暗黒騎士の想い
その場に膝を落して、アガレスに頭を下げるグレン。
「申し訳ありません。こんなざまで」
「大丈夫か、グレン? 獣王との戦いに本当に命を賭けられたら困る」
「ほう、若造はまだ本気じゃないと言いたいわけか。そういえば……」
アスタルトが思い出すように言った。
「若造はアガレス、おまえの養子だったな。たしか神人の推挙の際に起った内乱で、親を失った子供を引き取ったと聞いたが?」
グレンに視線を移したアガレス。
「そうだな俺の一番大切な者。可愛い息子だ」
「可愛い? おまえがそんな事を言うとはな。ふん、ダークナイトも親バカとみえる」
アガレスが普段は見せない優しい視線をグレンに送る。
「オレも自分の心境の変化に驚いている。世界を変える大義より、グレンの成長を見守る方が大事に思えてくるくらいだ」
「それなら、箱にでも仕舞っておくことだ。大事な息子をオレにけしかけてどうする?」
アガレスが両手を挙げて、首を左右に振った。
「仕方がないさ。こんな時代だ。オレもいつ死ぬかわからん。だから息子にはいつでも一人で生きていける、そんな力を与えたい」
俺はおっさん達の会話に、退屈のあまり起き上がった。
暗黒騎士の親ばかにあきれ顔の、アスタルトが両手を組んだ時、俺は馬車から声をかける。
「獣の反射神経と強固な身体を持っているのに、人間をも上回る頭脳。獣王のような知恵の有るライオンなら、人なんかみんな食われちまう……あ、知恵が有るから、人なんか食わないか」
「起きたのかバアル?」
アスタルトが聞いてきたので、感想を素直に述べてみた。
「うん。おっさん三人がうるさくて、大人しく寝てろって言われてもムリ!」
「三人だと……俺はおっさんではない! この反逆者め!」
グレンが不満そうにバアルを見た。
「グレンって二十代後半だろ? 十代の俺から見たら十分おっさんだっつーーの」
「何を! この尻の青い小僧が!」
グレンとバアルの言い争いを聞き、笑いながらアスタルトはアガレスを見た。
「さてと、何か変化があったらしいな。おまえとレべリオン、赤龍王との間に」
アガレスが口を開いた。
「レべリオンのリーダーの赤龍王は、この世界で力を取り戻そうとしている。ドライグへの進出は自ら封印を外すためだ。もし封印が解かれた場合、竜の力を使って世界の偽りを正し有るべき姿へと変えるだろう。そして世界は破壊される」
アガレスは言葉を続ける。
「やつは既に全て知っていた持っていた。魔女アーシラトに古代神である六頭竜の事を知らされていた。魔女の力を借りて古代の神の力をこの世界で取り戻すつもりだ」
アガレスは空を見上げた「アーシラト」俺は身内の名前に驚く。
「ここで姉の名が出るとは……さすがというか、困ったやつというか世界を壊すとかマジかよ」
俺は荷馬車の後ろで足をブラブラさせながらつぶやいた。
グレンは俺を睨みつけて強い口調で言い放った。
「おまえはこの世界の人間じゃ無いだろ!? 早く自分の世界へ帰れよ!」
グレンのきつい言葉も今の俺にはあんまり効いてなかった。
「メチャクチャ腹減ったなぁ……そういえば、しばらく牛丼の特盛り食ってないぞ。あと目玉焼きが載ったハンバーグ……無性に現代が懐かしい。それにもう一人の勇者アナトはどこにいるんだろう? 修行でもしているのかなあ」
現代への思慕と、アナトへの心配が大きくなる俺に、暗黒騎士アガレスが声をかけてきた。
「見てもらいたいものがある人間の勇者よ。グレンとアスタルトも一緒に来てほしい」