消滅の剣
「オレとアスタルトがチャンスをつくる。他のことには気を取られるな！ いくぞバアルとアナト」
ダゴン言葉に「了解」同時に答えた勇者二人。
アスタルトは縮地を使い、六龍王の元へ飛び必殺の声が響く。
『跳舞阿修羅拳』
獣王最強の一撃が六龍王を捉え、その威力にグラつく六龍王。
同じく縮地で一気に、六龍王の胸元に飛ぶバアル。
「待っていたぞ、バアル！」
バアルの行動を予測していた六龍王が、インフェルノソードを振り落とすが、剣が当たる瞬間、バアルは縮地で後ろに飛んだ。
「待っていたのはオレだ！」
アスタルトの怪力を借りて地上から飛んだ、鉄壁のシルバーナイトが、盾で六龍王の攻撃を止めると同時に叫ぶ。
『シールドバッシュ』
強烈な盾スキルに、空中で体勢を崩す六龍王。
「さあ行け！ バアル！」
地上に落下しながらダゴンが叫ぶ。うなずいて縮地で一気に距離を縮めるバアル。
「うぉおお！ 猛り狂えソウルイータ！」
バアルの全身全霊、全エナジィを込めた魔法剣が六龍王の胸を捉えた。
ウォオオオオオオオン。ソウルイータが激しく震えながら、恐ろしい声をあげた。
バアルの持つ漆黒の剣が鮮烈に一瞬輝きを放ち、六龍王を一気に貫いた。
しかし空中で両手を広げて六龍王は自分の力を誇った。
「これがどうかしたか？ 一つのエナジィを貫いても、オレは倒せない！」
バアルに貫かれた傷はもう再生を始めていた。
「まだよ、まだいける！」
アナトが縮地を使い一気に飛び込んでいく、六龍王は余裕を見せて無防備で勇者の大剣スバルを受けた。
「残念だが……闇の王を倒した暗黒の龍の力は通じないぞ。俺は龍の王だからな……なに！？」
アナトのエナジィは真っ白な無垢な力を発動させていた、それは、かつて勇者の修行中にイルからもらった巫女の色。
そしてバアルの持つ暗黒の剣ソウルイーターは、バアルのエンチャントみより無のエナジィを発生させていた。
バアルとアナトが同時に叫ぶ。
『消滅の剣』
二人の剣が六龍王の肩口から斜めから切り裂いた。
しかし、無駄だと笑いだす六龍王。
「クク、まだ解らないか？ 無駄な事だと……」
だがすぐに、その顔から笑いが消えた。
斬られた傷口の再生が始まらない。それどころか、傷口はシュウシュウと音を立てて広がり始めた。
「ばかな。これはなんだ？ 再生出来ない！？」
地上に降りたバアルが静かに言った。
「おまえを力で倒すのは難しい。だからこの世から消す。前にアイネが使った消滅の魔法。おまえが恐れる魔法を剣技で再現した……これで終わりだ、六龍王！」
澄みきった青空を見上げるアナト。
「お父さんには剣技そして命をもらった……ありがとう」
パックリと開いた傷口は六龍王の胸を、横断してなお広がり続ける。
「小僧……いや、バアル。そして剣聖アークの娘アナトよ。見事だ……」
その場に膝をついた六龍王はインフェルノソードを落とした。
主のエナジィを失い、六頭竜の剣は炎を吹き上げるのを止め、地面を転がった。
バアルは構えていたソウルイータの切っ先を下げた。
「ふぅう、終わったよ、母さん……姉さん」
決着をみた場所に大魔王とアイネが近づく。
倒れた六龍王に大魔王が寂しそうな顔をした。
「……本来の力を得ていれば、この子達など簡単に蹴散らしただろう」
大魔王の言葉に苦笑いをした王が答える。
「感じるか？ やはりおまえは特別な一人だな大魔王。確かに今の俺は古代の戦いの時とは、比較にならないほどに弱い」
「！」アーシラトが驚き、六龍王と大魔王を見比べた。
「どうゆことなの……母さん」
アーシラトの呼び方に、遥か過去の事のように思い出す大魔王。
「母さんか……久しぶりに聞いたね。アーシラト。おまえは小さなミスをおかしたの」
大魔王の言葉に首を振り両手を握りしめて、抗議するアーシラトに弟のバアルは驚きを隠せない。
それほどに普段は冷徹とも呼べる姉アーシラトの興奮した姿。
「母さんはなにもわかってない。いつもそう。私の意見はワガママで、あなたの意見はいつも正しい。でもね、私はこの世界で見つけたの大事な人を」
叫びながら六龍王の側によるアーシラトに、大魔王は自分の娘に哀れんだ表情を見せた。
「ほら！ それよ……何か正解なんて私にはわからない、大人になれないの！ でもね、好きな人にはつくしたいの命がけなの。愛した人の想いが世界の破滅ならそれでいい。つきそうの」
ふぅ、ため息をついた大魔王は静かに話し始めた。
「落ち着けアーシラトよ。おまえは優秀で子供のころからなんでも出来た。ただし、恋に落ちると隙だらけだ……変わっていない。いいかよく聞けそして見るんだ」
大魔王は戦場を走る光のラインを指さす、それは六龍王の復活の為に、死んだ兵士のエナジィを集めるアーシラトが書いた魔法陣。
「なによ母さん！？ 私の魔法陣が不完全だとでもいうの？」
感情を露わにしたままで、大魔王に不満をぶつけるアーシラト。
母である大魔王ツクヨミは話の続きをする。
「完全だよこの魔法陣は。だが、一本の邪なラインがおまえには見えないようだね。気持ちを落ち着けてよく見てみなさい。あなたたちなら見えるはず」
アーシラトとバアルの兄弟は焼け焦げた戦場に、魔法陣の痕跡たどる。
「あ！」二人の顔色が変わった。
二人が見たものはアーシラトの魔法陣の影に隠された、別の魔法陣。そしてその魔法力には身に覚えがあった。
「これって……わたしより先に書かれた魔法陣！？ しかもこの魔力は闇の王の者」
アーシラトの言葉にバアルも頷く。
「そう、これは闇の国で感じた闇の王……魔王ラシャプの魔力」
ラシャプの影に気が付いた二人を見た、大魔王が空を見上げて話した。
「アーシラトが書いた魔法陣で一万人のエナジィを集めて、六龍王に送るはずだったんでしょ？ でも、先に仕掛けた魔王ラシャプは、その力を別に振り分けた」
アーシラトは事実に愕然としながら地面に膝をつく。
「だって……ラシャプは六龍王の復活の手助けをしてくれた……ここまできたのに……全て計りごとだったの？」
静まり返った皆を見ながら、大魔王の母は笑顔を浮かべた。
「何を笑っているんだよ母さん。この状況の何がおかしいの？」
バアルの問いに答える大魔王ツクヨミ。
「確かに、ラシャプの落書きは困ったもの。裏ボスを造ちゃった感じだけどね。でもね、実は私も落書きしておいたの」
顔を上げたバアルにウィンクしたサキュバスの姿。
「蒼い瞳の勇者のエナジィを引き込む魔法陣をね！」
