闇の国レイス
「血の匂いのする迷宮」その深淵……
すでに迷宮に入って五日間。薄暗く血の匂いがたちこめる。
地下迷宮の広さは広大で、いつも鼻につく漂う血の匂い、精気を吸われる漆黒が占める暗闇。
目に見えない疲労が、四人の身体に覆い被される。
特にイルは顔色が目に見えて衰弱していた。
この世界はエナジィ(闘気)が強く作用する。
迷宮の放つ瘴気も闇のエナジィであり、白のエナジィを持つ巫女のイルには反属性だった。
先が見えない迷宮……永遠に続くかと思われた道のりは、突然終わりを見せた。
「ふぅーふぅ……行きどまり?」
息を整えながらイルの前には、道が無く岩の壁が立ちはだかる。
「いえ。ほら、感じるでしょ? そしていい匂いがするでしょ?」
アーシラトが岩壁を指す先から風が吹いてくる。
生暖かく、強く匂う血の香りを含んだ風。
風が吹いてくる方向を懐かしそうに見ているアーシラト。
「ここに……なにがあるのよ?」
イルが疲れ切った声を出す。
アイネに身体を寄り添うイルは、青ざめ怯えているように見える。
「そろそろ……かな」アーシラトが呟く。
「だから!、何が起こるの!?」
悲鳴にも似た声のイル。
「なにも恐れなくてもいいの」
三人に振り返ったアーシラト。
「少しだけ……実力が見たいだけ……フフ」
叫び声のように聞こえる風の音。
理解できないアーシラトの言動。
徐々に恐怖に捕らわれ始めたイルは、手足が重くなり体中が冷たくなり、胸が押し潰され息が苦しくなる。
「何を言ってるの! わたしこんな所もう出る、もう我慢出来ない」
口元を緩めたアーシラトの瞳が大きくなった。
「もう遅いわ。開く……地獄の門がね!」
アーシラトの唇はまるで、鮮血で化粧したようで禍々しく妖艶だった。
アーシラトが言った地獄の門……行き止まりと思った絶壁は魔法でカムフラージュされていた。
アーシラトが唱えた隠語により、通り過ぎる事が出来た四人は闇の国レイスへ。
古き時代に世界を戦いの渦に巻き込み、派遣を目指した闇の王が封印されている場所へ進む。
闇の国レイスではダメージを受けても体力は減らない。
食事もほとんど取る必要が無い、エナジィ中心の世界。戦う意思がすべてに尊重される。ダメージを受けると戦う意思は(エナジィ)は削られる。
エナジィがZeroになれば精神的な「死」が訪れる。
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厳しい戦いが続くがバアルは赤龍王に「負けた積念」で自分を追い込み、急速に強くなっていた。
アーシラトは満足そうに頷いた。
「さすがというべきかな。赤龍王に負けた時より全然良い感じ。さらに経験を踏めば使えるかも」
アイネは闇の国レイスでも所構わず、天才ぶりを発揮。
戦いの才能にはアーシラトも感歎する。
「まったく本気を出していないのに。あの動きはなに? 一度も敵の攻撃も受けていない……底が見えない才能だわ。将来心強い力になる……もしくは大きな障害として立ちはだかる者」
アーシラト自身はゴースの魔女と言われる高位の魔法使い。
そしてここレイスはアーシラトには馴染み深い場所。
後方から魔法でモンスターに的確にトドメをさして潰していく。
ただアーシラトの瞳には心配するべきものが映っていた。
「動きが悪くなっている。この場所はイルには少し厳しかったかしら」