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父と子


 テラスの影から盗み聞きをしている俺とアスタルトに、部屋の二人の声が聞こえている。

「何の事でしょうか。獣王に俺が何かするとでも?」

「嘘が下手な奴だな。腕試しもいいが死んだら意味が無いぞ。それに……」

「それに何でしょうか?」


 獣王には敵わないと暗に言われ、不服そうな重騎士グレンを見てアガレスは苦笑いを浮かべる。

「まったく、そんな顔をすれば、おまえが獣王と戦いたいのが見え見えだ。それにあの少年はエナジィを持っているらしい異世界からの転生勇者でもある」


「だから何ですか? 俺が獣王だけでなく、あの子供にも遅れを取るとでも?」

「そんなに力むな。本物の戦士は力だけでは勝てないぞ。豪腕のグレン」

 椅子を引いて立ち上がったアガレスは、窓を開けて風を取り込んだ。


「まだ夏だが、夜の風は秋の訪れを告げているな。グレン、おまえが私の所に来て何年になる?」

「今年二十八になりますから、二十三年です」

「そうか、二十三年間か。五歳のおまえが俺の養子になってから、そんなになるのか。私も歳を取るはずだな」


 それまで無表情だったグレンが顔色を変えて、一歩前に出る。

「いいえ! 閣下はあの頃と変わりません。強さと寛容さを備える、最高の武人です!」

「ふぅ。グレン、やはり肩が凝る。二人の時はそんな言い方はやめろ」

 アガレスの言葉に、深呼吸して気持ちを整えたグレン。

「はい……父さん」


 親子の間に戻ったグレンは、アガレスに一気に自分の想いを伝える。


「父さんは今のままでいいのか? こんな辺境を任されて。赤龍王が今の勢力を持ったのは、父さんが命をかけて戦ったからだろ。もしこの世界を変える人物が居るのなら、それはダークナイトのアガレスしかいない」


 グレンの言葉に、静かに懐かしむように答えるアガレス。

「グレン、買い被り過ぎだ。俺は一人の剣士でしかない。世界を変える度量などないよ。出来る事は目の前の強敵を倒す事くらいだ。それに、今の私にはおまえがいる。おまえの成長が一番の楽しみなんだよ」

「もしかして父さんは、オレの為にレべリオンのリーダーとの戦いを避けているのか?」


 アガレスはグレンの方を向いた。

「ふう。もう二十五年か。マスティマと大陸を平定した俺は、彼女に自分の思いを告げた。その時は生まれて初めて手が震えたよ。どんな戦いでも臆する事が無かった俺が、マスティマの答えに怯えた。でも彼女は微笑みを答えにして返してくれたんだ」



 そこまで話すとアガレスはグレンから視線を外して、窓の外を見た。


「マスティマと一緒になって子供が生まれた。マスティマと俺と、三人で地方都市にひっそりと暮した。しかし十年後、マスティマが作った平和は崩れる。古き王の血筋エール公国、その末裔を王に据えたのが失敗だった。嘗の名家の血も長い時の間に腐り濁り、権力と富を求めるだけの俗と化していた」


 グレンが話を付け加えた。

「そして十年前に、歴史的に有名な“神人の推挙”が起った」


 グレンの言葉に、月の光が差し込む窓際で振り返るアガレス。


「神人が人の国の王を推挙するのは珍しい。本来神に一番近い奴らは、人間の世になど無関心だからな。乱れ始めたゴースを収める為に、神人に推挙されたマスティマは、それに従い女王に即位した。しかし、それは神人の思惑を受けたもので、マスティマや私の考えとは違っていた。だが選択の余地は無かった。国内で戦いが始まっていたからだ。我々は疲れていた出来るだけ速やかに、戦わずに済ませたかった」


 グレンが尊敬の目でアガレスを見る。

「我々とは、父さん達の無敵の騎士団だよね」

 アガレスは机に戻り座り、椅子の後ろに手を回すと天井を見上げた。

「昔の事だ。それに俺一人では何も出来なかった。みんながいたから神人とも戦えた」

「え!? 神人と戦ったって? それ、初めて聞いたよ」


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