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冷血と勝利


 ある日の事だった、外がやけに騒がしい。

 俺は塞がれた収容所の中から、小さな穴を通してsとの様子を伺う。

 どうやら、この国を奪われた人々が集まり、アガレスに戦いを挑んだようだ、


 俺の目の前に迫った殺気を帯びた大群、女王を、城を、家を、家族を、恋人を、全てを奪われたゴースの人々。その数と士気の高さに圧倒されそうになるレべリオン軍。

 立場が逆となり反乱軍を迎え打つことになったアガレスは、城壁の上で苦笑いをしている。

 勇者の俺にはアガレスの独り言も聞こえてきた。


「またこの場所に立つとはな。しかも今度は攻められる側か……まったく運命とは皮肉なものだ」

 暗黒騎士アガレスの脳裏に、この国を攻め、このグリモア城にて女王に対峙した記憶が蘇る。

「あの時に女王は俺に任せてくれた……この世界の未来を」


「女王から任された?」途中で捕まった俺は、この城の主がどうなったか知らない。

 注意してアガレスの言葉を待ったが、独り言はそこで止まった。


 アガレスは両足をがっしり開いて立ち、胸の上で両手を組み前方を見ていた、緑の草原を反乱軍が駆け上ってくるのを。


「将軍。準備が整いました」

 部下の報告にアガレスが答えた。

「よし、やれ!」


 俺にはアガレスの考えが分からなかったが、すぐにそれが胸糞悪いものだと、思い知らされる。


 捕虜にされていた者が手足を縛られ、首にロープを繋がれて歩き始めた。

 城の外のアガレス軍の一番前で捕虜は止まった。

 反乱軍は捕虜の姿を見て、その場で立ち止まる。

 兄弟や親、恋人や子供、懐かしい顔がそこにあった。


 近くまで近づいた家族へ懐かしさから不用意に歩み寄る反乱軍。


 アガレスの声が響いた。

「弓隊! 全員構えろ!」

 ザザザザザ、百を超える大弓が構えられた。

「撃て!」


 ピーン、と張られた弓から、一斉に鉄の鏃が空に向って打ち出された。

 ヒュヒュヒュヒュン、弓矢は高い楕円軌道を取り、狙った獲物を確実に仕留めていく。


「ウギャァアア」背中、肩、頭に深々と刺さった鏃は、大量の血と獲物の命を奪っていく。


 弓の攻撃は、反乱軍にではなく、前方に引きずり出された捕虜達へ行われた。

 呆然とその場に立ち尽くす反乱軍に、アガレスの次の攻撃の声が聞こえた。


「次弓隊、全員構えろ!……撃て!」

 次の矢が放たれ倒れこむ人々、その殆どは女、子供、老人であった。


「や、やめろーー!……頼むやめてくれ!」

 たまらず反乱軍のリーダが、アガレスの方に駆けてくるのが見える。

 数人の指揮官達も一緒ににつきそう。


 アガレスに言葉が届くギリギリの場所で、リーダは立ち止まり、懸命に大きな声を出す。

「アガレス! やめてくれ。戦いに捕虜は関係ないだろう?」

「そうだな……捕虜は大事にするのがいいだろう」


 アガレスの答えを聞いて、安堵する反乱軍のリーダと側近達。

「お願いだ。捕虜は城へ戻してくれ、この戦闘が終わるまでは」


 反乱軍の全員に、懇願の情が顔に出ていた。

 自分の肉親が矢で打ち抜かれる中での進撃は出来ない。

 反乱軍の誰もがそう思ったが、成り行きを見ていた俺も、あんまりな作戦に怒りが湧いていた。だが、アガレスはその切なる願いをつぶした。


「捕虜を戻すだと? それはできないな」

「なんだと!? どういうことだアガレス!」


 アガレスは不適な笑みで話を続けた。

「彼らは我々の盾だ。重要な役目がある。弓隊構え! 少し先を狙え!」

 左手を上に挙げてから、前方へ降るアガレス。

「撃て!」


 アガレスの指示により、弓矢は先ほどより、やや向きを上にした。

 距離が伸びた矢は、捕虜と反乱軍へと放たれた。


 ヒュヒュヒュヒュン、百の弓矢が大地に振りそそぐ。


「ばかな……こんな事が許されていいものか!」


 反乱軍のリーダが怒りを露わにするが、悠然と答えるアガレス。


「これは戦争だ。勝ちたければ、まず君達で捕虜を殺せばいい。この兵士の数の違いを見れば、反乱軍の方が圧倒時に有利な戦いだ。くだらん心の痛みなど捨てろ、さすれば勝利は君達のものだ」

「アガレス……この国の英雄だったのに……殺してやる!」


 反乱軍のリーダが怒りに任せて剣を抜いた。

 側近の数名も動揺に怒りえを得て、アガレスの元へ走る。

 反乱軍のリーダには、もうアガレスしか見えていない。


「アガレス! 覚悟しろ!」

 向う撃つように、城の高台から飛び降りた暗黒騎士。

 怒りに身を任せた、反乱軍のリーダと付き添う者たちに一人立ったアガレス。


「ふん!」アガレスが背中の大剣、ソウルイータを引き抜いた。


 反乱軍のリーダ達は四方にちり、左から、右から、回り込んでアガレスと対峙する。リーダが正面方から切り込むと同時に回りから斬りかかる作戦だった。


 剣を空へ高く構えたアガレスの腕の中でソウルイータが叫び声をあげる。

 ウォォーン、魂を食らう剣ソウルイータは「呪縛」恐ろしい叫びで相手を麻痺させる効果を持っていた。


 離れいる俺も思わず耳を塞ぐ呪いの声。

 切りかかった反乱軍はその場で一瞬動きを止める。

 その刹那、漆黒の大剣は右から円を描き水平に、左に切りだされた。

 剣の軌道が大きな黒い円を描いて、すぐに消えた。


 アガレスは体を反して、指示を行う高台へと歩き出す。


 ザッシューー、反乱軍のリーダと側近がその場に倒れた。


 高台に戻ったアガレスは、血がついた大剣を反乱軍の本体へ向け叫んだ。

「反乱軍のリーダは死んだ! 全軍全速前進! 反乱軍を一人も残さず殺せ!」


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