母との再会
「やめなさい!」
勝利を確信したラシャプの騎乗する、神の鎧ブルーノヴァと倒れている勇者たち、巨大な部屋に女の声が響いた。
「うん? この声は……マスティマ女王」
かつてのマスティマ女王の居城だった、グリモア城の地下室。
広大な空間に、マスティマの映像が映し出された。
天の神子の直系であるマスティマは、体を機械にされたが、すでに心をデジタル化して、ストレージに格納されていた。
「なるほど。天の神子の遺産を僕が起動したので、マスティマの心が起動されたわけだ。この世界の覇者である僕を止める為に」
ラシャプの言葉にマスティマの心が語りかける。
「そうです。あなたの力はこの世界にあってはならない。やめなさいラシャプ」
今、つぶそうとしたアナトの頭から足をどけたラシャプ。
三十年前に大陸を平定して、神人の命令によって機械された、ラシャプの母の言葉でブルーノヴァがピタリと止まった。
「おやおや……」
ラシャプが落胆の表情を見せる。
「母さん……いやマスティマ。邪魔はしないでおくれ。僕はこの世界で一番の者になったんだよ。大陸を破壊した後は神人の国ゴッドパレスへ乗り込んで、奴らを皆殺しにするんだ……そうなれば僕がこの世界の神となる。それはあなたを玩具にされた事への報いでもある」
ラシャプの目の前に倒れた勇者たちを、守るように立ったマスティマの幻の声は悲しげだった。
「そんな事をすればラシャプ……あなたはまた一人になってしまう」
クク、アハハ、最初は静かに途中から大きく笑い声をあげた闇の王。
「独りぼっちだった……神人の命令とはいえ、そして世界の平和……そんな理由で僕は地下に封印された。僕は数十年の孤独の中で思ったよ。自然や太陽、いきいきと暮らす人々。そしてあなた……母親を、この世界の全てを愛おしく想った。でもいつからかそれは、激しい衝動に駆られるようになった……すべてが妬ましい……すべてを消し去りたいとね」
寂しそうに首を振ったマスティマ。
「すべては私が招いた事。天の神子の血の力を使い大陸を平定した。同じく戦ってくれた暗黒騎士と恋に落ち、あなたを産んでしまった……」
マスティマの言葉を聞いても、ラシャプの冷徹な表情は変わらない。
「今さらだね。あなたは失敗だと言うんだね。大陸に平和をもたらした事も、恋に落ちて僕が産まれた事も」
「それは違う」否定するマスティマ。
「私は後悔などしていない。でも、天の神子の子孫が、その力を行使する事は間違いだった。でも、あなたを産んだ事に、私とアガレスは大きな幸福感を得た」
マスティマの言葉に初めて反応したラシャプ。
「……そうか僕は愛されていたんだね……まるで犬猫のように。必要がなくなれば簡単に捨てる事が出来るほどにね」
ラシャプはOSラバーズへ命令を下す。
「あなたを女王マスティマの……天の神子は思考とエネルギーだけ、つまり肉体を捨て去った者。消えてもらうには神の武器が必要だね。それであなたの想いは消えてくれるかな? 攻撃命令。マスティマのエナジィを消滅させろ!」
ラシャプはマスティマの本体、エナジィの消滅をラバーズに命令した。
「了解。武器を変更します」
ラバーズの復唱を聞いてラシャプはため息をつく。
「勝手に産んで封印して……肉体を無くしてもこの世界に勝手に干渉して、僕の崇高な行為を邪魔をするなんてね。許せないな。天の神マスティマよ消えてくれ。永遠に。エナジィブレイク発動!」
ブルーノヴァの右肩のウェポンが開き、真っ黒な数十もの筋が打ち込まれた。
闇に貫かれたマスティマの身体は、蒸気のように消えていく。
「これで僕には、恐れるものが無くなった」
両手を空に向かって伸ばしたラシャプに、マスティマの最後の言葉。
「……世界最強は他にいる……来る……その名は大魔王ツクヨミ」