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五十年前の勇者


 迷路のような城塞都市を、あてもなく歩くあたしは、一つの駄菓子屋の前で立ち止まった。


 いくつか売られているお菓子の中に、雲のように棒に巻かれたものがあった。

「これって虹色だけど、綿菓子にそっくりだ」


 現代でも七色に混ざり合った綿菓子を作る事は難しい。

 珍しそうにお菓子を見ていると、店のおばさんがあたしに気がついた。


「あなた立派な姿をしているね……もしかして勇者?」

「いえ、いえ、あたしは、そんなたいそうな者では……」


 右手を振って否定するあたし。


「その虹色の指輪……覚えているわ。五十年前にも女の子が、あなたみたいにお菓子を見ていた。そしてその子はこの世界を救った勇者だったの」

「そうなんですか……でもあたしは……なんちゃって勇者なんで……」


「はい、これあげる」

 おばさんは七色のお菓子をあたしに手渡した。


「おばさん、あたしお金を持ってません」

「ふふ、そう、そうだったわね」

「なにがそうだったんですか? あたしあばさんと会った事あります?」

「ううん、あなたに会った事はないわ。でも五十年前にあなたソックリの子が言ったの“あたしはお金を持っていません”ってね。だから……」


 おばさんはあたしの手にお菓子を握らせた。


「だから、五十年前のようにあなたにお菓子をあげるの」


 受け取ったお菓子は七色に混ざり合い、細い錦糸が光りあっていた。


「……ありがとう」


 あたしは素直に礼を言って頭を下げた。

 小さく千切って一口食べてみると、やっぱり綿菓子の味。

 ただ、その味は、あたしの予想を遙かに越えて美味しかった。


「おばさん、これ凄く美味しいよ」

 おばさんは頷き、あたしの持つ綿菓子を懐かしそうに見た。

「そう、前に会った勇者もそう言った。そして輝きだしたんだ」


「輝きだした?」

 あたしの言葉と同時に、綿菓子が強く光を放ち始めた。

「これは……どうして光るの?」

「あなたのエナジィを受けて、綿菓子が反応しているの」


 七色に輝く綿菓子をまた千切って口に入れる。


「やっぱり美味しい……それにこの輝きは、あたしにもエナジィ(闘気)があるんだ」


 強く光る綿菓子を見たおばさんが微笑み、あたしは初めて自分のエナジィを感じていた。


「あたしにはエナジィなんか、無いと思っていた」

 首を振っておばさんは昔を懐かしむ。

「そんな事はないわよ。ほら光はどんどん強くなる……五十年前に表れた勇者が食べた時と同じように」

 五十年前であたしにそっくり……見知った人が心に浮かぶ。


「この世界を救った勇者は……横浜のおばあちゃん? おばさん、なにか包む紙を頂戴」

 あたしは、おばさんからもらった紙で、綿菓子を一口分丸めてポケットにしまった。


「それだけじゃ足りないだろ? もう一つあげようか?」

 あたしはおばさんに静かに首を振り、これだけでいいと答えた。


「困った時にこれを食べると、おばあちゃん、いや、勇者の力を借りられそうな気がするんだ」


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