レベリオンの終結
力を失い続ける六龍王に戦いの終演を感じて、思わず全身の力を抜いたバアルに、インフェルノソードをつかんて叫ぶ、姉のアーシラトの声が届いた。
『聖なる六竜が放て ヘキサグラムフォース』
六つの光の筋がバアルとアナトへと飛んだ。
「ちぃい!」
短く叫んで、ダゴンとアスタルトが、バアルとアナトの元へ飛ぶ。
だが間に合わない。無防備な二人に向かう六頭の光の筋。
アイネが前に手を広げて立ち、右足と胸を貫かれた。
「アイネ大丈夫か! 姉さんもう終わったんだ……やめろアーシラト!」
二人を庇って倒れるアイネの身体を、バアルが受け止める。
「バアルとアナト。二人の勇者め! おまらだけは許さない! ここで死ね!」
巨大なインフェルノソードを両手で抱えて、二発目を打ち出す構えに入るアーシラトの魔力は六龍王さえ超えていた。
その時アーシラトの後ろから声が聞こえた。
「もういい。アーシラト……もういいのだ」
六龍王の声だった。その声を聞い、崩れ落ちるアーシラト。
「よくない! あなたを倒した者なのよ!? わたしは、この世界で一人ぼっちになるの……そんなの許せるはずなんかない。だってわたしは、あなたの事が……忘れられない」
消滅の剣により再生出来ない傷を受け、姿が消えつつある六龍王は、泣き続けるアーシラトを自分の胸に抱き寄せた。
「俺はこの世界に反乱を起こして、新しい秩序を造り出す事を考えた。それが自分の本心と思いたかった。でも俺はそんなに強い者では無かったようだ……な」
六龍王にしがみつくアーシラトの髪を撫でる、大きな傷ついた手。
「アーシラト……俺のせいで世界はお前を魔女だと言うだろう。だが今度会う時は幸せにするから……許してくれよな。短い間だったが、おまえと居られて……楽しかったぞ」
髪を撫でる六龍王に、震えながらうなずいたアーシラト。
「アイネよ。アーシラトの事……頼んでもいいか?」
黙ってうなずくアイネに、安心した六龍王。
「それと……バアルとアナト。強くなったな。転生と召喚、どちらも見事な勇者だ」
さらさらとさらさらと……六龍王の巨躯が風に流れる。
「イヤ、イヤよ、モート! わたしを置いていくの? お願い一人にしないで!」
アーシラトの叫び声が風に流れる。
「アーシラト……そういじめるな……また必ず逢える。おまえが嫌でも俺は会いに行く……。二人の勇者よラグナロクを勝てよ……アーシラトをよろしく……たの……む」
六龍王は大きな拳にして宙へ捧げ、これから起こる戦いの勝利を祈った。
次に吹いた強い風で、六龍王はその姿を散らした。
「モート? モート!?」
六龍王を目の前で再び失ったアーシラトは、その場で意識を失ったその時、アーシラトの身体は輝き、真っ黒な闇がアーシラトから離れた。
「やっと死んでくれたか。じゃあ、君たちが僕の遊び相手になるわけだね。まだ時間があるから、レベルあげ頑張ってくれよ。瞬殺じゃつまらないからな」
ラシャプの影は戦い意思を残して消えた。
「逝ったか……モート」
アガレスが風の流れに戦いの終わりを感じた時、こちらに向ってくる者の姿を見つけた。アイネから呼ばれたグレンだった。
「ふっ、さすがアイネだな。俺の心などお見通しと見えるな」
「父さん大丈夫か?」
グレンが父親のアガレスの身を心配し、懸命に駈けてくる。
「大丈夫だ。少し疲れただけ。それより手を貸せ」
息子グレンに支えられながら、アガレスは身体を起こした。
それを見たアスタルトが静かにアガレスの元に近づき、グレンの肩に大きく重い手を置いて話し始めた。
「アガレスの息子グレンよ。その剣と強きエナジィを授かれ。そして今からはおまえがダークナイトとなるのだ」
アガレスは安堵して旧友に語りかけた。
「俺はここでリタイアだ……獣王よ。楽しかったな」
「ああ、そうだな」
アスタルトがそっけなく答えた。長い間戦い続けた。
ある時は仲間として、またある時は敵として。
そんな二人には簡単な挨拶で十分だった。
日が落ち始め、夕日に照らされた赤い草原に風が吹く。
「本当に楽しかった……」
夕暮れに照らされながら、アガレスは草原の風に吹かれ、笑顔を浮かべて目を閉じた。
ここに『赤きレベリオン』は終結した。