アイネの檄文
「行くのか……アイネ」
エール王が聞いた。
「事は急を告げています。急がなければなりません」
青い鎧ブルーウルヴズに、着替えたアイネ・クラウンが答えた。
「バアルは大魔王が治療してくれたが、もう一人の勇者は意識がない無理はするな」
エールの国王の言葉にアイネは嬉しそうに笑った。
「フフ、覚悟がない者を戦士とは呼ばない……前に王様から頂いた言葉です。私は特に苦労せず剣も魔法も使え、若くしてエールの騎士団長になりましたが、覚悟なんてありませんでした」
「でも全力で戦ってみたくなりましたよ。守るべき者の為に。召喚勇者アナトと転生勇者バアルの戦いに心を動かされました。異世界から来たあの子たちは全てに全力でした。そして傷つき倒れました」
久しく見ないうちに一段高い位置へと成長した、アイネにエール国王は感嘆し話を聞いていた。
「国家間の連合チームである、スペツナズのリーダーになったわたしには、この大陸を守る義務があります。例え身体が傷ついても、エナジィが砕けても大事な物を無くしても、ただ先に進むだけです」
「そうか。戦うことを嫌いエールの騎士団を抜けたおまえが、連合軍のリーダーとして、最大の敵である六頭竜と相対する。これも運命なのかな」
「はい……。それではエール王。行きます」
歩き出したアイネに付き添う、他のスペツナズのメンバーと各国の兵士たち。
大質量の瞬間移動であるジャンプをするための、巨大な魔法陣へ向かって、ツクヨミとスペツナズの四人が歩き始めた。
ゴース大陸では、瞬間移動を行う事は非常に困難で、しかも莫大なエネルギーを必要とした。その為、軍隊を輸送するためには、大出力の魔法陣に大量のクリスタルを使って、詠唱者のエナジィをブーストする必要があった。
スペツナズが率いる、大軍団の転送で使われるクリスタルは、エールを温暖に保つエネルギーの半年分に相当する。
「ジャンプの回路を開け! 目標、ドライグの神殿!」
アイネが目標地点を告げてジャンプの回路から、魔法陣へ青い光が送信され始めた。
強い光が何重も筋を引き輝く中で、五人はその中心へゆっくりと歩く。
五つの国から集められた、戦いのスペシャルエリートであるスペツナズ。秩序を守る者達。
イルの方を見たアイネが、歩きながら右手でイルに小さくサインを送る。
(アナトを頼みますね、イル)
「はい」
うなずくイル。
明け方までかけてバアルを回復させた大魔王ツクヨミの再生の魔法も、アナトを治す事はできなかった。魂を失い、消滅したエナジィを回復する魔法は存在しない。
ジャンプの為に陣形を整え始めた各隊から、アイネへの報告が行われた。
アイネは全軍の指示を行う為、エール騎士団の指揮はサージが執る。
サージ「エール。テンプルナイツ。五千名の出撃準備を終えています!」
フッラ「アークランド。エンジェルナイト。二百騎、準備完了です!」
アガレス「マスティマ騎士団。三千名。出撃可能!」
アスタルト「ヤム・ナハル。獣人軍。二千。いけるぞ!」
バアル「ドライグ。竜騎士。八百騎。出撃できます!」
総大将のアイネ・クラウンは後ろを振り返ると、全軍に向かい話を始めた。
「この戦いは、この後に起こる戦い“ラグナロク”の前哨戦である。勝つ事は無論、被害も最小限に抑える。そして完璧に勝つ!」
アイネから溢れだす強大なエナジは銀色に輝く。勝利への強き意思を持つ、総大将が強き言葉を続ける。この戦いの意味について。
「我々は赤龍王と闇の王の残存軍を併合した、アーシラトが率いる黒き軍団を倒す。残念な事だがアーシラトは我々と袂を分かった。何かを企む彼女はこのままでは“ラグナロク”への引き金をひいてしまう」
「その事が伝説にある神の神子の遺産を呼び起こしてしまうのだ。それは絶対に止めなければならない。恐怖が地上に立ち上がる前に、すべてに決着をつけなければならない。わたしに力を貸してくれ、白き戦士達よ!」
兵士達の怒涛のような声が全軍に響き渡る、その声に答えるようにアイネは王から申し受けた、エールの国宝エルヴンソードを抜いて頭上に掲げた。
「いくぞ! 全軍出撃!!」
強く光始めた魔法陣がツクヨミ達を戦場へジャンプさせた。