戦力差
闇龍の迫る大軍の先で先兵を迎え撃つのはたった三人。
アイネ。アスタルト。アガレス。
アイネは瞳を閉じて、エナジィを高め始めた。
アスタルトとアガレスは何かを言い合っている。
「え? 聞こえない。こんなにうるさいと……で、何か用か……アスタルト」
「何? 声が聞こえない、アガレス。もっとでかい声で言え!」
まるで滝のように高く頭上から崩れるように、真っ黒な大軍が降りて来る。
「思ったより数が多いな。それに声が聞こえない。これじゃ、作戦どおりに戦闘など出来ないな」
両手をちょっと上げて、お手上げのポーズ取った二人の目前に、闇龍軍団の先陣が迫った。
その時、白銀軍団全員の頭の中に、エンジェルナイトのフッラの声が、頭の中に直接に響いた。
「通信ポート開放完了。これよりブロードバンド通信を開始します」
周りの騒音から解放されたアガレスとアスタルト。
「おお、よく聞こえるぞ。アガレス、お前の声も!」
「うむ、アスタルト。これがエンジェルナイトの技術なのか?」
「アガレス、アスタルト……暴れてくれ」
普段より良く聞こえる、アイネの声に振り向く二人。
ガハハと戦場で豪快に笑う二人。
「しょうがないな!」
アスタルトがその場から消えた、縮地だ。
一瞬でアスタルトはアイネの前に出ると、斬り掛かった兵士を二、三名、まとめてぶん殴る。拳の速度はどんどん上がっていく。あとから押し寄せる闇龍軍団にカウンタを駆使し、無意識の反応で敵を弾き飛ばしているアスタルトが、突然大きく空中へ飛んだ。
「おいアガレス!」
足下をアガレスのソウルイータがかすめ、唸りを響かせて大地を一閃! 半円を描いた衝撃波が敵陣の奥へと進む。
「あぶねーな。オレのハクセイができるぞ」
アスタルトが空中でクルっと廻りながら言った。
「ふん!」
大剣を大きく返して、二度目の衝撃波を打ち込むアガレス。
「ちょっとだけ、外れたな」
軽やかに大地に降り立つアスタルト。二メートルを越す獅子が笑う。
「ガハハ……オレのハクセイなら高く売れたのにな」
力を込めたアスタルトから、無数の拳が打ち出される。
『獣王百烈拳』
アスタルトを中心に、外へと弾き飛ばされる闇龍軍団。
二人が守るアイネのエナジィが、最大に高まっていく。
目を開いたアイネが右外へと手を空にかざした。
力の循環が始まり空中に巨大な魔法陣が描かれる。
大地から空の上から、稲妻が上下に走り魔法陣に吸い込まれていく。
アイネは掲げた右手を闇龍軍団へ向けて、その力を放った。
『ラ・シャイニングスパーク』
数千もの巨大な稲妻が、闇龍軍団に降り注ぎ、百人近い兵士達が倒れていく。
「さすがだな。エール騎士団の麒麟児」
アスタルトは呟くと、アガレスと共にアイネの前に戻って、強力な魔法を打ったアイネのクールタイムを守る。
二人が構えた時に。上空のフッラから敵の情報が響く。
「敵の分析が完了しました。敵の総数は十二万六千二百五十六名。我が軍の十倍以上です」