です」
アイネの疑問に答えるイル。
「今は使われていないからね。あれはたぶん……大昔の伝説の勇者よ」