大魔王
動く者がいなくなった部屋で一人憤る闇の王ラシャプ。
「大魔王ツクヨミだと!? 今の僕に逆らう者など許せない。神の僕にね」
ラシャプの乗る神の鎧は右手を天井に向けた。
「いいだろう、ここで決着をつけてやる。ラバーズ天井をビームで攻撃。地上に出る」
轟音をともなって、地下室の天井に大きな穴が開き、シャヘルの騎乗するブルーノヴァは大地へと立つ。
「ふぁあ~~。まちくたびれたわ」
欠伸をするレザーのボンテージで二つにセパレートされたブラトップとフレアミニスカート。
色はブラック。細くて雪のように真っ白な腕で一頭分の肉を持ち上げている。
両脚は血管が浮き出るような白く艶やかな素足に厚底のショートのヒールで、意外とムッチリ。
そこには真っ黒な羽根を抱く大魔王ツクヨミの姿。
「大魔王……それは申し訳ない。こちらにも順番があるのでね。まずはあなたの大事な者を倒し、そして母を消してきた」
欠伸をした時に口元にあった右手を下ろして、大魔王は神の鎧を見た。
「なんか良くわかんないけど」
大魔王はつまらなそうにしている。
「あんたってなんか、小物って感じ」
闇の王ラシャプが言った。
「小物だって? この世界の破壊者……闇の王が?」
「だって偉そうにしているけど、誰かとガチで殴りあった事あるの?」
シュシュと拳を振ってみせる大魔王。
「いつも影から策略ばっかりだと、カッコ悪いわよ」
ラシャプが苦笑いする。
「自分が叶わない者に、素手で向かっていくのは蛮勇だよ」
「あれ? そうかなあ」
大魔王ツクヨミは一人うなずいた。
「うーーん。でも、私は好きだな。男の子ならストレートが一番」
大魔王の言葉にラシャプが憤る。
「う、うるさい長い間、闇に落とされて、苦しんだ僕の気持なんか、おまえに解らない」
大魔王があっさり答えた。
「わかんないわ。でも、勝って当たり前の勝負なんて、つまんないでしょ?」
いちいち癇に障る大魔王の言葉に、ラシャプは戦闘を始めようとした。
「どうやら早くも、死にたいらいしいね」
「うんうん、情けない男の愚痴も聞きあきた」
冷静だったがついに切れるラシャプ。
「このやろぉお、しね!」
神の鎧ブルーノヴァが動き出した、巨大な拳を大魔王にぶつけた。
大魔王の周辺の大地が陥没する。
「しね・しね・し・ねええええ」
それでも力を緩めないラシャプ。
「ばかがぁ、おれをだれだっと思っているのだ。この世界の征服者だ。おまえなど細切れになれ」
巨大な力によって大地にヒビ割れがはしる。
「……餓鬼め」
大魔王の言葉が響く。
「……餓鬼はぶん殴る」
地の底まで押し込まれていた大魔王に、戦いのスイッチが入った。
ブルーノヴァが大地を破壊した拳の辺りから、膨大な魔力が溢れてきた。
ググ、ブルーノヴァの拳が押し返される。
「きさま……」
ラシャプが今度は、左の拳を振り上げた。
ブルーノヴァの右手を持ち上げ、姿を現した大魔王ツクヨミに再び拳が撃ちだされた。
「いいかげんにしなさいな」
神の鎧の打ち出した拳に合わせ、大魔王の右拳が放たれた。
ぶつかる巨大な金属と小さなか弱き拳。
……ビシ、神の鎧の拳が砕けた。
「なにぃぃぃ」
ラシャプが驚くと、大魔王が右手を延ばしてラシャプを誘う。
「さあ、そんなガラクタに乗ってないで、降りてらっしゃい……この餓鬼」