英雄たちの夢
十年前……山深き森の細い道で移動する集団がいた。
「ふぁあああああああ」
大あくびをしたのはアスタルト。
「まだ、着かないのか。そのなんとかって国は? オレ腹減ったし、眠くなった……」
前を歩くアガレスが言った。
「お前、さっきから、文句ばっかり言ってるな」
「ほら、ほら! 大きい身体のライオンと、コワモテなおじさんが、そこでブツブツ言わない!」
後ろの方から、純白のフードを被ったマスティマが二人に言った。
「まったくだな。こんな山中をオジサン達とゴッドパレスまで旅してるのだからな」
赤き鎧を身にまとった、赤龍のモートが笑いながら言った。
「おじさんって……オレはまだ三十前だぞ!」
アガレスが呟いた。ニヤニヤしながら、それを見ているリーダのアーク。
アドホックモードの戦闘術を使い"剣聖"と呼ばれる大陸最強の剣士。
マスティマ女王の要請を受けて、ゴットパレスにいる、"神人"に会いに行く途中であった。
大陸を治めたマスティマだったが、既に平和は崩れそうだった。
マスティマ神人に力を示し、国を統治する力を得ようとしていた。
二百年ぶりに大陸を平定した、マスティマに同行しているのは英雄五人。
剣聖アーク。暗黒騎士アガレス。獣王アスタルト。真紅の竜モート。
共に大陸の平和の為に、命を掛けて戦った仲間であった。
そして最後の一人は、十二歳でエール騎士団に入隊して、いきなり隊長に抜擢されたアイネ・クラウンの姿が見えた。
「姫様は……お疲れでは、ないのですか?」
赤龍のモートが少しおどけながら、畏まった格好でアイネに聞いた。
「ええ。大丈夫ですよ……アスタルトの毛がもふもふして、とても気持ちいいです。フフフ」
「ん? オレの毛皮はヤム・ナハルで、一番上等だからな」
アガレスが真顔で言った。
「お前が寝てる時に、夜中に毛を刈ってやろう。アスタルト」
「……アガレス殺す!」
アガレスを追っかけ始める、アスタルトの肩に乗っているアイネは、速度に驚かず大喜び。
「アイネは物怖じしないな、大物なのかな」
剣聖アークが、はしゃぐ三人を見ながら言った。
「そうね。どう思う、モート?」
「フフフ、そうだな。十二歳で騎士団団長、将来の国家的リーダー候補だろうな。だから連れてきたんだろうマスティマ?」
しばらく続いたアスタルトとアガレスの追いかけっこ。
百キロくらいのスピードで駆け抜けて、戻って来たアスタルトにマスティマが聞いた。
「あれれ? アガレスはどうしたの……アスタルト?」
アスタルトが胸を張って答えた。
「ダークナイトみたいな、ノロマなジョブに追い着かれてたまるか!」
マスティマが驚いた。
「ええ! アガレスを置いてきちゃったの!?」
フッっと笑うアスタルト。その肩で、はしゃいでいるアイネ。
「しょうがないなあ、ちょっとオレ捜してくるよ」
モートがアガレスを探しに行ことになった。
「……丁度いい。少し休憩しよう」
アークがみんなに言った。
「ふん! まったくアガレスにも困ったものだ」
アスタルトが悪びれずに、威張っていた。
その肩で、同じ格好、エッヘンするツクヨミ。
なかなか帰ってこないアガレスとモート……眠そうなアイネを肩から降ろして、腕で抱きなおした、アスタルトがマスティマに声をかける、アイネが目覚めないように小さい声で。
「ところで神人ってどんな奴らなんだ?」
マスティマがまだ帰って来ない、アガレスを心配しながら答えた。
「私達が会おうとしている、神人は神になろうとしている種族ね……うーんアスタルトには、ちょっと難しいかもね……て……寝てる……!? オーイ、アスタルト聞いてる?」
ハッと起きたアスタルト。
「で、なんだっけ?。もっと簡単で面白くないと、間違いなくオレは寝る……」
額に手をあてて、ため息をつくマスティマ。
「あんたが、聞いたんでしょう! もう……それにしても人の子供は可愛いね」
マスティマがアスタルトの腕の中で、スヤスヤ寝息を立てている小さな妖精を指差した。
「まあな。人の子とはこんなに可愛いのか。オレも欲しいなあ。姫様」
顔をくっつけて、アイネに頬づりするアスタルト。
くすぐったいので、寝ぼけながら寝返るアイネ。
「それにしても、あなたたち……本当に仲がいいわねぇ」
頬ずえをついたマスティマが、二人を見て思わず微笑んだ時にアイネが口を開いた。
「むにゃむにゃ……。マスティマも、可愛い子をその手に抱くわ。……むにゃむにゃ」
「え!」
驚くマスティマを見て笑う、アスタルト。
「子供のただの寝言だよ……」