フッラの覚悟
かつての神、天の神子の遺産である、鉄の戦船の超破壊力。
目の前で行われた圧倒的な破壊に、バアルもアナト達五人も言葉がない。
「ねえ、わたし達はこの世界の勇者……無敵な筈じゃなかったっけ? 違った?」
アナトが自虐的に言った。
「笑っちゃうね……無力過ぎるよ、わたし」
「おまえだけじゃないよ。空を飛ぶ光の神の戦船……どうしろっていうんだよ」
バアルがアナトに力なく返したのを聞いて、フッラが口を開いた
「一つだけ方法があります」
しばらくフッラを見つめるアイネ。
「夢で見た……あの方法? しかしあれはノーチラスがあったから出来たのでしょう?」
「はい。そうです。六頭竜に効率よくダメージを与える為に、わたしの乗船するノーチラスにマスティマの主砲で狙わせた。あの時は力を最低限で一点に集中させ、破壊を六龍頭の神の旗艦に限定して、この世界の破滅を防ぎました」
フッラの言葉に、今回の作戦を理解したアイネが頷く。
「今回は逆に力を一点に集中させ、ノーチラスのシールドを破るのですね。フッラ……ごめんなさい」
アイネの言葉が重かった。
「大丈夫です。アイネ」
フッラはいつものように感情を出さずに平然と歩き出した。
「何を頼んだの? どうしてフッラに謝ったのアイネ」
バアルがアイネに聞いた。
「ノーチラスの撃墜を頼みました」
「ええ? そんな事ができるのか」
「フッラなら……たぶん、あの時と原理は一緒。夢でノーチラスを操艦していたのはフッラだったから、既にこの方法は経験済みです……古代の戦いで。でもフッラは無事ではいられません」
アイネの言葉が弱く、けれども重く周りに響いた。
振り返らずに立ち止ったフッラが言った。
「アイネ、楽しかったです。一緒に戦えて。先に行きますね」
フッラは数歩進むと飛び上がった。そのまま勢いをつけて高く上昇をはじめる。
「フッラ……」
アイネが名を呼ぶが、フッラはもう答えなかった。
空中でフッラは中央制御システムを呼び出す。
システムは城の地下深くに厳重に守られている。
「フッラよりセントラムへ。タイタンの攻撃を要請する」
「セントラムヨリフッラヘ。攻撃目標ヲ指示セヨ」
「了解。攻撃目標は……」
上昇を続けるフッラを見上げるアイネが、これから起こる事を口にした。
「ノーチラスは起動されたばかりで全機能は回復していない。それに古代の戦いのさいに、作戦で天の神の巨大なレーザー兵器を、身に受けているために、シールドにも穴がある」
イルがアイネの言葉に喜びを見せる。
「その穴をタイタンで攻撃すれば、あの巨大な船を堕とせるのですね?」
アイネは夢を思い出すように、ゆっくりと話し始めた。
「六頭竜の手強さに、光の神子の軍は旗艦グリモアの主砲を使う事になった。しかし、六頭竜の闇のシールドを破壊するには、この星を焼き焦がすまでパワーを上げる必要があった。フッラはこの星を消さない為にノーチラスを先行させ、グリモアの絞った最低限のパワーの主砲を受けた。それをノーチラスのシールドを調整して反射させ、六頭竜の旗艦に直接当てた。その時の衝撃であの船のシールドには穴が出来た」
アイネがノーチラスを指差す。
「あそこだ。感じるか?」
イルが瞳を閉じて、超感覚ナチュラルを使用して答えた。
「うん。船底部分に黒い穴が空いている。でも、あそこは上空から攻撃するタイタンでは直接狙えないわ……あ!」
「イル、どうした?」
ラシャプがイルの声に驚いて聞いた。
「あそこ!」
イルが指を差すのはノーチラスの左舷の後方。
「あそこにフッラがいる!」
空中を飛び続け、後方からノーチラスへ近づくフッラ。
「フッラよりセントラムへ。攻撃目標を設定。攻撃目標をフッラにセットせよ」
「セントラム了解。フッラニ目標ヲセット」
遥か空の上、人工衛星タイタンの攻撃システムが動作を開始した。
「全員対衝撃、対閃光防御ニハイレ。攻撃マデカウントダウン……5・4・3・2・1」
キュィィィン、遥か空の上、タイタンの主砲光子砲が瞬いた。
ダダダン、空気を振動させ光の粒子が打ち込まれた。
その先にはフッラの姿があった。
フッラは全パワーを自分のシールドへ送り込み、タイタンの攻撃を反射して斜向させた。フッラにより方向を曲げられた、光の束がノーチラスの船底を撃った。
もの凄い音をあげ、光が弾けてノーチラスが炎上する。
推進力を失い、地上に墜ちていくノーチラス。
そして蒸気のように、衛星の光の熱で蒸発を始めるフッラ。
消え去るフッラが最後の言葉を口にした。
「楽しかったです、アイネ……そしてマスティマ。これから帰りますね」
分解する光の中でエンジェルナイトのフッラは、初めて微笑みを見せた。
アークランドの空に巨大な火の塊と、一筋の小さな流星が流れた。
ノーチラスはフッラの攻撃により、火を噴き出しながら地上に墜ちていく。
アイネは途中で消えた流星……フッラの姿を追った。
古代戦争で、竜の一族との戦い、ノーチラスのパイロットだったフッラは数万年前、この星にマスティマと一緒に墜ち共に戦い続けた。そして最後にアイネの願いを叶えマスティマもとへと旅立った。
アイネが涙をこらえ後ろを振り向いた。
「みんな。これからは私たちが戦う時です、飛びますグリモア城へ」
意識を集中するアイネ。握った胸のペンダントから光が溢れると、五つの角を持つ魔法陣が胸に宿る。立体的に表示された魔法陣は、青く縁取られ滲むように光を強めた。
神殿の回路を使わずに、膨大な力を引き出す事が出来るアイネは、このゴースで唯一ジャンプの魔法を単独で行うことが出来た、しかしそれには自身のエナジィと体力を著しく消耗する。
「私が出来るのは、みんなを送り届ける事が最後になりそうです――後は頼みます勇者」
頷くバアルとアナト。安心した顔をしたアイネ、その場にいる全員が光り始め、そしてスッと足下から消えた。