神人と闇の王
闇の王の宮殿の上空に、ポカリと空いたレンズがはめてあった天井。
「僕と貴方だけのようだね……」
少年の声が響く。
「さて、どうしようか。あなたが気にしている……あの子達」
地上からの光がさす。アナトに砕かれたはずの闇の王ラシャプがいた。
「僕をこんな所に封印して何をしてきたのか」
答えたのは美しいが人間味を感じない女。
「ここにお前を閉じ込めたのは、マスティマの意志でもある」
ラシャプは陰に隠れてシルエットしか見えない女に話しかける
「やっと、姿を見せたね。神人の使いエンジェル。ずっと僕を監視してたのは知っていたよ。僕への封印であったレンズを破壊されて大きな失態だね……どうも話しづらいな。君の名前は?」
「アークランド国の智の天使フッラ」
姿を光のもとにさらした、アークランドの智の天使は翼を持ち、白い鎧”バルキリーブレスト”に身を包むエンジェルナイト。空を飛び宇宙と交信する。魔法ではなくカガク、独自の技術による高い情報収集力と戦闘力を持つが、アークランドの人々は同じ顔、同じ姿をしており表情が伺えない。
「やっぱりアークランドの者か」
ラシャプは憎しみの感情を隠そうとしない。
「長きにわたってこんな場所に封印しやがって。マスティマや神人の意思などではない、お前たちの女王スユンの考えだろう? おまえらエンジェルは人間には関与しない約束のはずだ」
エンジェルは白い整った顔立ちとプロポーションで、天使のような翼と、高い戦闘能力を持つ、ゴースでも恐れられる戦士達。全員がコピーのよう、容姿も感情も極めて似ている。人間の世界には興味がない事が定説だった。
天使フッラが無表情で答えた
「大陸の平定が行われ平和が長く続くように、マスティマは私たちと同じエンジェルになった。しかし貴方は平和を壊そうとした」
フッラの奥にいる、何者かに話しかけるラシャプ、
「この世界で一番の力を持つ僕に、天の神子が残した遺産のカギとして閉じ込めた」
フッラの奥の者が呟いた。
「しかたがない。エンジェルは機械化されている。天の神子の遺産のカギにはなれない。そして現在の神人はかつて宇宙全土を席巻した、天の神子がこの世界に残った者で遺産を使う事は出来ない」
ふっ、笑ったラシャプは闇の王というより、純真無垢な少年の表情を強くする。
「知っているよ。マスティマは僕の母親だ……」
ラシャプは母から自分に残された天の神の記憶を語った。
三十年前にこの世界を収めたのは、ラシャプの母マスティマで天の神子の直系の子孫だった。
太古の時代に天の神子は六頭龍を殺し世界を改変した。そのことは反対派を生み、贖罪の為にこの地に残ることにした者が現れた。天の神子の永遠の身体を捨て、輪廻転生により世界を見守る事にした。
しかし天の神子に戻ろうとする者が増え、神人へ姿を変える。
マスティマはそれに反抗して戦いを起こした。もっとも天の神子の血が濃いマスティマの扱いに困った神人は「大陸の者たちを皆殺しにする」という脅しで、マスティマをエンジェルに改造した。
「だが、マスティマは託したんだ。天の神子の遺産を母さんの血を引く僕にね」
エンジェルのフッラが静かに言った。
「仕方が無かったのだ……この世界に破滅的な影響を与える因子が、混じってしまった」
ラシャプがフッラの奥の神人に確認する。。
「ふん、転生勇者の事か。事の起こりはアナトの父親の出現だよね。異世界からの転生勇者は神人でも推し量ることが出来ない存在。それで僕に殺させた……でもね、勇者は二人になってしまった。おかげで僕は二人の勇者の力で自由になれた。また消去したいわけ神人は? つまり、この世界をゼロからやり直すと? でもこうなったのは無理やり歴史を改善した神人おまえたちのせいだ!」