絶対的な大魔王
大魔王が放った、たった三発の魔法で、数万人が直接的な被害を受け、白銀騎士団と闇龍騎士団の戦いはストップしていた。
特に最後の一発を直接食らった勇者バアルは、完全に焼き焦げていた。
大魔王の側にいて、奇跡的に助かった兵士は、命令でバアルを懸命に引っ張っていた。
「はぁはぁ、大魔王様。ご命令通りに勇者バアルの、焼き鳥をお持ちしました、どうぞお召し上がりください」
恐れを抱く兵士がおずおずと、大魔王へ申し上げる。
「いやねーー。食べたりしなわよ。あんたは大魔王の事を勘違いしていない?」
大災害レベル惨状を見渡した兵士は、大魔王の言葉を信じられなかった。
「いえ、滅相もありません、勘違いなどしておりません。世界を自由に災害レベルの破壊をもたらす……そして人間を頭から、むしゃむしゃ食べる……それが大魔王様」
背中の小悪魔のかわいい羽をパタパタさせて、キュートな笑顔。
だが可愛い姿の奥に潜む、巨大な魔力にますます怯える兵士。
「大魔王様。どうか命だけはお助けください。私には家族がいます。帰りを待っています」
それまでにこやかだった大魔王が表情厳しくする。
「命を助けろ? おまえは戦に来ているのだろう? 遠足とは違う、家族が恋しければ戦場には出ないことだ」
兵士はその場に正座して答える。
「はい。もう家に帰ります。戦争など無意味だと、あなたを、絶対的な力を見てわかりました」
大魔王は兵士の言葉を聞いて、戦場全体に届くテレパシーを兵士全員送った。
「我は大魔王。絶対的な者である。この戦いは預かる撤退を開始せよ……戦いを続けるなら、まずは我を倒すがいい」
大魔王が右手を上げると雲がどんどん湧き出て、一メートルもある巨大な氷の塊が降り始めた。
兵士たちは空から降る、大魔王の力を見せられ、戦うことを諦め戦場からの避難を開始した。戦いは自分が死ぬ覚悟だけでは行えない、
自軍の、自分の勝利を想っているからできるもので、災害レベルの絶対的な力の前には、戦う意志さえ飛んでしまう。
静かになった戦場の真ん中に、白銀騎士団の団長アイネが歩いてくる。
右腕を損傷する大けがで、六龍王との戦いでは、サポート役をしていたが、巨大な魔力とテレパーシーを受け、大魔王の側に近づいていた。
「すさまじいですね。大魔王の力は分かっていましたが……」
アイネの言葉に答える大魔王。
「どうしたの? まだ戦いは続いているのでしょう?」
アイネは大魔王の前に立ち願い事を話した。
「お願いがあります。勇者アナトを回復させて頂きたいのです。このままでは六龍王を倒す事は難しいと思います」
大魔王はアイネの頼みに考え事を始めた。
アイネは右腕の再生の痛みに耐えながら、白銀軍団の通信を管理するフッラを呼び出した。
「フッラ、戦争は終わった。撤退命令を出してください」
「了解しました、アイネ」
アイネの言葉がエンジェルナイトの技術、ブロードバンドで全軍に伝えられた。
「白銀軍団の全員へ。戦闘終了。繰り返す戦いは終わった。撤退を開始せよ」
絶対的な力である大魔王の出現により軍勢同士の戦いは終わりを迎えた。
長く戦い続けるよりは、遥かに被害は抑えられた。
全軍への戦争終結を伝えたアイネに大魔王が口を開いた。
「さて、アイネの願いだけど……私の力でも失ったアナトの魂を呼び戻すのは無理ね」
肩を落とすアイネに、ウィンクするサキュバスの悪戯っぽい表情。
「でもね戦争が起こる前に私が落書きしておいたの。蒼い瞳の勇者のエナジィを引き込む魔法陣をね!」
アイネの表情が明るくなったのを見て、大魔王が黒焦げの焼き鳥に言った、
「まったくボスキャラの六龍王と戦わず、モブキャラと戦っているとかないわ……バアル。起きないと……メテオだから」
大魔王のいつもの脅し文句言った瞬間、反射的に起き上がった転生勇者。
「はい! 只今起きました! あのな大魔王、おまえが初級だと言い張っている魔法はカタルシス。世界崩壊の魔法だから止めてくれ……それと、おまえの言うことも一理ある、俺は六龍王の所へ行くから」
起き上がり、空中へ飛びあがったバアルに、さりげなく回復魔法をかけた大魔王。
「アイネ。よく頑張ったわね。体を休めなさいい。残りは頼りないと思うけど、男どもに任せましょう」
大魔王は再生の魔法をアイネにかけてウィンクした。
右肩の傷口が再生の魔法で輝き始めた中、アイネが礼をした。
「ありがとうございます大魔王。そうですね「俺が一番強い」は女には興味がないものです。男たちに戦ってもらいましょう」