招かれた異世界
お婆ちゃん家で紫の渦に飲みまれたあたしは、真っ暗な森の中に立っていた。
なんか身体が重い。自分の身体をチェックして驚いた。
パジャマだったはずのあたしの姿は、紅いコタルディ、紅を基調に刺繍が施された軽量の鎧だった。
太い木綿のような赤い糸で紡がれたそれは、上着には厚め皮が貼らている。
下はプリーツスカートで丈は少し短め。細い白い刺繍がヒダの部分にされている。
シャリン、手を見ると深い銀色に輝く腕輪が右手首と左手首に三つずつ付けていた。
「これ……綺麗」
指には七つのリングがはめられており、プラチナの台座に光り輝く赤、橙、黄、緑、青、藍、紫……七色の虹色の石。
「なに? この格好はどうしたの? ここはどこなの?」
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あたしは丸一日、あてもなく彷徨っている。うっそうとした木々が、空を隠して殆ど視界が効かないほど暗い。足下に見た事のない植物が生え、あたしの脚に絡みつくものもいる。
「ひゃ」
動物のように動きまくる植物に、いちいちリアクションをとってしまう。
森の奥からは聞いた事もない奇妙な声が聞こえ、そのたびに立ち止まり耳を澄ます。遠くに見た事もない、異形の姿をしたものが時々見えたりもした。
心の陰りと体の疲労が増えていくのが自覚できる。
「ここは何処? 暗いし嫌な臭いするし。コンビニは無いし。モンスターはいるし。一日中歩き続けているけど、全然進んでいないみたい。どっちへ行けばいいのかなあ……はぁ疲れた」
独り言を続けるあたしは歩く足を止めた。
「ダメだここで休憩をとろう」
草むらに座り込むと、あたしに絡みついてくる植物の蔦。それを払いのけながら独り言の続き。
「ふぅ、この剣凄く重いんだよね。捨てたら怒られるよね?」
誰に怒られるかもわかんないけど。
背中に背負った巨剣はいかにも勇者の証らしい。
「それにしても……困ったなあ」
深夜に表れた男の子の手を掴んで、こんな事になってしまった。
ラノベの異世界もので、冒険もしたいとも想ったりしていたが、実際は大違いで、重くて臭くてべとべと。一日歩いただけで、あたし的にはもう冒険は無理な感じ。
「この石はなんだろ……きれいだけど」
あたしが首から下げている石の色は漆黒の黒、その中に微かに輝く白き線。白き線は模様ではなく石が微かに発する光。
休憩で少しだが元気が気を取り戻し、立ち上がり暗い森の中を歩き始める。
「あーーそれにしてもお腹が減った」
キュウ~、お腹が情けない音を出す状態が続いており、あたしの体力と気力を奪っていく。とっても食欲旺盛なあたしは、ご飯が食べられないのが一番きついかも。
「お婆ちゃんのご飯美味しかったなあ~~。お手製の茶碗蒸しとお赤飯。ちょっと甘めだけど、そこがまたいい。あとトムヤンクンの酸っぱさ……ダメダメそんな事思い出したら」
お婆ちゃんの豪華な食事を思い出し、お腹の空き具合は限界点を向かえていた。
「ああ……もう……ダメだ……先立つ不孝をお許しください……」
あたしは雑草が生える道にバッタと倒れ込む。
「腹減った……お風呂入りたい……ネットしたい……カラオケ」
あたしの身体に絡みついてくるたくさんの植物の蔦。身体の半分ぐらいが蔦に覆われたが、もうそれを払いのける力も残っていない。
キュウ~、お腹の音が響き、電源が切れたロボットのように、あたしは完全に機能停止した……