待っていた強者
かつて赤龍王に攻められて、廃墟になったグリモア城の近く、城を見上げる草原。
赤龍王の軍が攻め上り、反乱軍とアガレスが相対した草原に、突如、力の循環を表す魔法陣が現れた。
蒼い光の輝きがフッと瞬、一瞬で消えた。
「来たか。待っていたぞ」
そこにはライオンの姿の巨大な獣人、獣王アスタルトが待っていた。
「まったく、人使いが荒いぜ、アイネは!」
ダゴンがニヤリとしながら不平を漏らす。
二人の周りには白銀軍団が集まっていたが、その数は二千程であり、赤龍王と闇の王の連合軍団との戦いで大幅に戦力を失っていた。
軍団の兵士の大幅な減少には、もう一つ大きな理由があった。
「だいたいさ、今回の戦闘は兵士は自由でいいとか。アイネは甘すぎるぞ!」
ダゴンの言う通り、今回の戦いラグナロクへの参戦は、兵士達それぞれに自分の意思で決めさせる。そうアイネは宣言したのだ。
「ダゴン、前回の戦いは国々の存亡をかけてのものだった。だから自国の権利を守る為に、神人以外の全ての人々が戦ったもです。でも今回は違います。ラグナロクはこの世界の終焉を賭けた戦い。相手の事も全く情報はない。ただ絶望的な力を持っているのは確かで……勝つ自信はわたしにも持てません。世界が終わる日に家族と一緒に居たいと願っても、おかしくはないでしょう?」
「まあな」
ダゴンがアイネには敵わないと白旗を揚げた。
いつものやり取りに獣王アスタルトが鼻で笑う。
「ふん、世界の終焉という言葉を聞いても、ダゴンとアイネを見ていると心配したくなくなるな。とこでフッラはどうした? いつもアイネの側に居るのに」
アスタルトがアイネ聞いた。
「戻りました。自分の世界に」
アイネが空を見上げて答えた。
「そうか……少し寂しいな」
アスタルトは、それ以上聞かなかった。
遠くで戦いの音が聞こえる、ダゴンがハッパをパーティに贈った。
「始まったみたいだな。外は獣王と俺が二人で何とかするから、信じてるぜ。新しい力を……特に二人の勇者に。絶対勝って戻ってこい」