速く強く早く
六龍王が立つドライグの平原で、アガレスが再び戦いの表情を見せる。
「ダゴン。少しの間休んでいてくれ」
アガレスが近づいてきた。
ダゴンは六龍王と既に一時間以上互角に戦い、エナジィをかなり消耗していた。
「ふぅう、何しに来たアガレス。俺はまだ戦えるぜ?」
「それは分かっているさ。だが、おまえにはやってもらいたい事が残ってる。三人でな」
「三人? アガレス、おまえはその数に入ってないみたいだな。勇者がくるのか?」
「ああ。だからここは俺に任せて少し休め」
アガレスの言葉に、ダゴンは槍を下ろして戦闘態勢を解いた。
「分かったぜアガレス。少しだけ休憩させてもらう。ただ、やり過ぎて俺たちの出番を無くさないでくれよ」
「ハハ、それは保証出来ないな。早くアイネの所へ行ってやれ、ダゴン」
ダゴンは後ろを向き、アイネの方へと歩き出す。
「期待してるぜ、アガレス……死ぬなよ」
自分の背後を離れていくダゴンに、軽く右手を挙げて答えるアガレス。
「ふん。今度はアガレスか。おまえ如きが何度やっても無駄だがな」
六龍王の言葉にアガレスが笑った。
「衰えた俺にはダゴンのような戦いは出来ないと思っていた。だが、それは自分への甘えだったのかもしれん。息子のグレンの為に生きながらえる、そんなダークナイトとしては有り得ない心構え……。六龍王がいくら強大でも、勝負は最後までわからない」
剣を構えるアガレス。その身体から漆黒のエナジィが溢れる。
「なるほど。全てを捨てて、俺を倒すという事か。フフ。では見せてもらおうか、かつてゴースで恐れられた、冷酷無比な剣士の真の力をな!」
「ああ、いいだろう。いくぞ!」
両手で構えたソウルイータ人の魂を喰らう大剣を、六龍王へ打ち込むアガレス。
「ふん、こんな打ち込み軽すぎる」
アガレスの斬撃を簡単にかわした六龍王がニヤリと笑う。
「その程度か、アガレス。昔のおまえは、もっと強く、もっと冷酷だったぞ」
左手のとてつもない重い拳を、アガレスに打ち出す六龍王。
大剣を素早く切り返し、六龍王の拳を弾くアガレス。
(もっとだ)
今度は横から真一文字に六龍王を斬る。
剣を後ろに飛んでかわす六龍王。そこへ飛び込んで、のど元への突きを入れるアガレス。
(もっとだ。もっと)
剣を引き、数歩踏み込み、六龍王との距離を縮めて真上から剣を振り下ろす。
アガレスが呟く。
(もっと、もっと、もっとだ。速く、そして強く、早く)
一段、二段、三段と、速度と力を上げていくアガレス。
ついにかわし切れなくなり、頭上で十字に組んだ両手でアガレスの剣を受け止める六龍王。
「どうやら気合が入ってきたようだな、アガレス!」
剣を右肩に乗せたアガレスが、間をおかず六龍王へ漆黒のエナジィ纏って身体ごとぶつかる。その強烈な一撃で、ついに六龍王を捉えた。
「く、やるな、だがアガレス、これでしまいだ!」
六龍王の手刀が、密着したアガレスの首を打った。手刀をまともに受けたアガレスの首から血が滴る。ニヤリと笑った六龍王は、右の拳に力を込めてアガレスの額に打ち込み、アガレスの兜が砕けた。輝くような長い金髪が風になびく。
「少しはやるようだが、今のおまえは昔のアガレスには及ばないな。さあ死ね!……なんだ!?」
それは六龍王に冷気を感じさせるほど、尋常ではない、黒いエナジィだった。
(まさか!?)
異変を感じたアーシラトが走り、六龍王へ近づく。
「王、このエナジィは、アナトが闇の王を倒した、狂気のエナジィです」
「狂気? まさか漆黒のエナジィか!?」
チラっとアーシラトを見て、六龍王がアガレスに向った。
「なるほど、本当に俺を倒す事に命を賭けるか、アガレス? 漆黒のエナジィ、カオスドラゴンの力が自らを破滅に向わせるとしても!」
フッと笑ったアガレス。
「おまえを倒し仲間を守れるなら、それでいいさ」
アガレスの身体から湧き立つ漆黒のエナジィ。大剣ソウルイータを構えなおすアガレス。
「クク、おまえも新たな力を求めるのか、アガレス」
強まっていくアガレスのエナジィに、思わず六龍王が呟く。
「クク、おまえも新たな力を求めるのか、アガレス」