最終目的
「大きな黒い扉が奥に見えるな」
バアルが優れた竜の目で見た詳細を告げる。
「扉は開いている。門の奥に黒い宮殿があり、微かな光が入口から漏れている」
「ふ~ん」
アイネが軽めに聞きながす。
「アイネは何にも興味がないのねぇ。闇の神殿かぁ。みんな初めて来た感じ?」
アナトはアイネを見ながら続けた。
「……それにしても設定がベタすぎない? まさか闇の王とか出てくるみたいな?」
アーシラトが頷く。
「そうよ。でも分かりやすくていいでしょう? まずは王道で攻めてみる事が大事よ」
バアルがアーシラトを見た。
「アーシラト、おまえの計画通りに進んだようだな」
「いいえ」
キッパリと否定したアーシラト。
「力ある者集める。その力を見極め弱点を克服させる。ここまでは計画通りだったわ。でも、パーティの構成により総合力がここまで跳ね上がるなんて、予想していなかったわ」
バアルが闇の神殿を見た。
「つまり、俺たちは強い……闇の王と戦えるほどに。そういうことか?」
「そうね。その資格は有しているわね。でも……」
不安そうな表情を見せたアーシラト。
「話は簡単にしてよね」
元気を取り戻したイルが話を結論づけた。
「つまり、アーシラトが求めていたのは「この戦い」私たちの弱点を克服させる為に。私の弱点は精神力だったのかな。最後にこの中の奴をぶっ飛ばすと目的は完結して、地上へ帰れるって事ね。それでいいよね?」
「そういう事ね」
アーシラトはイルの言葉を肯定すると、五人に聞く。
「さあ、最初は誰が行く?」
バアルがアーシラトに聞き直す。
「最初だと?」
「そう。闇の王が既にお待ちかねよ。」
アーシラトの言葉で、フッと周りが暗くなった。
辺りは果てしない砂漠が広がる風景へと変化していく。闇の神殿も消え、見渡す限り何も無い。
空は紫と黒が溶けあう分厚い雲が、早い速度で動いていた。
「閉ざされた空間でバトル? ボスを倒すまでここを出られない設定なのかな?」
アナトが肩をすくめた。
「勇者は気に入らないのかい?」
声がした方を見る六人。
「え?」
バアル、アナト、ダゴン、ラシャプ、イルは小さい驚きを漏らす。
百メートルほど上空に浮かび上がる真紅の椅子に、悠然と座る細身な若い男。
「ようこそ、我が居城に! 人間の勇者よ」
男は、腰まではあるであろうシルバーグレイの長髪を綺麗に梳かしつけ、後ろで一つに結わえ、耳のあたりにはピアスだろうか、貝殻のような飾りをつけている。
吸血鬼のような黒のタキシードを着て、黒い、裏地が真紅のマントを羽織っていた。
「僕が闇の王ラシャプ。ふーん、なかなかいいじゃないか、君達」
椅子の片袖に肘をついた闇の王は、六人を空中から見下ろし、満足そうに微笑んだ。
「ラシャプ! おまえがこの戦争の引き金かよ!」
バアルがかつて、母である大魔王の側近を務めていた魔王を睨む。
「あれって……」
イルが不思議そうに上空を見上げる。
「なんで、空中に浮いていられるのかなあ?」
どんな仕組みなのか椅子と共に宙に浮いている闇の王。
目をこらすと椅子と闇の王の周辺にだけ、細かくキラキラと光る何かが見えるようにも思えるのだが、ここからでは何が反射しているのか分からない。
ただ、椅子には他にも何か仕掛けがありそうに見えた。