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漆黒の勇者


 「無駄だ」闇の王の静止の言葉で攻撃を止めたアナト。

  全身から力が抜け、だらりと手が降ろされた。

  瞳からは勇者の蒼のエナジィが消えかかっていた。


「報告します。敵が沈黙。敵のエナジィ残量4%」

 勇者アナトに反撃の力など無い事を、シャヘルに伝える、耳の貝殻からのラバーズの声。


「さあ青い瞳の勇者。気は済んだかい? その綺麗な身体を傷つける真似はやめたまえ。無駄な行為なのだから……」


 ラシャプの言葉が終わらないうちにアナトが呟いた。

「フフ。もういいかな? お父さん……」


 アナトの地の底から聞こえるような暗い言葉に、闇の王の身体がゾクッと震えた。

(な、なんなんだ、この感じは?)


「もういいかな……お父さん……許してくれるかなぁ……」

 独り言を呟くアナトに、生まれて初めて体験する、感情が湧き闇の王は平静さを失う。


「勇者……君は何を言っているのだ!? もういいから僕の前から下がれ。早く仲間に治してもらうがいい」


 アナトの全身から真っ黒いエナジィが立ち始めた。

「お父さん、殺してごめんね。私の血と肉と骨、そして心で許してくれるかな?」

「うっ」

 闇の王の座る、空中に浮いた大きな椅子が揺れる。

 黒く泥水のようなアナトのエナジィが噴出していた。


 たじろぐ闇の王の前で、ゆっくりと超重量の剣、昴を骨が見えるグチャグチャの右手で握るアナト。

 その瞳は蒼では無くなっていた。黒、いや、底の見えない闇の色に代わり、漆黒のエナジィが全身から濁流となって流れ出す。


「危険です。敵のエナジィが変色。保持量は1000%に増加し、さらに増え続けています」

 ラバースからの警告を聞きながら、闇の王ラシャプは恐怖を抱き、アナトを見た。


「お、おまえは……その力はなんなんだ!?」


 闇の王を見る、感情を失ったアナトの瞳の中には、漆黒の濁流が溢れる。

 空中へ飛び上がり、連続で闇の王に斬りつけるアナト。


 シールドを激しく叩くアナトの剣の音が続く。

 完全に恐怖に捕らわれた闇の王だが、守りは鉄壁のはずだと自分に言い聞かせる。


「そ、そんな攻撃では、このシールドは破れない」

 ラバーズの現状報告が聞こえた。

「警告。現在シールド損傷率88%。九千枚のシールドが破壊されました」

「な、なに!?」


 空中に浮かぶ闇の王の目の前で、アナトが底の無い暗い瞳で口元をゆがめる。


「ばかな。この世界で一番に優れた僕が恐怖だと? 未来を創る僕が死を感じていると?」

「緊急。シールド、残り二十秒でロストします」

「バカな!」

 ラバーズの声に、椅子から立ち上がる闇の王。そこに死神となったアナトの叫び声が聞こえた。


『星々よ新たな光を求めよ 超新星スターバースト』


 強烈な重力のエナジィが、闇の王のシールドを砕き始めた。

 立ち尽くす闇の王ラシャプ。

 漆黒の超新星は、そのまま椅子ごと、闇の王まで砕き始めた。


「ばかな、ばかな! 僕が負けるわけないんだ!」

 アナトのスキルが、その言葉すら粉々に砕いた。


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