秘密の部屋
ダゴンはいつになく、緊張の顔を見せるアナトに近づき、その銀色の髪に触れ耳元で囁く。
「どうした召喚勇者? 立派に成長したアナトは誇り高き勇者だ。必ず勝って戻ってこい。そして一緒に旨い飯を食おうぜ」
長い間一緒に旅した、赤髪のダゴンを見上げたアナトが頷いた。
「うん! サラマンダのもも肉がいいな」
食べ物をオーダーするアナトに、胸を叩いて了承するダゴン。
「よし分かった腹いっぱい食わせてやる。恐れるな。食欲があってこそアナトだ」
巨大なライオン、獣王アスタルトがバアルの肩を叩く。
「まだ細い体だが、バアルは転生勇者として、十分力をつけた、六龍王させた押した。召喚勇者アナトと力を合わせろ、もちろん、グレン、アイネ、イルともな。五人の力を合わせて、世界の英雄として堂々と戦ってこい」
頷くバアルを見て安心した獣王は、ダゴンに向かった。
「もう、いくぞダゴン」
「ああ、分かった獣王。じゃあ、アイネ子供の引率は任せたぜ! みんな頑張れよ!」
アスタルトとダゴンが走り出す、白銀軍を率いての戦いが始まる。
十万の再編された、魔王ラシャプ闇の軍団と二千の白銀軍。
アイネ達が戻るまで、苦しい持久戦になる。
「ダゴン、アスタルト、ここはお二人にお任せします。ご武運を」
アイネが二人の後ろ姿を、見送りながら呟くと、手を挙げてアイネに答えたダゴンとアスタルト。
アイネは振り返った。
「さあ、いくわよ! 若き勇者達!」
五人は廃墟と化したグリモア城へ走りだす。
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グリモア城の深淵に隠された巨大な部屋。
かうてマスティマ女王、天の神子の子孫が収めていた、グリモア城の最奥にあるホールは高さが百メートル、奥行きは一キロメートルを越える巨大さだった。
神話の時代、ここでは魔道兵器の研究と、実験が行われたと語られていた。
その場所で、闇の王シャヘルがラバーズシステムを呼び出した。
「システム起動……セキュリティを解除せよ」
少女の姿をした制御OSラバーズが、コンソールに立体ビジョンで現れた。
「遺伝子確認中……クリア。月の神子の意思を確認。ロックを解除しました。実行の為には更にセキュリティの解除が必要です。キーコードをお願いします」
「チッ、二重のロックシステムか。僕の月の神子の意思だけでは、こいつは動かないのか」
ラシャプが不満そうに呟く。
「最終セキュリティ解除コードの入力をお願いします」
ラバーズから再び、コードの問い合わせがきた。
「解除コードか……」
考え込むラシャプがハッと気が付く。
「そうか、もしかして!?」
解除コードを音声で入力した。
「μοιρα」
その言葉はエールの正門を開けた、アイネの呪文と同じ言葉だった。