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勇者との出会い


 アーシラトの傷よりイルの精神的疲労がかなり重い。

 肩を寄せ合って座ると、見える暗い景色としれぞれの心。

 影が弱い心を蝕む。


 突然、それまで黙っていたイルが大声を出した。

「なんでアイネは教えてくれないの! 魔法だって武器の扱いもそう。足手まといと思うなら、少しずつでも、わたしに戦いを教えてよ!」

 イルをチラリと見たアイネ。


「教えるっていっても……私は独学。二、三度魔法書見ただけだし。剣も訓練なんてしていないです」


 イルが立ちあがりヒステリックに叫んだ。

「そうよね! あなたは天才だものね! 私とは違うものね!」


 アーシラトがイルの手を取って座らせる。

「だめよ。体力を回復しなきゃ。それに後ろ向きな感情を持てば、この国レイスに取り込まれてしまう」

 もういや、首を振りながらしゃがみ込むイル。


 アーシラトがイルを慰めながら話をする。

「力への意思。世界を再び変える者。イルは存在能力でアイネさえ越えるかもね」

 アーシラトの言葉に、力無く首を振るイル。

「そんな事あるわけない。足手まといのわたしなんか」

 イルの結ってある髪を撫でながら、アーシラトが優しくあやす。

「あなたは凄い力を持っている。それを私は知っている」


 その時「静かにと」ジェスチャーをするバアル。

 こちらに近づいてくる、何者かの気配をバアルが捉えた。

 バアルとアイネは、イルとアーシラトを守るよう前に出て剣に手を掛けた。


「ちょっと、ちょっとそこ! うるさいわよ!」


 現れたのは十六才くらいの少女。

 肩まである黒髪。細身の体。美しく整った顔立ち。

 紅を基調にし、刺繍が施されたコタルディを着ている。


 導かれてバアルと父親を探す、勇者アナトが不機嫌そうに立っていた。

「あのね。こ・こ・は・おのぼりさんが観光気分で来るところじゃないの。わかる?」

 ジロリと四人を見渡したアナト。


「特にそこの二人。若い女の子がこんなところに来ちゃダメでしょう?……これだから世間知らずの女子は困る。早く家に帰りなさい!」


 ここまで一気に話を続けたアナトを見てアイネは思っていた。

(あんたも十分世間知らずの若い女っぽい)

 短い丈のスカート。どう見ても私より若いなあ……とアイネが思っていた時にバアルが聞いた。


「ところで君はだれ?」

「あたしの名前はアナト。年は十六。見ての通りのすごい美少女で勇者」

(また……めんどうな事になりそう)

 アイネが嫌そうな顔している。


 バアルがアナトの勢いに、押されながらも質問を続ける。

「えーーと、名前がアナトで年は十六歳までは分かったが……うん? あれ、もしかして獣王が言っていた召喚された、もう一人の勇者!?」


 立ち上がったイルがアナトに向う。

「久しぶりアナト。今も転生勇者とお父さんを探し中なの?」


 一緒に旅をしたアナトに会い、少し赤みを帯びてきたイルの頬にアーシラトも安心した。

「あら、勇者さん、お久しぶりね! 元気にしてたかな?」

 急に背負っていた大剣、重原子の剣『昴』を抜いたアナト。

「あらアーシラトさん……してた、してた。おまえの頭をパックリ切る為にな!」


 アクチノイド鉱石でつくられた、超重量の剣を空中でクルリと一回転さえアーシラトを威嚇する。

「あんたのせいで、どんだけ酷い目に逢わされたかわかる? とりあえず564(ころす)!」

「あら、人間の勇者って、とってもお下品ですわねーー」

「アーシラトめ絶対、ぶっ殺す!」


 アナトの姿を見てウン、ウンと頷いたイル。

「やっぱりアナトらしいなあ。ストレートで素敵」

 バアルがアーシラトの前に出て、アナトを止めようとする。

「イル、バカ言ってる場合か! 導かれた勇者よ。気持ちはよーーーーく、分かるがここは堪えてくれ……え!?」


「てぁああ!」アナトの気合いが響いた。


「え? 俺ですか……うぁあ!」

 ハッシ、白羽取りでアナトの大剣を素手で受け止めたバアル。

「もう一人の勇者、俺を切る気なのか?」

「あなたが誰か知らないけど、邪魔する奴は一緒に切る!」


「ふん、切れるもんならやってみなさいな」

 後ろのアーシラトのアナトへの挑発行動に慌てるバアル

「アーシラトこら、本来はおまえを切りたいのは俺だ、なんで人間の勇者から切られるんだよ?」


 さぁ、理解不能としておきなが「面白いからいいんじゃない?」と宣うアーシラト。

「アーシラト、こら! うっ、おい! 人間の勇者……切る力が増加しているって、エナジィ放出するな!」


 アナトの腕から蒼いエナジィが放出され、ストレングスを高め、剣の押し切る力を増加中。

「おい、おい、誰かアナトを人間の勇者を止めろ!」


「はーい」イルの声が響き、その後、ガツウン、何かを叩く音が聞こえた。

 同時にバアルを切ろうとする力が消えた。

 ふにゃー、と倒れるアナト。その後ろには魔法の杖を上段から振り下ろしたイル。


「はい、アナトを止めました!」

「止めましたって、少しやり過ぎと違うか?」

 バアルが倒れているアナトを心配している。

 やりすぎ指摘されたイルがアナトに聞いた。


「そっかな。ねぇ、アナトは本気で気絶してるの?」

「きゅうぅう」一言口にしてから、ひっくり返ったアナト。それが返事だった。



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