無礼講で酔っ払い
宴もたけなわ……酔っ払いが大量発生。
テーブルでは、バアルと獣王アスタルトが向い合って話している。
「バアル、もっと食わないと大きくならんぞ! ぷふぁぁ」
グラスは使わにず、樽ごとグビグビと酒を飲む獣王アスタルト。
「あのさ、アスタルト。何度も言ってるけど、そんなに大きくなるわけないだろう?」
まだ高校生のバアルは(現世では)絞りたての桜桃のジュースのグラスに口をつけた。
「うん、そうか? 女の子みたいな細い身体の勇者は格好悪いぞ! ほれ、これを見ろ」
酒の入った樽を自分の横に置いて、腕をまくり、その力こぶをバアルに見せつけるアスタルト。
「だからさ、軽く女の子の胴回りくらいある、そんな腕を見せられて、どうだって言われても、何とも出来ないよ」
二メートル五十センチを越える巨大なライオンに、自分の普通らしさを訴えるバアル。
「人間の高校生の男なんて、こんなもんだよ」
バアルの言葉に首を振る獣王。
「出来る! 牛乳を毎日、最低二リットルは飲め!」
脱力したバアルがため息をつく。
「何度も言っているけど腹壊すって……あれ? ところでグレンは?」
次の酒の樽の蓋を開けたアスタルトが目で、バアルに方向を示す。
「うん? あそこだ。床に延びてるのがグレンだな」
「ええ!? なんでグレンが倒れてるの?」
驚いたバアルが立ち上がり、床にのびているグレンへ向おうとした。
「少し飲ませすぎたかな? 酒をたったの一樽だけなんだがな」
バアルは振り向きながら持論+(プラス)を獣王に述べた。
「はあ? だから、人間に獣人のマネは出来ないって!」
獣王アスタルトは言に関せず特例を顎で示した。
「そうか? アーシラトは平気で飲んでいるぞ。既に三樽目だしな」
「すげーな姉……いや、さすがゴースの魔女。あの細い身体の何処に入っているのだろう?」
「うん? さてはバアル。おまえ、姉が恋しくなったか? 兄弟は仲良くした方がいいぞ」
「まったく、何を根拠に言ってるの! アスタルト?」
「そりゃ、野生の勘だろ?」
「はいはい、わかりました。まったく獣王には敵わないな……」
アイネ・クラウンはめちゃ酔っ払ったイルに絡まれていた。
「こら、アイネ飲め! わたしに酒をつげ!」
ケーキやドーナッツ、ワッフルなど、見かけは素朴だがとても美味しいデザートが並ぶテーブル。
「もーー、イル、酒癖が悪すぎるます。あ、だめです! アーシラトあんまり勧めないでください!」
イルのグラスに酒を注ぐのを、止めようとするアイネを、ジロリとアーシラトが睨んだ。
目が完全に据わっている。
三樽目を開けて、グラスに酒をくんだアーシラトをバアルが心配する。
「アーシラト、もう、それくらいにしておいたらどうだ?」
「なによバアル。あんたもわたしに意見するわけ? 弟のくせにちょっと生意気」
「ここで弟あつかい? いや、そーーじゃなくて。ちょっと心配しただけだ」
色々ともりあがっている席で、アナトは思い出した事があった。
「そうそう。あなたにも食べさせないとね……って言っても、宴会のご馳走はまだまだ無理かな……フフ」
アナトはダゴンの皿から次の獲物を奪うのを止め、自分の右側の椅子に置かれたゆりかごを覗き込む。
そこには無邪気な寝顔を見せる赤ん坊が居た。
「君はよく寝ているね……」
アナトの呟きに答える声が聞こえた。
「……眠っている子供って可愛い。無邪気で何の罪も持たないから」
アナトが振り返ると大魔王ツクヨミが、アナトと幼き闇の王ラシャプに微笑んでいた。




