闇からの脱出
闇の王がアナトが起こした漆黒の超新星に、飲み込まれ消えた後、アナトは剣を大地に落とし膝をつき横に倒れた。
見開かれたその瞳からは、エナジィと心が完全に消えていた。
アナトの身体はただ細かく、痙攣を繰り返すだけだった。
「アナト! 大丈夫か?」
ダゴンが懸命に走り、アナトを胸に抱きかかえた。
「声が聞こえた……父を殺める悲しい声が」
ダゴンが声の方を見ると、死んだ筈のバアルが立ち上がっていた。
背に巨大な竜のエナジィがゆらりと映った。バアルの緑の鎧が姿を変えていく。
鋭い鱗の破片のように表皮が割れ始め、新たに結合を繰り返す。
二メートルもの大きさになったバアルは、翠色の翼を携えた。
「竜の第三段階!? 究極のドラゴンウォーリア。そうか……バアルも六頭龍の力を継いだ。だから、窮地を越えた時に新たな力を得たのか」
ダゴンが呟き、超新星とバアルが起こす、暴風の中でアナトをしっかり抱きしめた。
「ダゴン。アーシラト。ここは頼む」
ドラゴンウォーリアになったバアルが飛び立つ。
「バアルその姿は……何をしようとしているの?」
イルがドラゴンウォーリアになったバアルに聞いた。
「闇の国を出る。封印のレンズを破壊する。アナトのエナジィとともに」
バアルは答え、空中へ飛び上がった、高く、天井を目指して。
アナトが起こした巨大な重力は、漆黒の球体を造り出す。
音を立てて、闇の国の黒き紫の空を、石の砂を吸い込み始める。
上昇して天井にはめられている、巨大なレンズにバアルが必殺の掛け声。
『最大必殺! ドラゴンブレイク!』
龍のパワーがアナトのエナジィが、巨大なレンズに吸いこまれた。
「ダゴン! こっちよ!」
アーシラトが叫ぶ。天空のレンズが粉々になり、闇の王の間の天井が崩れ落ち地上の光が見えた。
動かないアナトを抱えたダゴン、が側に来たのを確認して、イルが魔法を唱えた。
『光よ我らを守りたまえ ラ・ライトボール』
五人を囲う、光の球体が出現した。球体は揺れながら上昇を始める。
立ち込めていた闇の空間の全てが、アナトの造り出したブラックホールに吸いこまれ、空間すら歪ませている。
完全に消滅しようとする闇の王の神殿から、五人を乗せた光の球体が、地上に向って登っていく。
アナトの超重力が造り出した漆黒の重力は破壊を続け、砕けた岩の破片、たくさんの土砂が舞い上がり続けていた
地上へ昇った五人の前に、巨大な影が悠然と立つ。
「遅刻だな、アーシラト」
そこには大地にブルトガングを突き刺し、赤龍が腕を組み立っていた。
振り返り赤龍王が獣王に聞いた。
「どうするアスタルト? もう約束の時間になったらしいぞ」
よろめきながら立ち上がった、アスタルトは血を吐きながら、フッと笑った。
「まだオレ達との遊びが終わって無いぞ、赤き王」
「なんて酷い。待ってて!」
イルは血だらけのアスタルトに駈けよって、大きな獅子の身体に回復魔法を唱え始めた。
「お嬢ちゃん、有難う。だが悪いがオレより、黒き騎士を助けてやってくれないか?」
アスタルトを見るイルに優しい瞳で獣王が頼んだ。
獣王の言葉にイルはアガレスの側へと走る。
それを見た赤き王がブルトガングを、イルに向け振り上げ落とした。