めずらしいキノコ
……光が陰ってきた……
思ったよりダゴンの帰りは遅かった。
「ダゴン帰ってこないなあ。誰に会いに行ったんだろう? 美味しい物を一杯もらえたらいいなあ」
待っているのに飽きたあたしは、勝手にダゴンのお土産に大いなる夢想していた。
「えーと、ピザに、唐揚げに、カレーに、焼き肉……あと、トムヤンクン!」
好物を想像したせいでお腹が空いてきた。
「これは非常用にとっておけよ」
ダゴンにそう言われ渡された果物……とっくに食べちゃったし。
「ダゴンは動くなって言ったけど、お腹の虫は止められない……ガルル」
光が少なくなって森の中は益々暗くなって、視界が効かなくなってきた。
まだ明るいうちに食べ物を探す事にした。
「あまり遠くに行かないで、この辺で探すかな」
でも、道の脇に食べ物が、都合良く落ちているわけなどない。
大いに不安だが、ガサガサと茂みをかき分け森の中へと進む。
「結構、奥まで来ちゃったなあ」
振り返ると木々の間から元いた場所が、かろうじて見えるくらい。
(そろそろ戻らないと……何か食べるのものは……)
「お、これは……」
目の前の大きな木の根っこに、一メートルはありそうな白い大きなキノコが生えていた。
「うぉお、でかいキノコをゲット!」
お腹を空かしたあたしは、目の前のご馳走に手をかけた。
「せいえのお!」
大きなかけ声と共に、力一杯キノコを引っ張る。
「……イテテ、何をする!」
「あれ? 何か声がするな……」
キョロキョロと辺りを見渡し声の主を捜す。
でも薄暗い森の中には動くものは無かった。
「う~ん、おかしいな。確かに声が聞こえたんだけど……まあ、いいか」
とにかく何か食べないと……再び大きな白いキノコに手をかけた。
「せいえのお!」
さっきより大きな声で気合いをグッと入れて、強くキノコを引っ張った。
「イテテ、何するんだ!」
「うん? さっきと同じ声」
キノコから手を放し周りをキョロキョロする。
「どこを見ている? ここだ!」
「うん? どこ?」
あたしは声のする自分の足下を見る。
そこには今引き抜こうとしたキノコが、不満そうにこちらを見ていた。
「おまえは、ワシになんの恨みがあって、こんな事をするんだ!」
「キノコが喋っている……」
「それは喋るだろ!」
「だってあなた、キノコでしょう!?」
「だから、キノコだから、喋って当たり前だと言っている!」
立ち上がった白いキノコには、ちゃんと目も鼻も口もあった。
「ワシを引き抜こうなんて、いったいどういうつもりだ!」
あたしを指さし非難する小さな手。それに地面に立つ短い足。
「手足もある……」
「だから、キノコだから当たり前だろ!」
キノコの立ち上がった姿は一メール以上ある。
さっきは頭の方から見ていたので、まんまキノコだったが、こうして正面から見てみると、ゆるキャラ風でなかなか可愛い姿をしている。
「……あたしの世界だとキノコは喋らないから」
「おまえの世界?」
「あたし現代から来たばっかりで……」
「現代か……」
「現代を知っているの?」
「そんな事より、なぜワシの頭を引っ張ったんだ?」
モジモジしながらあたしは小さな声で答えた。
「えーと……食べようかと思って」
「食べる?」
「うん、美味しそうだなって」
「なにが美味しそうなんだ?」
モジモジを続けながら、あたしは目の前のキノコ人(?)を指指す。
「あなた」
「……そうか」
特に怒っていなさそうなので、あたしは素直に聞いてみた。
「少しだけかじっていいかな」
「何を?」
「あなたの笠」
「おれの頭をかじりたいって?」
「お腹が空いているの……ちょこっとだけ……いい?」
短い白い手を胸の前で組んで、考えているキノコ人。
「そんなにお腹が空いているのか……そうだな、少しくらいなら」
その言葉にあたしは大喜び。
「いいの! やった!」
笑みを浮かべてキノコに近づくあたし、その周りに白い粉が舞い始めた。
「この白い粉はなに?」
「眠りの胞子だ」
よく見るとキノコ人の笠から、白い胞子がパフパフと排出されている。
「この胞子を吸い込むと半日は起きないな」
「え? それじゃあたし寝ちゃって、あなたの事食べられない……」
急に眠くなって、あたしは言葉も上手く話せない。
「キノコは醤油を塗って炭火で炙って……ぱくり……」
ふらつき、おかしな事を呟くあたしを見ていたキノコが言った。
「あほか! おれの頭を食っていいわけないだろ!」
「……それはそうか」
コテン、納得した後で眠気に逆らえなくなり、あたしはその場で倒れた。